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90 リフレの狙い




 時は戻り、ニルとアイリが落下した直後。

 上昇し続ける台座の上で、リフレはニローダと対峙する。


 自分を生み出し、世界を壊し、全てを狂わせた因縁の相手。

 自らにうり二つの顔をした不倶戴天の敵を前に、彼女の殺意は燃えたぎる。


「……やっと、この時が来ましたね。楽しみですよ」


「楽しみ、とは?」


「あなたの顔面を、思う存分ブン殴れることがですッ」


 距離を詰めると同時、顔面にめがけて突き出す拳。

 しかしニローダは上半身をわずかにそらす、最小限の無駄のない動きで回避。


「無駄の多い攻撃。非効率的と断ずる」


 直後、リフレの背後に極小の光の玉が出現し、


 ピッ。


「あ゛っ」


 糸のようにか細い光線が放たれ、彼女の脳天を貫通した。


「最小の労力で最大の戦果を。攻撃とはこうやるものだ」


「――……っ! この程度で、わたくしを殺せるとでも!!」


 当然ながら、リフレに対してこの攻撃は致命傷となり得ない。

 オートヒールを持つ彼女を殺すのならば、肉体全てを消し飛ばし、完全に蒸発させなければならない。


「有効打とならぬも承知の上。我が勝利はすでに、一手一手着実に近づいている」


「戯言を……ッ!」


 次々と極小の光線を撃ち続けるニローダ。

 体中をハチの巣にされつつも、リフレは一切ひるまずに拳を繰り出し続ける。


 両者とも、この場所で大きな威力の攻撃を繰り出すことはできない。

 もしも足場を破壊してしまえば、ニローダ側はライハの力を封じる結界までも破壊してしまい、二対一の不利な状況になりかねない。

 対するリフレたちも、空中を飛行する手段を持たない以上、落下すれば死が待つのみ。


 一方ニローダは飛行が可能だが、先に落下したアイリもまた飛行の手段を持っている。

 足場を破壊しても彼女に助けられる可能性がある以上、この場で戦う方が勝率は上という判断だ。


 両者の思惑が重なった結果、戦闘は思わぬ膠着状態へと突入する。


「……っ、ずいぶん、ショボい攻撃ばかりですね……っ! 恥ずかしくないんですか……っ?」


「挑発行動と認識。無意味な労力と断ずる」


 オートヒールで回復するとはいえ、常に体中を熱線で焼かれ、リフレは徐々に疲弊していく。

 対するニローダに疲労の色は一切見られない。

 あまりにも無策に見えるリフレの戦い方に、手を貸すべきか迷うライハだったが、


(――いや、リフレは無意味なことなんてしないはず。まだ『切り札』も出していない以上、信じて見守るのがデキた恋人だよね……)


 静観を決め、戦いの行方を見守る。

 リフレが何を狙っているのか、しっかりと見極めるために。


「はぁ、はぁ……っ」


「疲労の蓄積を確認。攻撃速度10パーセント減退」


「まだまだ、こんなものでは……ッ」


 左右の拳の乱打、右の回し蹴り、大振りの突き。

 いくつかの攻撃が入るものの、ニローダに目に見えたダメージは見られない。

 その間にもリフレの体は貫かれては再生を繰り返す。


「……」


 自分への攻撃に集中するリフレを観察したニローダは、勝利への第一手に入る。

 彼女の大目的は、現生人類の滅亡。

 現在、わずかに残った人類が魔族の生み出す結界とライフラインに守られているならば、魔王の命さえ奪えば同時に全ての魔族が死滅し、人類もまた滅びるだろう。


 そのためにニローダは、リフレの周囲に浮かせている熱線発射のための光球をひとつ、ひそかにライハの背後へと移動させた。

 そして、リフレが自身の顔面へ拳を繰り出したその瞬間、首筋へむけて極細の光線を発射。


「――読めてるっての!」


 しかし、ライハは前方へと回転し身をかわす。


「ライハ!?」


「奇襲の失敗を認む。引き続き、断続的な攻撃に入る」


 ニローダの追撃は止まらない。

 リフレと同じようにライハの周囲にも無数の光球が出現。

 魔王の命を奪うため、容赦ない猛攻が開始された。


「ライハ……っ、今助けに――」


「いいから、集中して! あたしのことは心配ない!」


 剣を抜き、回避しつつ光球を斬り落としていくライハ。


「いくら弱体化喰らったからって、この程度でやられる魔王様じゃないってね!」


「――わかりました、信じます」


 ライハが、わたくしを信じてくれたように。

 続く言葉を心に秘めて、リフレはニローダとの攻防に集中する。


 依然として防戦一方の二人ではあったが、


(……来た!)


 昇降機の上昇速度がわずかにゆるんだ。

 待ち望んだ瞬間の到来に、リフレはニヤリと口角を上げる。


「……ニローダ。このエレベーターが頂上へ到着すると、どうなるのでしたっけ?」


「到着などしない。直前で折り返し、また下降を開始する」


「つまり、限りなく頂上に近い地点で一時停止する、と」


 やり取りの間にもエレベーターは減速を続け、終点の直前。

 天井を目視できるところで、完全に動きを止めたその瞬間。


「待っていたのは、この瞬間です!!」


 リフレは、その真の力を開放する。

 白の異形と魔族の力が合わさった、ニローダの計算にない力。

 『黒の片翼』を。


「――」


 リフレの背に生えた見慣れぬ翼。

 明確なパワーの増大。

 想定外の事態を前にニローダの動きがほんの一瞬だけ止まる。

 その生じた一瞬のスキを突き、


「鷲爪撃ッ!」


 ドギャッ……!


 掬いあげるような爪の一撃が直撃。

 ニローダを台座の外まで弾き飛ばし、壁面に背中から叩きつけた。


「今です、ライハ!」


 しかしリフレは追撃にかからない。

 逆にニローダに背をむけて、ライハの方へと駆け寄っていく。


「――そういうことね、わかった!」


「そういうことです、頼みました!」


 ライハの前で逆立ちし、手足を曲げるリフレ。

 ライハが足の上に飛び乗ると、全身をバネのようにして伸ばし、彼女を上空へと打ち上げた。

 すぐにライハは結界の範囲内から脱出。

 猛スピードで天井へと迫っていく。


(そういうことだったんだね、リフレ。確かにあの時言ってたもんね、『ニローダ』は塔の最上階にいるって)


 力を取り戻した魔王にとって、塔の床や天井は障害物にもなりはしない。

 雷鳴をまとった剣を突き出し、次々とフロアを突き破って登っていく。


(アイツも元々エメルダさんと同じ『管理プログラム』。つまりあの姿は本体じゃない。ヤツの本体は――)


 やがて最上階――ドーム状の広大な空間に到達したところで、ライハはフロアの中央に鎮座する、巨大な球状の装置を視界にとらえた。


「見つけたぞ……! お前が……っ」


 体を反転させ、天井に足をついて反動をつけて、切っ先を機械へとむける。


「お前がニローダだぁぁぁぁっ!!!」


 矢のように放たれた雷鳴の一閃。

 叫びとともに、魔王はニローダの本体――その中心をつらぬいた。




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