FNG10
取りついたガレージはシャッターがしっかりと閉じられ、他に侵入できそうな窓等はない。
頭の中に浮かぶ提案:シャッターを切って侵入するか?
幸い2090年の科学力はアイロンのような大きさのエンジンカッターを兵士のリュックに忍ばせられるぐらいには進歩している。そしてその作動音は、現代のものに比べれば電動カミソリと間違える程に静かだ。
「……いや、駄目だな」
だが却下。
作動音自体が静かであっても金属のシャッターを金属製の刃で切断する際の音までは無音にはできないし、ガレージの中が確認できない以上無闇に武器を手放して作業するべきではない。中には武装した複数の敵がいるかもしれないが、こちらには作業中は手が塞がる一人しかいないのだ。
なら次の手は……そう考えてガレージを離れる際に、その外壁に走る電気配線を見つける。それを目で追って、壁の中に入っているのを確認。突入の際にはこれを切ってやろう。
目星をつけたそれのある壁を回ると、今度は大きな窓が現れる。フランス窓と呼ばれる、観音開きで人の出入りができるタイプのそれは、厚手のカーテンが設けられてはいるが隙間から中の質素で無人の客室を除くことが出来る。
行けるか――瞬時の逡巡。視線が窓の下の植え込みに移り、直ちに却下。
僅かに見えたワイヤーがその植え込みの中に沈み込んでいる。
その窓をかわした先は建物の裏手。進入できそうなのは裏口だけ。
「……」
足音を殺してその裏口に近づきそっと手をかける。鍵は掛かっていない。
突入――の最後の下準備=さっきの配線に戻り、リュックから取り出したプラスチック爆薬をひとかけら巻き付け、安全圏まで下がる。
それから暗視装置を用意して、デジタル処理された目で起爆装置を確認する。
「fire in the hole」
二階の窓から漏れる光を見上げて起爆。
ひとかけら故の警告の必要がないぐらいの小さな破裂と、一瞬だけ散った暗闇に光る火花とそれに合わせてふっと消える光。成功だ。ライフルに持ち替えて油断なく裏口へ。セレクターをセーフティーからフルオートへ。
「!?」
扉に向かう最後の角で足を止める。
扉の音はさっきまで全身を耳にしていた体には良く響く。
数は二人。こちらに近づいてくる。
「……」
やるべき事が高速で脳内を駆け巡る。火花が出そうな程のそのスピードに比べてゆっくりと、ナイフを引き抜いて逆手に持つ。
足音は少しずつ近づいてくる。
ライフルから手を放してスリングに任せる。
「……」
先頭の影が僅かに角から出てくる。
――ここだ。
「ッ!?」
通り魔のごとき一撃。逆手のナイフを一人目の喉に突き立てる。
そのまま相手を突き飛ばして、何が起きているのかを咄嗟に理解したのだろう、こちらに向けようとしたもう一人のライフルの銃身を上から押さえつけて懐に飛び込む。
「ぐっ!!」
そのまま投げ倒し、一人目の首から引き抜いたナイフをもう一人に流用。
音もなく二つの命が地上から消える――実戦なら。
ゴムナイフをしまい、助教二人を越えて裏口に張り付く。
隣の窓から中を確認――人影は2つ。人質は見えない。
音を立てずに扉の前へ。出発前に見た地図が頭の中に蘇り、それがこの扉が部屋の中央にある事、部屋の広さは12畳程度であることまで、九九でも諳んじるように浮かび上がってくる。
片手にライフル。反対の手には手りゅう弾。
手りゅう弾のピンを抜く――それから1秒で扉を微開。
それから更に1秒後に転がし込む。
心の中で3秒のカウント。2と3の中間頃に中から破裂音。
「ルームクリア」
扉の中に滑り込む。訓練用手りゅう弾は、しっかりと標的二つを倒している。
ストックを畳んだライフルを構えて部屋の奥へ。扉の正面やや右に伸びている廊下へ進路を取り、慎重に中を覗いてから足を踏み入れる。
「ッ!!」
一歩目と同時に人差し指が動いた。
突き当りの部屋の扉が開き、銃を向けた兵士と対面。
「コンタクト!」
銃声がその声に重なる。胸と顔面に一発ずつ叩き込んでから、それが人ではなく標的だと気づく。
「タンゴダウン」
撃ちながらも足は止まらない。
銃声が響いた以上、建物内にいる敵全てに場所がバレたと考えるべきだ。
