表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/382

三日会わざれば20

 「待て、止まれ!」

 駐車場の出口付近でようやく追いついて捕まえる。

 すぐ横のトラックから吹き上がる黒煙が目に染みる中で、しかしフリッツさんが手にデバイスを取ってなにやらいじっているのが見えた。


 「ああくそっ、そうだった」

 俺たちが追い付いたところで自分と、手の中にあるデバイスの状況に気づいたのか、少し操作を試みたそれを再びしまって足を止めた。

 「単独で突出しないでくれ。危険だ」

 「ああ……そうだったな」

 角田さんにそう答えながらしかし、その姿は明らかに先程までとは異なっている。

 ある種奇妙な光景だった。味方の死体の山、鉛玉が飛び交い、ロケット弾が辺りを吹き飛ばす戦闘でも冷静さを維持していたはずのこの人が、今は明らかに慌てている。

 一体、あの写真の人物は、フランシスカ・レイクという人はどれほど大切な存在だったのだろうか。


 そして同時に自分に置き換える。多くの仲間を失って、ようやく見つけた最後の一人の居場所が分かったら?恐らく俺もまともではいられないだろう。

 「全員で行きましょう」

 「ああ、分かった。よろしく頼む」

 その思いが熱したバターのように全身に溶け広がっていくような感覚が、言葉となって口から漏れた。


 「アルファ1よりCP、これより工場を離れラジオタワーに向かう」

 「待てアルファ1。勝手な行動をするな。もう一名の要救助者についてはこちらでも捜索をしているがまだラジオタワーにいるという根拠がない。当初の任務を遂行せよ」

 一理ある。だが、一理しかない。

 「アルファ3よりCP、LZに回収車両の到着するまであとどれくらいかかりますか?」

 「アルファ3、あと5分ほどで到着するが、あまり長くは待てない」

 デバイスを展開。ラジオタワーまで片道で5分ほどだろうか――ただし、一切の妨害が発生していない場合。

 ラジオタワーは旧市街の北西部に位置する小高い丘の頂上に設けられ、その周囲はスラム化しつつある貧民街――この辺りでは住宅地という言葉の言い換えに他ならないが――に囲まれている。

 そして当然、南洋同盟の支配はここにも及んでいるだろう。

 そもそも、南洋同盟は東人連の支配に反抗している武装勢力である。構成員がこの辺りの出身であっても不思議ではないし、なんなら連中の主要拠点である可能性さえある。


 CPの言葉は一理しかない。だが、余りにも大きな一理だ。


 そこに行きついた瞬間、これまでとは異なる声が無線に入り込む。

 「アルファチーム聞こえるか?こちらは回収部隊。コールサインピットブル。現在そちらを回収するためLZ向かっている」

 全員が目を合わせる。聞き間違いではない。

 「了解ピットブル。こちらアルファ1」

 「少し時間と後で追加分の燃料代を貰うが、LZの変更も可能だ。ラジオタワーの到着後は斜面の反対側を降りろ。放棄された貨物駅で回収するオーバー」

 再び目を合わせる俺たち。それからその目全てがフリッツさんへ。


 内容:問題は片付いた。


 それを受けて無線の向こうの救い主に反応したのは俺たちアルファではなく、同じ通信を聞いていたフリッツさんだった。

 「ピットブル。こちらはホテル2-2、現在アルファチームと行動を共にしている。追加の燃料は俺が出す。やってくれ」

 「ピットブル了解。アウト」

 最後に頭を飛び越された形となったCPの投げ出したような声が締めた。

 「……CP了解。アウト」

 彼には申し訳ないが、しかしどうしてもこの人を放っておく訳には行かなかった。


 工場を出てすぐの道沿いに進み、緩やかな斜面を登っていく。

 丁度頂上にそびえ立つ件の鉄塔が正面に見える。

 その鉄塔より手前、緩やかな上り坂の左右には同じような箱型の家が隙間なく並んでいて、それらに見下ろされる決して広くない、車がすれ違うには厳しいような道を進んでいく。


 「……見られていますね、私たち」

 隣でクロが緊張した声。

 家々の窓や戸口には武装したよそ者に向けられたいくつもの目が光っていた。

 戸惑い、恐怖、警戒、敵意――通り過ぎる瞬間だけでも、そうした感情が読み取れる沢山の眼。向けられたいくつもの感情の中に歓迎がない事だけは確実だろう。

 同じものを見ていた角田さんがぼそりと漏らす。

 「目を離さず、しかし撃たずだ」

 向こうがそうしている間は、と付け足された言葉は、まさにマキナに刻まれた俺たちの交戦規定そのものだった。


 俺たちは傭兵で、今は作戦行動中だ。

 しかしだからと言って、非武装の民間人を、ただこちらを見ているという理由だけで撃つことはできない。

 明確な攻撃の意思が確認できない相手に対する先制攻撃は厳に慎まなければならない――明確な攻撃の意思の有無をどこで確認するかを明示していない、非常に“使いやすい”ルールではあるが、それ故に引き金を引く最後の判断は各コントラクターか、或いはそれらを纏める部隊長の判断に委ねられる。

