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92 二つの可能性




 ニローダの攻撃が本体への巻き添えを恐れていない。

 エメルダの発言を受けて、リフレの頭に二つの可能性が浮かぶ。


「エメルダさん、本体を超小型化して人間体に埋め込むことは可能ですか?」


 まず一つ目が、本体を小型化して体の中に埋め込んでいる可能性。

 自分の体内に埋め込めば、絶大な戦闘力を持つニローダのこと。

 リフレの『片翼』によるパワーアップが計算に入っていないならば、この世界でもっとも安全な隠し場所といえるだろう。


『結論から言えば、可能でしょう。自分以外の精神生命体を作り出すほどの技術力を持っているニローダならば』


 もし『こちら』の推論が当たっているならば、リフレたちにとっても都合がいい。

 今まで倒してきた敵と同じように、敵を力で上回って急所を貫けばいいだけなのだから。


 そして、もう一つの可能性。


「では、本体からとてつもない距離をあけても、行動に支障はでませんか?」


『――えぇ、距離は関係ありません』


「そうですか……」


 それが、この塔から途方もなく離れた場所に本体が置かれている可能性。

 こちらの場合、リフレたちにとって非常に都合が悪い。


 なぜならニローダと戦闘しながら、この広大な白い世界をあてもなく探さなければならないのだから。

 砂漠の中から砂粒ひとつを見つけ出すような、考えるだけで気が遠くなる話になってしまう。


『リフレさんも、やはり二つの可能性にたどり着きましたね』


「えぇ。……さて、ニローダが選んだのはどちらなのでしょう」


 合理を追及するニローダならば、よりリスクの少ない方を取るだろう。


 埋め込みによるリスクは、通常の生物と同じ弱点を抱えること。

 アバターである肉体は、いくら破壊しても本体からのバックアップによる再構成で無限によみがえる。


 しかし体内にある本体を発見されて破壊されれば、その時点で死。

 不死身ではなくなってしまう。


 一方、離れた場所に設置するリスクは、万が一発見されてしまえばどうすることもできないこと。

 無防備に設置されている本体など、リフレたちにかかればひとたまりもなく破壊されてしまう。


『どちらとも言えませんが、リフレさん。可能性をつぶすことはできます』


「わたくしとライハで、ニローダの胸なり頭なりをつぶせばいい」


『その通り。ただし、困難な道ですよ』


「ご心配なさらず。わたくしとライハの二人なら容易い道ですよ。それに、アイツの顔面ブン殴ってブッ潰すと決めてますから」


『頼もしいお言葉。ではその間、私も持てる演算能力をフルに使って世界中から本体を探します』


「そのようなこと、可能なのですか?」


『元々は物質世界を監視するために作られたのです。世界を探ることこそ、我が本領ですよ』


「……ふふっ、あなたこそ頼もしいです」


 合理に対抗するために、力を合わせてそれぞれのできることを全力で。

 本体を探し出す、その方針はととのった。


『ではリフレさん。演算にCPUの大部分を使うため、通信はここまでに。探し出せたなら、折り返し連絡します』


「えぇ、頼みました」


『リフレさん、ご武運を』


 うなずき合うリフレとエメルダ。

 直後、小さな立体ビジョンが消え、通信も途絶する。


「……さて、いつまでもライハ一人に押し付けていられませんね」


 二人の会話の間にも、ライハとニローダの戦いは続いている。

 雷鳴と光球による轟音と爆発が巻き起こる中、繰り広げられる死闘を見据え、拳を握るリフレ。


「わたくしは、わたくしのするべきことを!!」


 己を鼓舞し、彼女は戦いに飛び込む。


 ライハの繰り出す二連の斬撃。

 それぞれを最小限の動きでかわすニローダの横っ面へ、


 バギャァァァァッ!


 全体重を乗せた渾身の正拳が叩きこまれた。


「――!!」


 きりもみ回転をしながら吹き飛び、何度も床をバウンドするニローダ。

 突然の奇襲に目を丸くするライハだったが、同時にその頼もしさに表情をゆるめた。


「お待たせしました、ライハ」


「エメルダさんとなにか話してたみたいだね。いい手、見つかった?」


「手短に話します。わたくしがヤツの頭をブン殴って吹き飛ばしますので、ライハは胸から腹をズタズタにしてください」


「物騒なオーダーだぁ。よくわからないけど了解!」


 説明不十分、けれど十分。

 信じるリフレがそうしろと言うならば、全力を尽くして答えるだけ。

 体勢を立て直したニローダに対し、二人は同時に飛び込んでいく。


「無意味なことを……」


「無意味かどうか、今にわかります! 犀穿撃せいせんげき!」


 リフレが繰り出すのは、ひねりを加えたえぐりこむような、いわゆるコークスクリューパンチ。

 ただしその回転圧は今や、周囲の空気が斬撃をともなう真空波となるレベルだ。


 間合いを保ちながら二発、三発と放ち、ニローダは回避に集中。

 そのスキをついて、ライハが両手に持った剣を高々と天へかかげる。


「紫電百八陣!」


 剣から放たれた稲妻が、ニローダを中心に108本の細かな雷となって持続的に降り続ける。

 攻撃ではなく、敵の動きを制限するための雷の迷路。

 これが自在に飛び逃げ回るニローダに有効打を与えるための一手となった。


 雷を避けるため、おのずと回避する先は限られる。

 あとはリフレが、敵の選択肢が一択になるように攻撃を繰り出すだけ。


(動きが、読める……!)


 おとりで放った弱めの犀穿撃せいせんげきをよけた結果、リフレの狙った通りの方向へと移動するニローダ。

 そこへすかさず踏み込み、


「やっとブチ込んでやれますね! とびっきりの犀穿撃ヤツ!!」


 ドゴシャァァァァアッ!!!!


 ひねりを加えた本命の一撃がニローダの顔面に突き刺さり、粉々に粉砕。

 真空波が肉片を細切れに斬り裂いていく。


「ライハ!」


「おうさ、わかってる!!」


 まだ終わらない。

 すぐさま飛び離れるリフレと入れ替わり、雷の迷路を解除したライハが、首を喪ったニローダの目前へ。


「雷鳴斬ッ!!!」


 雷をまとった斬撃を渾身の力で放つ、ライハの十八番。

 稲妻のような斬撃が十四回振りぬかれ、ニローダの胴体を注文通りズタズタに引き裂いた。




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