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三日会わざれば18

 「これが……」

 何なのか分からず、その最初の部分だけが口をつく。

 それが聞こえているのかいないのか、フリッツさんがそれまでより早口に続ける。

 「通信モジュールだ。こいつの通信モジュールが取り外されている」

 「通信モジュール?」

 オウム返しに尋ねる俺に、彼は更に続けた。

 「こいつらに搭載されている通信モジュールは民生品と共通規格を有している。簡単に言えば、送信設備さえあれば無線機代わりに使用できるという事だ。そしてそんな事を必要とするのは一人しかいない」

 つまりこういう事――要救助者=フランシスカ・レイクはここに来て、そのモジュールを取り外して通信を試みた。


 「だが彼女が持っていったと考える理由は?こいつだけモジュールが取り外されていたからと言って――」

 角田さんの反駁にも彼は応じた。

 「俺が奴でもそうするからだ。そもそもこいつのモジュールを取り外して利用できるという話自体、試験運用した北共軍からもたらされた情報だ。そして奴は元北共陸軍レンジャーだ。味方の壊滅を伝え救援要請を出すための方法として知っていてもおかしくない」

 そう言い切ると今度は無線を開く。

 ――先程までとは打って変わって焦りを隠さない。

 「ホテル2-2よりCP、この辺でラジオ放送を行える施設はあるか?」

 「CPよりホテル2-2。少し待ってくれ。だが何故――」

 「もう一人の生存者がそこにいる可能性が高い。急いでくれ」


 通信が一度沈黙する。

 その間も彼は落ち着かない様子でモジュールの抜き取られた機体の前をうろうろと歩き続けている。

 時間にして数秒にも満たないはずだが、それまでとは明らかに異なるその態度が妙に気になった。

 そしてそれを感じていたのは俺だけではないようで、ついさっきまで公社の連中と接近していたという事もあり否が応でも空気は張り詰めていく。


 その空気を変えようとしたのか、口を開いたのはクロだった。

 「でも何故ラジオ放送なんですか?」

 「……恐らくだが」

 一瞬沈黙してから答えるフリッツさん。

 どう答えるべきかその一瞬で編集していたように思えた。

 「奴は俺が生存している事や、救出部隊が来ることを知らなかったのだろう。それでこの島の外、恐らくはうちの台湾支局に救援を要請するはずだ。だが、そうなってくるとこいつのモジュールは出力が足りない。より広域への送信を可能とする施設につないで台湾まで電波を届けられるとすれば、一番確実なのはラジオだ」

 こちらの世界に来て驚いたことの一つが、あと10年で21世紀が終わるという時代に会ってラジオが現役であるという事だ。

 どういう理由でかは知らないが、世界的にまだラジオ局は存在し、アマチュア無線の愛好家もまた世界中にいるらしい。


 「ホテル2-2よりCP、まだ分からないか!?」

 「こちらCP、その工場から北西に行ったところ、丘陵の頂上付近に現在では廃棄されたラジオタワーが存在する。施設が生きているとすればそこが旧市街唯一の送信施設だ。だが、LZまでのルートからは外れている」

 「了解CP。これより救出に向かう」

 ほぼ反射的とも言っていい返答を寄越して無線を切ろうとするフリッツさん。

 だがそれにCPが食らいつく。

 「待て、そちらには車両が入り込めない。ラジオタワーは現地住民の住宅が密集した中にあり不用意に飛び込むのは危険……ちょっと待て、今そちらに――」

 だが、そこで通信は遮られた。

 再びフリッツさん――ではなく、今度は外で聞こえたエンジン音。


 それが直感的に途切れたCPの通信の続きを補完する。

 彼はきっとこう言いたかったのだろう――今そちらに敵部隊が接近している、と。


 「隠れろ!迎撃用意!」

 角田さんの指示と同時に正面のシャッターが耳障りな音を立て、オレンジの線が大きく楕円形に描かれていき、そして円の内側が大きな音を立ててこちら側に倒れた。

 耳元のインカムに角田さん、続いてCPの声。

 「まだだ、まだ撃つな……」

 「敵部隊は30名以上。更に後続車両が接近している。警戒せよ」

 そしてその後に聞こえたのは連中の声。

 「遅かったか……?」

 「止まるな!中も全て探せ!公社のエージェントの目撃情報はこの辺りで聞かれた。まだ近くにいるはずだ!」

 どうやらお目当ては俺たちではなく先程出て行った公社の連中らしい。

 だが、だからと言って見逃してはくれないだろう。こちらには彼らのお目当てと同時にアジャーニの仇とされた人物と一緒にいるのだ。その上、必要があったからとはいえ彼等の仲間をアジャーニの下に送ったのは俺たちだと来ている。


