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人間不適性試験7

 その下をくぐり抜けて建物の中へ。

 殺風景な入り口の奥には、これまた殺風景なコンクリート打ちっぱなしの狭い廊下が続いていた。


 「行け」

 前後を兵士に囲まれ、銃口で押されて先へ進む。

 一本道なんだから一々指示されなくても分かる――思わず出かかった言葉をぎりぎりで飲み込む。あまり不要な挑発はするべきではない。


 廊下は何度か折れ曲がり、いくつ目かの扉をくぐると、それなりの広さのあるスペースに出た。

 今度は意味のある指示=その部屋の奥に設けられた荷物用と思われるエレベーターに乗せられて、再びの頭陀袋。この先は順路を知られるとまずいのだろう。

 重々しい音を立ててエレベーターが降りていくのを、体にかかる重力とその音とで察しながら、嫌に長い気がする暗闇で突っ立っていると、横の兵士たちが無駄口を叩くのが時折聞こえてくる。

 誰かタバコ持っていないか?たまには休みが欲しい――取り留めのない会話。もしかしたら脱走したという先駆者はこういう所から付け入る隙を見つけたのかもしれないが、今の俺にはそこまで上手く立ち回る頭も口もない。


 それから少ししてエレベーターは停まり、再び銃口が背中を押して道案内を始める。

 いくつか扉の開く音――恐らく自動ドア。

 そして何者かへ、先程タバコを探していた兵士の声が報告する。

 「傭兵部隊の捕虜を連行いたしました!」

 「ご苦労。中へ入れろ」

 恐らく上官だろう声がそう言うと、今度は手で扉を開く音。それと同時に頭陀袋が取り払われる。


 「失礼します」

 タバコの声が扉の先に投げかけられる。

 どうやら俺の耳は正確に機能していたようだ。奴の横には制帽に軍服姿の男が一人、俺を胡乱な目で見つめていた。

 奴から目を離して部屋の中へ。同じようないで立ちの――しかし階級章はもっと多い――軍人が一人、狭苦しい取調室の中で待っていた。


 刑事ドラマで見るような狭い部屋。横の壁にかけられている鏡は恐らくマジックミラーだろう。部屋の中央に置かれたテーブルと一対のパイプ椅子までそれらしい代物で、後は目の前の軍人が故郷の母親の話でもしながらかつ丼出してくれれば完璧と言ったところだ。


