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三日会わざれば19

 一度残弾を確認。マガジンポーチ内の残りと合わせてもここを切り抜けられるか、切り抜けた後にどれだけ残るかは微妙なところだ。

 「!?」

 そこで計算を打ち切る。目の前に飛んできたフラググレネードが意識を持っていく。

 「っの!」

 咄嗟に背後へ蹴り飛ばす。前=投げてきた敵がいるだろう方向には角田さんやクロがいる可能性が大きい。

 背後での爆発音を聞きながら投げてきた相手には銃弾で応じる。

 と言っても、向こうも隠れている以上頭の上を越えていくだけだ。


 「これじゃ埒が明かんな……」

 隣でフリッツさんが漏らす。

 そしてそれと同時に、彼の眼が天井に向いたのが視界の隅に見えた。

 「よし、全員落下物に注意しろ!」

 叫ぶや否や、敵に支配されている出入り口の上に立て続けの発砲。

 その狙いは俺にも分かった。天井を走っているクレーンだ。

 建物を横断するように移動できる天井クレーンから下がった、恐らくは玉掛用の巨大なフックと、そこから吊られたホルニッセのものと思われるエンジン。そしてそれを繋いでいるのは既にボロボロに劣化したワイヤーロープだけだ。


 だが、そう簡単に撃ち抜けるような太さではない。

 「クロ!」

 「了解。見えています」

 通路を挟んで隣に援護射撃を要請。同時に俺は腰からフラググレネードを手に取る。

 その間に数度の銃声が響き、そして金属音が続く。


 限界に達したのは、その光景に目を向けた直後だった。

 フックが音を立ててワイヤーから外れる。声を上げる暇を与えてくれるほど、高い所からは吊られていなかった。

 「……っ!!?」

 そしてそれは、頭上から金属の塊を降らされた連中も同じこと。

 鼓膜をつんざくような凄まじく、また不快な音にかき消されたのではなく、声を上げる暇さえない内に下にいた何人かが押し潰された。

 そしてそれに混じって俺の手から離れたフラググレネードが放物線を描いて飛んでいく。


 「わっ!!」

 「グレネード!!」

 連中の声。そしてそれを合図にしたかのように突然立ち上がる数名――無防備にも自身に向けられている銃口の前で。

 突然の落下物と飛んできた爆発物にすっかり脳のストレージを使い切ったのだろう、その間抜けな姿に一斉に四人の銃口が火を噴いた。

 一人が銃弾に倒れ、また別の一人が逃げ出そうとしてひっくり返り、その横で炸裂したグレネードに吹き飛ばされていく。


 「よし!前進する!」

 先行した部隊が壊滅し、連中の補充の遅れをついて俺たちが前進。こういう場合、背中に控えるスペースが大きい程物理的にも精神的にも余裕が生まれてくる。

 ――それに、余りここで時間を取られる訳にはいかない。正面の敵に手を焼いているうちにさっきのビルから追跡してきた連中が背後に……などという事態は避けなければならない。

 ただでさえ数で勝っている相手に前後から挟まれ、左右の逃げ場もないなどとなればその時点で打つ手はなくなるのだから。


 「まだ来るぞ!」

 先程まで連中が盾に使っていた、シャッターに最も近いホルニッセと、今しがた落ちてきたそのエンジンを盾に取って駐車場を抜けてくる相手に応じる。

 ――エンジンの下に見えたものについては見ていないことにした。

 「馬鹿の一つ覚えだな」

 一瞬だが見えてしまったものを頭から追い出すためにそう呟いて銃をセミオートに戻し、障害物の無い駐車場を真っすぐ走ってくる後続部隊に照準を合わせる。

 ライフルを空に向け、或いは腰だめの姿勢で突っ込んでくる兵士たち。

 恐怖でただ走る以外に何もできなくなっているのか、或いはその恐怖をなくすための薬の効果か、引き金を引くことさえ忘れ、ただの棒になったライフルを持った的に一発ずつ叩き込んでいく。


 しかしその間にもお替りが到着。ハーフトラックが一台、自身を味方の盾にするかのようにシャッターまで突っこんでくる。

 ――いや、違う。

 「下がれ!!」

 咄嗟に叫ぶ。

 その動き、車の向き、そしてスピードが教えている。盾ではなく矛だ。

 シャッターのフレームが凄まじい音を立ててひしゃげ、それでも収まらないトラックがホルニッセのエンジンを踏みつぶして突入する。

 つい今しがた盾にしていた――そして一瞬前に飛び下がっていた――完成品のホルニッセをひっくり返したところでようやく停止したトラックの荷台から振り落とされるようにして兵士たちが降りてくる。