突き当りの部屋に差し掛かった瞬間に気配を感じて反射的に振り返る。
これまた同時――箒で掃くような軌道で銃口を向けるや否やの射撃。鉛玉が一発、突っ込んでくる軍用犬の口に飛び込み、消化のプロセスを高速で貫いていく――実際ならば。
レールを疾走してきたその標的が倒れたのを確認してから、最初に撃った標的の小部屋を改めて確認。
「ルームクリア」
静かに口の中で響くその言葉を次に向かう音頭にして犬の標的を越える。
廊下は狭い。その狭い廊下でぎりぎりの半径を通って、ライフルのグリップエンドで飛び出してきた標的を殴りつける。
そのまま棒術のように手の中でライフルを持ち替え、手の左右を入れ替えた状態で右の小部屋をチェック。通常通り右手に持っていれば全身をさらけ出すことになる。
その危険を冒すことなく、部屋の奥にいた標的を撃ち抜いてクリア。直ちに元に持ち替えて、この廊下の突き当りの部屋へ。最初の部屋とは違い、部屋の端の入り口をくぐると同時に待ち伏せを受けた。
「ッ!!」
声を発する間もなく応戦。
視界に現れるのは二人の敵兵――そしてその間でホールドアップしているスーツ姿の男。
「おおおああっ!!」
そしてそのスーツを盾にして、左右の二人に銃口を向けかけた俺に向かって突っこんでくる、マチェットを持った助教が一人。
右の一人を撃ち、直ちにライフルを頭上に掲げて斬撃を受け止める。
「ぐうっ!!」
突進と振り下ろしのインパクトは凄まじい。
だが、何とか倒れないように踏ん張れば、今度はこちらにチャンスが巡ってくる。
助教の足は踏み込んだ形のまま。攻撃を受け止められたことを理解して次の動作に入る前に決着をつける必要がある。
「らあっ!!」
唐竹割りを受け止めるために半歩前に出した足に力を籠める。前に踏み込むようにして後足のつま先を相手の股間に突き刺した。
「!?」
プロテクター越しでもダメージはある。前のめりに助教が崩れ――その瞬間、入り口とは対角線上にあった登り階段を下りきったもう一人と目が合った。
状況:向こうは手にしたライフルをこちらに向けている。こちらは倒れ込む助教が俺のライフルごと抑え込んでいる。
殊勝なテロ屋――勝利のための尊い犠牲。
「ちぃっ!!」
だがそうはいかない。
ライフルから手を放し、やや右半身を捻って右手を自由にすると、腕を落とす動作の線上にあるホルスターからセカンダリーを抜いて同時に3発。内訳=2発を胸に、1発残っていた標的に。
もっとも、それが全弾命中したこと、そしてそれが相手の指が引き金を引き切るよりも速かったことを知ったのは、倒れてなおこちらを撃とうとするその助教にとどめの一発を叩き込んだ時だったが。
しがみついてきたもう一人を蹴り剥がしてからこちらにもとどめの一撃。プロテクターの上から訓練弾で撃っているため怪我はしないが、決して痛くない訳ではない。
もっとも、それはこちらとて同じことだ。斬撃を受け止めたライフルの動作確認を行ってから階段へ。
これまでの廊下と同じ幅のやや急なそれを登り始めた瞬間、一番上に標的が現れたのを認め、咄嗟に目の前の段差にうつ伏せに倒れ込んだ。
プロテクター越しに衝撃。しかしそれで止まる訳にはいかない。
倒れながらライフルの引き金を引き、回避と反撃とを同時に行う。顔を上げた時、的は既に無くなっていた。
すぐさま起き上がって階段を駆け上がり、今度は的のあった最上段に達する前、2階の床の高さに頭が来たところで、後方に伸びている廊下を振り返る。
一定の距離で並んだ手すりの支柱。その隙間からのUGVとの銃撃戦。投射面積の差が勝敗を分けた。
ラジコンカー程度の大きさしかない小型UGVでは、ちょんまげのようにして拳銃を乗せるだけの改造がやっとだ。当然ながら銃弾を弾くような装甲を纏う余裕はない。
破壊したそれを――念のため爆発を警戒しながら――超えながら、頭の中の見取り図を広げる。目の前にある扉は、壁の向こうの部屋の中央で出入りするためのもの。そしてその部屋の奥にはもう一部屋、同じようにして繋がっている部屋がある。
ここまでの様子からして、人質がいるとすればそのどちらかだ。
(つづく)




