人間不適性試験1
車は東琉球市を離れ、東人連支配地域との境界線近くまで移動する。
南国の高い木々に隠れるようにして放置された小さな廃工場までやってきて車は停まった。恐らく臨時で用意されたセーフハウスなのだろうということは、その荒廃振りからすぐに察した。
「よく来てくれた。まずは無事で何よりだ」
その廃墟一歩手前――境界線は無人か否か――で出迎えてくれたのは、我らがボスその人=ここまで乗ってきた車の燃料代を持ってくれるパトロン=ビショップさんその人。
いつものようにキングさんを従え、俺たち全員を迎え入れるとセーフハウスの奥へ。
彼に続いて進むと、意外なほど中は整えられていた。
「盗聴については対策済みだ。さて……」
小さな会議室で俺たちに席を勧めながらそう切り出す。
「本当ならしっかり休んでから……と言いたいところだが、生憎そうもいかない事態だ。済まないな。それと――」
改めて全員を見やるブルーの瞳。
「――本当に君たちが無事でよかった」
それが本心か、或いはリップサービスかは分からない。
だが、それはもうどうでもよかった。
彼から話を引き継いだキングさんの説明の方が俺たちには重要だった。
「まず、今回この地に派遣されていたコントラクターの背任行為と皆さんが関わったあの男、そして今後の皆さんの立場についてご説明いたします」
「立場って……」
その言葉が最も強く引きつける。
俺たちはただ裏切られただけ。奴にいいように利用されていただけだ。
マキナによるコントロールで既に落ち着きを取り戻している頭はそれを理解している。
今必要なのは一体何が起きていて、何が本当であるのか。
そして一番大切なのは、稼働中のBMSとマキナによる疲労感軽減と精神制御ではない本当に落ち着くことだ。
「単刀直入に申し上げます。今回のフリッツ・リーの一件。あれはあの男の単独犯ではないと、我々は考えています」
俺たちは互いを見合わせなかった。
それをする必要は最早ない。全員の意思はそれより別の事に向いている――今の言葉が意味すること=他にも裏切り者がいるという事に。
「先程、別動隊によってあの男と内通していた南洋同盟幹部を拘束、彼の元から事件の背後関係を解明できる可能性のある資料を入手したとの連絡がありました」
そう言って俺たちの前に置かれた端末を操作するキングさん。
端末の上=机の中央に浮かび上がる、髪の毛の後退した中年の男。
「この男は比嘉颯太。南洋同盟の幹部であり、今回のアジャーニ暗殺のためにリーと内通していた男です」
南洋同盟=反体制武装勢力の幹部というその肩書に似合わない雰囲気のその男を改めてよく見る。
よく言えばくたびれたオッサン。悪く――と言うより実情に即していえば昼間から飲んでいるタイプのダメ人間のような雰囲気を醸し出す中年~初老位のその男の、厚ぼったい瞼の下の眼がこちらを見ていた。
「で、この男が何か?」
疲れた様子で息を吐きながら尋ねる角田さん。
それに応じるように更に説明を続けるキングさん。
「当初我々は、この男がリーと内通しているだけだったと考えました。ですが、実際に別動隊が調査を続けた結果、他にも弊社内にこの男、ひいては公社と内通している者がいる可能性が浮上しました」
公社と内通している者がいる可能性。その言葉を頭の中でしっかりと咀嚼する。
「勿論、君たちがそうだと言っている訳ではないよ」
付け加えるビショップさんの言葉が静まり返った室内に響く。
公社との内通者、内部の裏切り者――その情報は、彼のその言葉よりもしっかりと脳に残り続けている。
「今回、別動隊はリーを、そして彼と行動を共にしていた皆さんを監視していました。実のところ、皆さんが彼と合流した時点ではまだ皆さんが背任と無関係であるという確証が持てなかったためです」
「なら、いつ明らかになったんです?」
「監視中に奴の背後関係を洗いましたが、その時には既に皆さんが無関係である可能性は強まっていました。しかし決め手となったのは最後のあの瞬間です。彼がもう一人の生存者を始末した時、私たちも生存者がもう一人いることは知りませんでした。あの一件を見ていた別動隊の隊員が、皆さんが無関係であると判断し、脱出支援を行いました」
あの時狙撃してくれた人物が俺たちの潔白を証明してくれていたようだ。つくづくありがたい話。
そしてそのありがたい話に一番食いついたのは――そのありがたい支援者に何度も呼びかけていた――クロだった。
「彼女は!?彼女は本当にシロ……白河歩美なんですか!?」
彼女の発したそれが、あの支援者の名前なのだろう。
何故彼女が知っているのかは分からない――そして何故自身と同じようなあだ名で呼んでいるのかも。
「残念ですが――」
キングさんは、それが決して言葉の上だけではないと言った様子で続けた。
「コントラクターのプライバシーに抵触する内容ですので回答できません」
「そう……ですか……」
言葉の上だけではない申し訳なさそうな様子。
しかし同時に、それを覆すことはできないと思わせる言い切り。
それを受けてしずかに引き下がったクロの様子は、今日もっとも途方に暮れたと言った様子だった。
そして思い出す。コンビニで彼女が語った、何故傭兵になったのかを。
友達を探している――彼女がこちらに来た理由。
あの定期入れに入っている写真の少女がそのシロ=白河歩美という人物なのだろうか。
そう言えば、あの支援者も声を聞く限り女だった。
彼女らがどういう関係で、ここまでクロが追ってきているのかは分からない。
だが、もし本当に友人だったのなら、何故その支援者=シロ(仮)はあの時彼女の呼びかけに応えなかったのだろうか。
何らかの理由があって応答できなかった?
或いは――応答したくなかった?
それは結局分からない。他人の事を詮索するべきではない――今は亡き前隊長の方針はしっかり受け継いでいる。
「……少し、話は逸れるが」
落胆するクロの様子を見たか、ビショップさんが口を挟む。
「その問いに答えられる方法がない訳ではない」
(つづく)
投稿遅くなりまして申し訳ございません
今日は短め
続きは明日に