 「この糞ったれ――」

 降りてきたその足元にグレネードを撃ち込んでやれば一網打尽。

 一瞬そう考えて、しかし俺たちの分隊でそれが出来る人間はもういないのだと思い出す。

 「クソッ!」

 腰に手を伸ばし、しかし間に合わないと悟ってすぐにライフルに戻す。

 腹いせのように運転席に一発叩き込むと、奴の衝撃が伝わっていない他のホルニッセに隠れながら降りてきた連中を迎撃する。


 「CPよりオールアルファ、更にトラックが1台接近している」

 とんでもない情報が入ってくる。余程俺たちか公社のエージェントを殺したいのか、連中も兵力を集めてきているようだ。

 「ああっ、クソ!!」

 叫びながら、3mも離れていない相手に銃弾を叩き込み、そこで弾が切れたと知るやすぐに手放してセカンダリーを引き抜く。もうリロードしている余裕すらない。

 ライフルの最後の弾が打ち倒した男の後ろから、パーティガンを抱えたもう一人の姿が現れ、それを認めると同時にドローしつつその輪郭に向かい発砲する。さながら銃の居合切り。


 そのもう一人の最初で最後の一発。断末魔のようなそれが頬を掠めて行く。

 「くっ……」

 その熱いような痛みを気にする暇もなく、機首側からホルニッセの影に入る――尾翼側から同時に飛び込んできた相手が腰のナイフを抜くよりも速くその胸と首に45口径を叩き込みながら。

 「ッ!!」

 声にならない声を上げながら、逆手に持ったナイフを頭の横に振り上げた姿勢のままそいつが崩れ落ちてくる。

 「ぐっ!」

 力の抜けたその体を蹴り飛ばしたところで再度の通信――この期に及んでいいニュースは期待しない。

 「CPよりオールアルファ、そちらにランフォリンクスが一機向かっている。この機体は武装している。すぐにそこを離れろ!」

 離れろ――ごもっとも。だがどこへ?

 いよいよもって俺も運の尽きか。


 「いや待て、様子がおかしい」

 CPの続報。耳に入ったその情報が頭に届くよりも前に、爆音が連続で辺りを支配した。

 「今度は何だ!」

 角田さんの叫び声。

 それはこの場にいた全員の――即ち俺たちだけでなく、空爆を要請したと思われる南洋同盟の連中も同様の思いだったようだ。

 凄まじい爆音が連続し、そしてその音が時を止めているかのように中にいた全員の動きが止まる。

 そして一瞬遅れて建物が揺れ、全体が鳴る。


 「なんだ……?」

 「CP、何が起きている」

 「こちらCP。理由は不明だが、連中が同士討ちを始めている。無人機が駐車場を爆撃した」

 その謎めいた状況の説明と、撃たれた連中の生き残りが状況を察するのは同時だったようだ。

 「なんだ!?」

 「味方だぞ馬鹿野郎!!」

 口々に叫びながらある者は外に飛び出し、またある者は立ち尽くし、少数の者は俺たちとの戦闘を再開し――そして俺たちはそのことごとくを始末した。


 「CPよりオールアルファ、駐車場の車両は全て撃破された。無人機は空域を離脱」

 耳に聞こえるその声を、突っ込んできたハーフトラック越しに見える世界が裏付ける。

 もうもうと立ち込める土煙の向こう、もうもうと黒煙を吐き燃えているトラックやSUVや装甲兵員輸送車。

 それまでの怒号と爆音が嘘のように静まり返ったその世界を呆然と眺めている数名の生き残り。


 「何か知らんがチャンスだ。行くぞ」

 最初にその状況に順応したのはフリッツさんだった。

 「あっ、おい!」

 角田さんがそれに気づいて呼び止めるが、既にその時には彼の背中しか見えていなかった。




※   ※   ※




 「シーカー1よりシーカー2。鹵獲機による空爆を完了した。それと連中の無線の周波数を確認した。デバイスに送る。そちらは監視を続行しろ。」

 「シーカー2了解。しかし……よろしかったのですか?」

 「構わないさ。容疑が固まるまでは味方だ。生きているに越したことは無い」

 無線の向こう。ラプラスの工場に釘づけにされつつあった味方を救出した男は平然とそう言った。


 「……それに、君だって見殺しにはしたくなかっただろう?」

 誰を、とは言われなくても分かっている。

 任務に私情は挟まない。必要なら、私は今双眼鏡の中に映っている、工場から飛び出してきた4人を誰であっても殺すことになる。


 そう、誰であっても。仮にそれが、かつての親友であってもだ。


 「まあ……そうですね」

 だがだとしても、意味もなく死ぬのは見たくない。

 今は親友ではないとしても、だ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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