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三日会わざれば27

 ショットガンの銃口がこめかみから顔へと移る。

 「早い所終わらせようミスター比嘉。君だってここで俺たちと長々話していられるほど暇ではないだろう?」

 彼の立場=組織が匿っていた食客を敵に売り渡した裏切り者。

 本来なら一分一秒も無駄に出来ない状況だ。

 その状況で自らのセーフハウスの地下室で椅子に縛られながら、彼の口は絞り出すように答えた。

 「……無理だ。何故そんな事を聞く?」

 ふん、と鼻で息をつく隊長。一瞬銃口が奴から離れて天井を向く。


 「二つ目については、お前たちの交友関係について興味があるからだ。ここまでの調査であんたら南洋同盟とアジャーニはザウートのブラックマーケットでの取引で知り合ったという事は分かっている。だが、あそこの顧客はお前たちだけじゃない。そこで、お前たちの共通の友人を何人か紹介してほしい。……まあ、単刀直入に言うと、うちの人間があそこに出入りしているかどうか知る必要がある」

 それは、私たちがここに来た理由の一つだった。

 ザウートで回収したあの端末。現在も硫黄島で専門家に引き渡し解析中ではあるが、現段階で分かった情報をその専門家が報告してきたのだった。

 ――だが、分かったのはそこまでだ。端末のデータの大部分のセキュリティは被害妄想的なまでに厳重で、錠前屋=ハッキングを専門にする専門業者ですらも手を焼く代物だった。

 故にその僅かな情報をもとに私たちはここに派遣されてきた。解析が失敗した場合の保険として。


 「……しかし、時間の無駄になってしまったな。お前の一つ目の言葉で」

 隊長がため息。同時に天井を向いていたショットガンのハンドグリップが音を立てて前後する。

 「ひっ……」

 比嘉の悲鳴がそれに混じる。

 こけ脅しではない。引き金を引けば、装填されているダブルオーバック(鹿撃ち弾)が鹿の代わりに比嘉の頭を吹き飛ばすだろう。


 武装勢力の幹部とは思えない情けない顔でその凶器を見上げている男に、隊長が慈悲を示す。

 「だから、あんたから聞き出そうとは思っていない。ネタは上がっているんだ。あんたらとうちの人間の取引記録だけもらえればそれでいい」

 ネタは上がっている――嘘ではない。今回フリッツ・リーが請け負ったアジャーニ暗殺が、そもそも同じルートでやり取りされた事は掴んだのだから。

 もっとも、それがついさっきの出来事で、奴の単独犯ではなかった場合=クロたちも共犯だった場合にはあの場にいた全員を殺すことまで計画の中にあったのだが。

 まあ、それは置いておこう。


 「む、無理をいうな!あれは……もしあれがバレたら俺は終わりだ。南洋同盟の処刑がどういうものか知っているか!?裏切り者がどういう目に遭うのか!」

 自業自得だと思うのだが、それでもそう簡単に諦められないのが人間という事なのだろう。

 だが勿論、それで許すのなら端からここには来ていない。

 「なら、やっぱり今死ぬか?」

 隊長が再びショットガンをインタビュアーのマイクのように口元に突き付ける。

 ――その瞬間、奴の表情が変わったのが分かった。


 直感:奴は恐怖がオーバーフローしている。

 人間が感じる恐怖は様々な分野と強度があるが、多くの場合、それが慢性的になると人は慣れてしまう。

 克服することが出来なくとも、初めて味わった時よりもショックに鈍感になる。

 そしてそうなった時、人は恐怖を己に味あわせている相手への憎悪を抱くようになる。

 この短時間に、奴はそれを経験しているのか――或いはただ単に、死の恐怖が強すぎておかしくなっているのかは分からないが。


 「へっ……へへっ!」

 何となく後者なのかと思うひきつった笑いを漏らし、大きく開いた目が私たちを往復する。

 「お前ら、俺が馬鹿だと思ってんのか!?ええ?舐めんじゃねえぞ。俺を殺したらお前らの目当てだって手に入らねえんだからな!少し考えろや」

 自分の予想への手応えを感じつつ室内を簡単に物色する。

 奴を縛り付けている椅子を部屋の中心に置いているが、元々はここに使うものだったのだろうデスクが部屋の隅に配置されている。

 机上には50口径のオートマチックハンドガン。使用した形跡のある注射器が数本。それに古いエロ小説――「僕たちの秘密」「孤児院にて」「少年と体育倉庫」「大人のなり方」


 フラッシュバック:つい先ほどこの家に突入した際、部屋の中には私よりも年下の、恐らくは中学生ぐらいの少年が数人屯していた。

 みんな細身で化粧をしており、全員が丸腰で虚ろな目をこちらに向けたままぼうっとしていた。

 誰も抵抗せずに拘束され、今は一か所に集めて仲間が監視している。


 「……」

 机の横、古い粗末なベッドに目を移す。枕元に並んだ特大の張り型とローションの空きチューブ。

 身震い。嫌悪感。そして軽蔑。


 「おいどうした?このガキビビってんのか?」

 イニシアチブを握ったとでも思ったのか、比嘉がやに臭い口をこちらに向ける。


 再度直感:こいつは私の想像した内容を知っている。

 ほぼ確実な推測:その想像は当たっている。


 「ッ!」

 隊長と目が合う。彼が自分の左肩に手を置いて二回たたいた=やむを得ない。“あれ”を使え。

 私は奴の机の上から――他のものに間違っても触らないように注意を払いつつ――ハンドガンを拾い上げて奴の前に。

 「お?どうした?へへっ、俺はお前みたいな乳臭いのは好みじゃない――」

 ああそうでしょうよ。あんたの好きなのは中学生ぐらいの少年だろうから。

 奴のズボンの上から股間を叩く。

 「!?」

 「こっち()の方が立派そうですね」

 ひらひらと奴の銃を奴自身に見せつけると、間髪入れずに隊長が応じる。

 「分からんぞ。何しろ“実績はあるからな”」


 腐っても幹部。まるきり完全なバカじゃない。

 彼のその言葉の意味はしっかり理解していたのだろう。

 「……なんだと?」

 しっかりとこれから使う手が効果的であることを示してくれるリアクションだ。


 「見せてやれ」

 「了解。どうぞ」

 私は奴の前に一枚の封筒を見せ、マジシャンのようにその中身を取り出して示した。

 写っているのは小学生ぐらいの子供。つい最近撮られた、自身が被写体になったことに気づいていない写真。


 「……ッ!!!」

 ショットガンを向けられた時以上に奴が青ざめる。

 「……もう一回聞くぞミスター比嘉」

 静かに、確認するように言葉を発する隊長。

 「取引の記録はどこにある?分かるように話すんだ」

 自分を見上げる相手にダメ押しの一言。

 「俺たちがこの坊やの所在と同じぐらいに分かるように教えてくれ」


(つづく)

このところ短めの更新が続いて申し訳ありません

今日はここまで

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