 「座り給え」

 だが、刑事ドラマはそこまでだった。

 彼は俺の顔を見るとただ一言そう言って下座側の席に俺を座らせると、連行してきた兵士に視線で合図して扉を閉めさせる。

 室内には目の前の軍人と扉を閉めた兵士。そして俺。

 軍人は何かのファイルを開きながら俺の対面に腰を下ろす。

 ――じろりと奴の眼。

 馬鹿にしたような、或いは値踏みするような、直感で仲良くはなれそうもないと理解させてくれるそれ。


 その眼の下にある口が、大柄で筋肉質な体からは意外な粘つく声を発した。

 「名前は?」

 「そのファイルは飾りか?」

 挑発はするべきではない――だが、これまでの兵士たちの態度と、目の前の男の目つきが気に入っている訳でもない。

 「お名前を、閣下」

 負けず劣らずの慇懃な口調が返ってくる。

 まあいい。一言憎まれ口をたたいたことで少し満足した。


 「桂冬馬。認識番号22304151」

 すらすらと番号が出るのはマキナのお陰――というより、マキナの製造番号がそのまま俺の認識番号になっていた。

 その答えの後のその男の顔は素直に驚くべきものだった。


 「どうも」

 彼は一瞬で人のよさそうな笑顔を浮かべていた。もし最初からこの顔で接して来たら、或いはこの状況でなければ質問に素直に答えようと思わせるような、温和な表情だ。

 「さて、規則で手錠をしてもらっているが、そんなものは窮屈だろう?だから早く終わらせちまおう」

 そう言った時の表情もまた、にっこりと微笑さえ浮かべている。


 「バードンの顧客リスト。どこにあるのかを教えてほしい。君は知っているだろう?」

 バードンの顧客リスト――初めて聞く単語だが、マキナは知っていると告げていた。そしてそれが、今回守るべき秘密であるとも。

 「知らない」

 「知らない?本当に?よく思い出してくれ」

 男が僅かに身を乗り出す。

 ああそうさ。思い出すも何も、今そらでいう事だってできる。


 「……いや、分からない」

 「ふぅん。そうか」

 男の体が元の体勢に引かれ、同時に机の下に入っていた手が素早く動いた。

 机が凄まじい音を立てて跳ねる。天板の裏から引き抜かれた警棒が、眼にもとまらぬ早業で叩きつけられていた。

 その耳障りな轟音に劣らぬ声で男が叫ぶ。

 「舐めるなよ。知っていることを吐け!!」

 「てめえの口は臭え」

 もう一度警棒がうなりを上げた。


 「俺は何も分からない。何も知らない」

 だが何度暴れようと、俺の答えは同じだ。

 テーブルが再び耳障りな音を立てる。蹴り飛ばされた椅子が吹き飛ぶ。肉食動物のような獰猛な目が正面から俺を睨みつける。

 「本当に何も知らない。本当だ」

 今度も警棒がうなる。ただし殴られたのはテーブルではない。


 「ぐぅっ!」

 思わず声を上げる。顔ではなく首を狙ったのは――そして手加減したのは――話す能力を奪わないようにという事だろう。

 「舐めるなよ。貴様は傭兵だ。金で買われた汚らしい犬コロだ。くそったれのジュネーブ条約は関係ない」

 まだ痛みが主張を続ける中でその言葉が浴びせられ、それから一転して穏やかなものに変わる。

 「正直に話すんだ。そうすれば、手荒なことはしない」

 良い警官モードに入った。ご丁寧に警棒をくるりと逆手に持ち替えて危害を加える意志はないとアピールしている。


 「……何も知らな――ぐっ!!」

 逆手から順手に持ち替える動作で加速した一撃が再び首へ。良い警官モードから悪い警官モードへ。

 奴は殴られて大きく揺れた俺の胸倉を掴むと、顔面に警棒を強く押し付ける。

 「貴様の代わりはいるんだよ小僧。あまり俺を怒らせるな」


 「……」

 なら今度は黙秘だ。

 拷問を受ける状況になった時、言葉巧みに相手を騙したり、あえて屈したふりをして偽情報を流し混乱させるなど――するべきではない。

 というのは、向こうはプロだからだ。殺すギリギリのラインでの拷問を心得ているし、相手が嘘をついているかどうかも分かる。当然心理的駆け引きについても長けている。そういう相手に嘘の情報を渡そうとした場合どうなるだろうか?

 故に、捕虜がとるべき対抗手段は彼等との知恵比べではなく、答えてもいい情報=氏名や所属、生年月日を素直に吐いて、後は黙秘を貫くことだ――以上マキナの対尋問マニュアルより。


 そしてそのマニュアルは、ここでは一応功を奏したようだ。

 「……ふん」

 奴は俺から手を放し、扉の前の兵士に目をやった。

 「こいつを連れていけ。ゆっくり慣れてもらおうじゃないか」

 「はっ」

 兵士は俺を立たせると、再び世界が真っ暗になった。


 「新居へようこそ」

 嘲った声と共に暗闇が取り除かれたのは、これまた少し歩いた後だった。

 部屋――というより何もない空間の中に立っている俺。その背中を誰かが小突く。

 「!?」

 思わずスッ転びそうになったところで別の兵士に捕まり、そいつが俺を部屋の奥まで引きずっていく。

 「座れ」

 指示しつつも実行を待つ気はないようだ。足を蹴って膝を折らせると、両膝をそうさせてから、手錠を外した両腕を掴み上げる。

 その両腕を天井の鉄骨の梁から下がっている太い鎖につながれると、ちょうど寝ている姿勢から腰から上だけが引きずり起こされたような姿勢になった。


 「そこでゆっくりしてな」

 兵士たちがそう言って、反対側=さっき頭陀袋を外された場所のすぐ後ろの扉から出て行った。

 「くっ……」

 いつまで続くか分からない拘留。

 それがたった今始まった。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません。

今日はここまで。

続きは今日の夜に

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