 そしてその俺たちが潜んでいる工場内に、ぞろぞろと武装した南洋同盟の兵士たちがなだれ込んでくる。

 ある程度の数がシャッターの穴の前に溜まり、後続を塞ぐほどになって、最初の連中が奥へ、即ち俺たちの方へと動き始めたところで角田さんの声が耳に聞こえた。

 「フラッシュバンを使う。炸裂後に一斉に撃て」

 返答はしない――この状況においてはそれが回答だ。

 連中の先鋒三人が徐々に近づいてくる。

 俺とフリッツさんが隠れている通信モジュールを抜き取られたホルニッセからはまだ10mほどの距離だが、それでもあと数秒後には見つかるだろう。


 そしてその見当をつけた瞬間、ふわりと何かが放物線を描いた。

 数は2つ。一つは先鋒の三人の足元へ。もう一つはその後方=入り口前の部隊の目の前へ。

 最初に三人の足元で、続いてその後ろでカツンという金属音を立てて、ものが低くバウンドした。

 そして次の瞬間、二つが炸裂した凄まじい音が空間を満たしていた。


 「殺れ!!」

 炸裂の瞬間に目を背け、号令と同時に頭を出して、突然足元から放たれた閃光と轟音に一時的に機能停止した三人に、引き金を引きながら銃口を向けていく。

 フルオートのまま、向かって一番左の足と胴体二か所に弾丸が撃ち込まれたところで指を放し、すぐに右へスライド。制御途中のマズルジャンプを活かしてまた発砲。今度は胸に2発。

 最後に一番上――と思ったところで既にそいつが倒れていたことに気づく。

 機首を向かい合わせていた別のホルニッセの後ろからクロにその頭を撃ち抜かれて、仰向けに倒れていく姿が、俺の眼に妙にスローモーションに映っていた。


 「敵襲!」

 「待ち伏せだ!!」

 連中のうち状況を理解した者達が叫び、同時に反撃の銃声が響き、弾丸が音を立てる。

 反射的に頭を引っ込めた瞬間、モグラ叩きのように入れ替わりで機首の横から乗り出したフリッツさんが立て続けに3発叩き込む。

 「タンゴダウン」

 どうやらこれで敵の反射的な反撃は潰したようだ。

 残された数人は最初のターゲットにならなかったその幸運を活かす行動に出た。即ち、その場から動いて物陰に隠れるという事。

 そして倒れた仲間の穴を埋めるように、シャッターの穴の向こうから次々と補充が入り込んでくる。


 「クソッ!多いな!」

 毒づくフリッツさん。

 彼の足元に寝転ぶようにして、機首の下から突っこんでくる命知らずの足を吹き飛ばす。

 奇妙なアクロバット=空中で前転しつつ横向きに落下したそいつがのたうつのにクロが止めを刺し、後に続こうとした者達に角田さんが鉛玉のシャワーを浴びせかけていく。

 だがそれでも穴の向こうにはまだ連中がいて、湧き上がるように穴の向こうから飛び込んでくる。

 ――ああ糞、確かに多いなこいつら。


 起き上がりざまに更に減らそうとしたその瞬間にカバーを見つけた連中の掃射が重なった。危うく頭を下げた瞬間に、ホルニッセの胴体が火花を上げる。

 「ちぃ……」

 碌に装甲化などされていないUAVでは小銃弾と言えど何発持つか分からない。

 なるべく早くここを出なければ、だが――。


 「本当に多いなクソ……」

 機首に空いた穴の向こうを音を立てて飛んでいく弾に思わず漏らした声がかき消された。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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