 そのルールが、精神をコントロールし守るマキナにインプットされているのは非常にありがたい所だ。


 そして今回の判断:じろじろ見てはいるが敵ではない。

 角田さんと俺の判断は同じだった。というよりこの場の全員がそうだった。

 ――もっとも、仮に誰かが真逆の判断を下したとして、怯えた目で俺たちを見ながら小さな子供を家の中に隠す母親を射殺するのは御免だが。


 「しかし……通報されていなければいいが……」

 「まあ、そう祈るしかない」

 フリッツさんの言葉にそう答える角田さん。

 そうしているうちに、俺たちは丁字路に差し掛かった。デバイスが提示している通路は左右どちらでもなく正面。俺たちから見てやや左に公社のヘリが墜落した、建設中だか解体中だかの基礎や壁が残る敷地を通り抜けて、その奥の道に出るルートだ。

 「このヘリの向こうですね」

 「ああ。周りはこの先も建物だらけだ、上にも警戒し――」

 言いかけたところで俺たちの正面で鉄くずになり果てているヘリの奥、他よりも少し背の高い箱型の家の屋上に動き。

 それに目をやった瞬間、竿のような一本の棒が、屋上の縁に伏せたその人影の前にぬっと突き出た。

 「隠れろ!!」

 咄嗟に叫び、有言実行。

 目の前の、ローターを失った鉄塊の陰に飛び込むと、次の瞬間さっきまでいた地面と今いるヘリとに鉛玉が降り注いだ。


 「全員無事か!?」

 「無事です!」

 一足先に同じヘリに隠れていた角田さんとフリッツさんが銃声と金属音にかき消されないよう叫び、同じ理由で叫び返す。


 と、すぐ隣でクロが今さっき通り抜けた丁字路の方へ銃口を向けた。

 より正確に言えば、そのやや上。台風王国な土地柄か、小さくても鉄筋コンクリートでできた無数の箱にある小さな窓から銃身を突き出した南洋同盟の兵士に向かって。

 「敵襲!そこら中にいます!」

 相手の指が引き金にかかり、眼がこちらをサイト越しに捉えるよりも前にそれを終えたクロが叫ぶ。

 「クソッ!」

 彼女と反対側でフリッツさんが毒づいた。

 ここまでの例にもれずこの敷地も前後左右を民家に、それも2階のある民家に囲まれていて、それらの窓やら屋上やらにパラパラと人が動く――例外なく武装している連中が。


 「ッ!!」

 それら相手に立体もぐら叩き。どこから撃たれるのか分からない恐怖の中で見えた相手は手あたり次第に撃つ。

 後ろを向き、クロが撃った家の向かいの屋上に膝をついた相手をひっくり返らせ、それから90度左を向いて家の中から飛び出し、敷地前のブロック塀から撃ってくる相手に反撃し、それで目立ってしまったか正面の家の屋上から機銃掃射を受けて慌てて隠れる。


 「6時方向に敵!複数が接近中だ!」

 その直後にフリッツさんの声。

 直感:誘い込まれた。

 連中が俺たちの目的地を知っているかは分からないが、流石に地の利のある連中だ。どこで包囲するべきかを知り尽くしていた。

 後を追ってきたような連中を迎え撃ちながら角田さんに叫ぶ。

 「包囲されつつあります!移動しましょう!!」

 「あの機関銃が黙ったらな!」

 どこに飛び出しても撃たれるのは分かっている。

 だが、ここが安全地帯なのも長くてあと数分だろう。

 彼もきっとそれを分かっている。恐らくマグチェンジか給弾ベルトの交換だろう、一瞬銃撃が途切れたところで俺とクロに叫ぶ。

 「トーマ!クロ!中からあれを黙らせてくれ!!」

 そう言って指さしたのは右側の建物。

 どれも同じような鉄筋コンクリート二階建てが並ぶこの辺りで、恐らくそこはそれなりの財を成した家なのだろう。もう一軒家が建つぐらいのスペースまで奥に伸びているその建物は、屋上に板を渡して簡易な連絡橋を造っていた――機銃陣地と化した正面の家に向けて。


 「「了解!」」

 2人だけの襲撃チームが結成された瞬間、キューンと音を立てて背後から銃弾が飛び去り、ヘリの残骸への追い打ちが数発続く。

 そちらに同じ数だけ打ち返しながらのフリッツさんの叫び。

 「こちらを何とか持たせる!早く行け!!」


 それを合図に俺たちは駆け出した。ヘリから飛び出し、壁の残骸を飛び越え、リロードを終えた機銃が再び金切り声を上げて地面を耕し始めるのを背後に感じながら、先程撃った相手を踏み越えてブロック塀の奥へ。盾になったブロック塀が俺たちの代わりに銃撃を受け止めてくれている間に扉の左右に張り付いたところで、一瞬だけクロと目配せ。

 俺の手にスタングレネードがあることを確かめた彼女が鍵のかかっていない扉を僅かに引き開け、俺がそこに手の中のものを放り込んでから突入。


 こちら側は勝手口だったのか、年季の入った台所に飛び込んだ俺たちは、そこが無人であることと、左手=あの建物に渡る連絡橋の方面に扉が一つある事を見つけた。

再び扉の左右へ。今度は向こうに押し開けるタイプ。

 その向こうで声と音――複数人の男のそれ。聞き取れる複数の単語=武器を持ってこい。向こうにいる。数。こっちが勝る。


 「……」

 一瞬のアイコンタクト。やり方は今と同じ。ただし開けると同時に反撃される可能性あり。

だが、それならそれでやり方もある。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

続きは明日に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