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94 合理を崩す者




「アイリ!」


「ニル、無事だったのですね!!」


「ま、かろうじて、ってところかな。あのバケモノなら片付けてきたから、安心していいよ」


 無事な姿のニルとアイリに、ライハとリフレは安堵の表情を浮かべる。

 しかしニルの大きく変化した姿には、また少しの困惑も。


「その翼は……?」


「これね。眠ってた力が目覚めた……とか、そんな感じ? あたしにもよくわかんないや。けど――」


 目にも止まらぬ高速移動でニローダのふところに飛び込み、魔力弾を発射するニル。

 すぐさま迎撃の手刀を繰り出すニローダだが、回避しつつさらに追撃を放ち、すかさず離脱。

 アイリのそばへと戻るまで、時間は一秒にも満たなかった。


「みんなの力には、なれると思うよ」


「ニル、素敵。惚れちゃう」


「もう惚れてるでしょ」


 想像以上に上昇していたニルの力。

 ニローダ討伐に心強い戦力が加わったが、それよりも重要なことがあった。


「力の方はわかりました。ではその翼、飛べたりしますか?」


「飛ぶ? できるけど――」


 ニルが答えた瞬間、誰よりも早く動いたのはニローダだった。

 右手の手刀に光の魔力をまとい、剣のように伸ばして斬りかかる。


「なに……ッ!?」


 無表情のまま、殺意をあらわに全力で自分を殺しにかかってきたことに驚愕するニル。

 横振りの斬撃を飛びあがってかわすものの、ニローダはそばにいたアイリには目もくれず、空中にまで追っていく。


「リフレ、これいったいどういう……!」


「はるか上空にニローダの本体があるんです! それを壊せばヤツは死にます!」


「なるほど……! 急に必死になった理由がわかったよ……!」


 飛行能力を手に入れたニルの登場は、全ての計算――合理を大きく崩すもの。

 ニローダにとって、なにがなんでも、全てに優先して殺さなければならない相手だった。


「あたしの存在が、コイツにとって一番のジャマだなんて、最高に気分いいじゃん! 了解、コイツの本体破壊してくる!」


 ニローダの攻撃をかわし、真上に飛びあがるニル。

 ニローダもすかさず彼女を追っていく。


 真っ黒な空が視界いっぱいに広がる中、ニルは下からの光線をかわしながらひたすらに上昇する。

 距離感も時間感覚すら鈍りそうな黒一面。

 やがてその視界に、小さな点が現れた。


「あれが本体……? いや……、違う!」


 点はひとつではなかった。

 しかも左右に不規則な軌道を描きながら、こちらへむかって降りてくる。

 その正体がなんなのか理解したその時、ニルは驚愕に目を見開いた。


「ニローダが、もう二人……!?」


 翼を広げて舞い降りてくるのは、二体の新たなニローダだった。

 上昇速度を思わず弱めた瞬間、ニルは下からやってきていたニローダに背後から羽交い絞めにされる。


「しまっ……! クソ、離せ……!」


「この身は本体にあらず。ならば別の体も作り出せるは道理であろう」


「聞いてないことペラペラしゃべんな……っ」


「こう解説してやれば、人間は絶望するのだろう?」


 やり取りの間に、目前に迫った二対のニローダ。

 それぞれが光の刃を伸ばし、


 ズバシュッ!!


 ニルの体をX字に斬り裂いた。



 〇〇〇



 ニルが消えていった空を、不安げに見上げるリフレたち。

 黒一色の空の中、リフレの目がなにかをとらえた。


「……なんでしょうか」


 それが何かを理解する前に、『それ』は猛スピードでリフレたちの前に落下。

 どちゃっ、と嫌な音を立てながら、血しぶきと肉片をまき散らした。

 直後、落下物の正体を理解したリフレが悲鳴を上げる。


「い、いやぁぁぁぁぁぁああぁぁっ!! ニル、ニルっ!!」


 それは、四つに分割されたニルの死体。

 ライハも悔しげに目をそむけるが、ただ一人、アイリは動じない。


「みんな、大丈夫。ニルは平気」


「平気って、どこがですか!!」


「ほら」


 ニルの方へと指をさすアイリ。

 視線を戻すと、ニルの体はすでに再生を開始していた。

 みるみるうちに体がつながり、肉片も吸い込まれるようにして再生。


「……っ、い、いてて。ちょっと気絶してた……」


 数秒もしないうち、完全に元通りのニルとなる。


「あなた……、オートヒールまで習得していたのですか!?」


「まぁね……。『天の御遣い』の力を完全に引き出せた、ってことなのかな……」


「力を、完全に――」


 ニルの言葉にハッとするリフレ。

 それから彼女は、自らの背に生えた『片翼』に目をやった。


「にしても、クッソ痛い……」


「よしよし、がんばった」


 なでなでしようとするアイリ。

 しかしニルはそれをやんわりと押しのけ、上空をにらみつける。


「ごめん、失敗した。それと、事態が悪化しちゃったかも……」


 視線を追って見上げれば、舞い降りてくる三体のニローダ。

 五体満足で生きているニルを見ても、『彼女たち』の表情は変わらない。


「……なるほど、サンティの能力を全て得たか。で、あれば、リフレと同様。消し飛ばす以外に手はないな」


 いまだに最大の脅威であるニルを排除するべく、総攻撃が開始された。

 ニルだけを狙い、極太の光線が次々に繰り出される。


 間一髪の回避を繰り返すニルだが、多勢に無勢。

 直撃を食らうのは時間の問題といえた。


「ヤバいよ、このままじゃ……! 援護しなきゃ――」


「ちょっと、待ってください」


 加勢に入ろうとするライハをリフレが引き止める。


「な、なにさ、こんな時に……」


「わたくしに考えがあります。この状況を一気に逆転する考えが。でも、それにはライハの力が必要なんです」


「……わかった。なんでも言ってみて」


「あなたの絶望をわたくしの中に注いで欲しいのです。そうすれば、きっと……」




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