湖上夜曲
湖の小舟で
1人うずくまる
遠い岸辺には何がある
きっと見た事もない何か
緑の草原と
涼しい木陰と
ハンモックで本を読む顔も知らないあなたと
ここにはない全て
うたたねする子猫
欠伸する番犬
世界地図を広げて明日を思う恋人
ここではない屋根の下
ああ、あれはリュートの音
星々が途切れることなく降り続く星梅雨の夜に
光に弾かれる14コースの見えない弦
壊れて廃れた古い思い出の悲しい歌に添って
湖には
誰かが投げ入れたコイン
その表に愛の面影を見て
いつか波と共にゆくべき場所へと
白い塩の大地
実り満ちる麦秋の海
大空をゆくヨットの帆を操るあなたと
辿り着くべき全ての場所
光るトビウオ
海渡る蝶の群れ
欠けた地図の先に未来を思うまだ見ぬひと
ゆくべきどこか
『それは、ここではない全ての場所
全ての願いが叶う遠い岸辺
忘れられた遺跡の底
きっとひだまり眠る子供たちの秘密基地』
……耳の奥で
いつか、いつかと歌い続ける
そこは梅雨に降った星たちの辿り着く場所
海を越えた蝶の群れが戻ってくる場所
故郷の地
その湖の上
深みに沈んだリュートが響く、歌の町