三日会わざれば14
階段を上った先は細い廊下で繋がった二つの部屋があるだけ。
元々は一階の店舗の事務室なり倉庫なりした場所だったのだろう。この建物自体を居抜きにして使っていたと思われる護衛チームは、そこを綺麗に片づけて使用していた。
――そして今は、ただ無数の弾痕と死体と、それに集まってわんわんと音を立てている蝿ども以外には何も残っていない。
「ここもだ……」
それぞれの部屋は扉で繋がっており、今ではただの穴になったそこで行き来できるが、どちらの部屋も同じような有様だった。
そしてこれまたどちらの部屋にもベランダが設けられており、十字路に近い方はそこを即席の機関銃陣地にしたという事を、三脚の上に設置されてすぐ下の十字路に撃ちおろせるようになった汎用機銃が物語っている。
――ついでに、それに縋りつくようにして死んでいる護衛チームのメンバーも。
「ここもか……」
フリッツさんともう一人の反応しか確認できない――先程の南洋同盟の話の言い方を変えるとこうなる。
この惨状を見るに、どうやらその情報は間違いではないらしいと説得力を強めている。
「……上だ」
感情を押し殺したような、そしてどこか焦っているような声でそう言ってフリッツさんは部屋を飛び出して先程登ってきた階段の反対側=3階への階段をするすると登っていく。
――だが、その先にあったものが、彼の見たかったものではないという事は、後を追って階段を上った俺たちにもすぐに分かった。
「……」
誰もが言葉を失い、そしてすぐに踵を返そうとした。
寝泊まりをここでしていたのだろう、壁も区切りもない広い一部屋。
寝袋をはじめとする様々な生活用品が転がっているそこには死体が2つ。
片方はスナイパーだったのだろう、窓から外の敵と撃ちあっていたようだが、流石に多勢に無勢だったか、ライフルを近くに放して窓の下に崩れ落ちている。
そしてもう一人がどういう立場だったのかは――オプティマル・エンフォーサーのコントラクターという点以外は――何も分からなかった。
スナイパーと同様に壁にもたれかかるような姿勢を取って、そのまま事切れている。
その周りには無数の弾痕と、彼の全身から流れ出たのだろう夥しい出血が遺され、衣服やプレートキャリアがもとはどういう色だったのかさえ思い出せない。
俺たちは何も言わずに互いに目を見合わせた。
こんなひどい状況は初めて見る。コントラクターの戦死などとは訳が違う。
いや、実際にはコントラクターが大勢死んでいるのだが、この建物に追い込まれている時点で異例中の異例だ。
安全な場所から指示を出すCP要員。彼ら彼女らの助力がなければ、我々も任務を続けられない。
故にCPには安全が保障されている――そのはずだった。
安全だったはずのCPに攻め込まれて、そこにいた連中は皆殺し。
幸いと言うべきか、ここには俺の見知った連中はいない。
――全員と面識があったはずのフリッツさんの心境は俺には分からなかった。
「……降りよう」
登ってきた時とは打って変わって落ち着いた様子で彼が降りていくのを俺たちが追いかける形だ。
今この建物に生きている人間は俺たちだけ。この建物に生き残りはいない。
「これからどうします?」
2階に降りてきた時にそう尋ねたのは、ただ実用的な意味だけでなく、何とかして空気を変えようという思いがない訳ではなかった。
その思いが、努めて平静を装うような、ちょうど怒られた直後の子供が何とかして自分はダメージを受けていないと見えるような、そんな痛々しく物悲しいものを感じ取った。
「そうだな……」
もう一度床の死体たちに目をやるフリッツさん。
彼の手が咄嗟にチェストリグに取り付けたポーチに伸びている。
「あれ?」
その手の中にあるものが、彼が持っていないとされていたデバイスだったという事は驚きだった。
「どうかしたか?」
「デバイス、お持ちだったんですね。ブリーフィングではあなたは持っていないと聞きましたので」
「ああ、その事か」
こともなげに話始めるフリッツさん。
「どこで間違って伝わったのかな。俺はあくまで戦闘の衝撃で壊れたかと思ったが、本体はまだ無事でね。何とかここで別のバッテリーが手に入れば交換できると思ったのだが……。見ての通りだ」
彼と同様に部屋の中へ。
そしてまさにその瞬間を、最悪の者に見られていた。
「伏せてっ!!」
クロが叫び、同時に自らも窓枠から床へダイブする。
その一瞬で何があったのかを悟った俺たちも後を追うと、エリア全体に響き渡るような凄まじいサイレンが鳴り響いた。
「ランフォリンクス……ッ!!」
その名の由来となった長い尻尾を翻し、UAVが鋭くターンして上空へ避難するのが見えた。
追いかけて撃ち落とすか――いやもう遅い。それに、それを狙って攻撃部隊を配置している可能性は高い。
「CPよりオールアルファ、そちらの現在位置を確認した。今軽歩兵及び機械化歩兵が30名以上 でそちらに合流する。警戒せよオーバー」
既に連中はこちらを嗅ぎつけていた。
もしかしたら、最初から俺たちがここに入るのを待って準備していたのかもしれない。
「どうする!?」
思わず声に出した言葉だが、言いながら俺の頭の中には既にプランがある。
「今からでは逃げられない。ここで連中の攻撃を受け止めて、隙を見てここから離れるんだ」
角田さんの指示に従って振り返る。
正面の道には左右に分かれて一列ずつ兵士たちがここへ向かっているし、十字路の他の方角からの目の前の道路、東からやってきたピックアップトラックとそれらを取り囲む無数の兵士が、建物の影に隠れながら突入を準備し始めていた。
その光景に角田さんの指示が更に飛ぶ。
「クロ、トーマと一緒に正面の道を頼む!俺たちで東側を担当する!」
叫びながら、自らもベランダに飛び出す角田さんを尻目に、俺たちも這うようにして汎用機銃の辺りに移動。
やることは一つだ。眼下に迫る敵部隊を迎え撃つ。
(つづく)
今回も短め
続きは明日に




