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86 共同作業




 落下しながら身を寄せ合うニルとアイリ。

 ニルは左腕を、アイリは右腕を互いの腰に回してしっかりと固定する。


 その数十メートル下を落下するサンティは、四つの細い翼をはばたかせて滑空しようともがくものの、落下圧によって風をうまくとらえられずにいるようだ。

 彼女たちがこれからしようとしていることを、邪魔されるおそれはないだろう。


「――と、わかった?」


「りょ」


 準備をしながら自分の考えを説明したニルに、極限まで簡略化した『了解』を返すアイリ。

 彼女は自らの持つロロちゃん人形マーク2に、異形の右手から魔力を注ぎこんでいく。


「ロロちゃん人形、ちぇんじ・ふらいともーど」


 背中からウイングとブースター搭載のバックパックが飛び出したことを確認して、ニルも異形の右腕を砲門へと変化させる。


「息を合わせるのが大事だから……。いくよ……!」


「魔力全開。ロロちゃんふるぱわーまで、さん、に、いち……」


 魔力を限界まで充填されたロロちゃんの瞳が、禍々しい光を放つ。

 同時にニルは下方へと砲門をむけた。

 そして、


「「せーのっ!」」


 合図とともに、ニルは砲門から全開で魔力を放射。

 アイリもロロちゃん人形に、全力のブーストを噴射させる。


「っああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


「んぐぐぅ……っ!!」


 互いに限界に近い出力で魔力を放出。

 意識が途切れそうになるのをこらえ、全身全霊で減速を図る。


 すると、体中をつつんでいた浮遊感と空気圧が徐々に消えていく。

 同じ速度で落下しているはずのサンティの姿もまた、暗い奈落の闇に消えていった。


「……成功、した?」


「ロロちゃん人形フライトモード、なんとか正常に稼働中」


「よかったぁ……」


「ただし、負荷がかかりすぎて機能停止寸前」


「うぇっ!?」


 ロロちゃん人形こそが、今の二人の命綱。

 衝撃的な発言に心臓が止まりそうになるニルだったが、


「よって魔王様たちを追うのはムリ。ゆっくり降下しかできなさそう」


 どうやら今すぐ墜落はしなさそうで、ホッと胸をなでおろした。


「そ、底まで保つならいいや……。うん、仕方ない、このまま降りていこう」


「りょ」


 落下を完全に止めることこそできなかったものの、なんとか命拾いした二人。

 腰に手を回して寄り添ったまま、自由落下の半分ほどの速度で縦穴を降りていった。




 数分後、アイリとニルを支え続けたロロちゃん人形マーク2は無事にエレベーターの出発地点へと到着。


「よっと」


 アイリの腰から手を離し、一足先に地に足をつけるニル。

 アイリもロロちゃんへの魔力供給をストップさせ、両手を広げて着地した。


「ふぅ、なんとか助かったね」


「助かってない」


「へ?」


「ロロちゃんオーバーロード。電子基板が焼き切れて、もう動かない」


 ほんのりと悲しげに目を伏せ、犠牲になったロロちゃんを床に横たえるアイリ。

 その姿に「いや直してもらえばいいじゃん」とはとても言えないニルだった。


「そ、そっか……。――そういえば、アイツは?」


 自分たちより一足先に落下してきたはずの白の異形、サンティ。

 その姿を探して周囲を見回すものの、異形の死体はどこにも見当たらない。

 ただ一点、ひび割れた床と金色をした大量の血しぶきが残されていることから、落ちてきたこと自体は間違いないのだが。


「――いるよ。五十メートル上、壁に張り付いてこっちを見てる」


「……っ!?」


 その気配を、アイリはすでに察知していた。

 ロロちゃんを供養しつつも、彼女は一分のスキもなく、常に敵の動向に気を払っていたのだ。


 ニルが見上げると、彼女の言う通り。

 白い体をまばらな金色の血痕で彩った怪物が、こちらを襲うタイミングをうかがっている。


「アイツ、死んでなかったのか……! 落下のダメージに耐えたんだ」


「驚きのタフネス。こいつは骨が折れそう」


 アイリだけでなくニルにも気づかれ、異形は奇襲を断念。

 壁から手を離し、彼女たち二人の前に地響きとともに着地した。


「ニル、お疲れだったりする?」


 魔力を全力で放出し続けたニルの疲労は相当なものだろう。

 返答によっては自分ひとりだけで戦うつもりで余力を確認するアイリ。

 しかしニルはアイリのとなりに並び立ち、白の右腕を再び砲門に変えながら答える。


「そりゃぁちょっとは疲れてる。でも、アイリだけを戦わせないよ」


「……むふっ」


 自分を気遣ってくれた返事に、アイリは嬉しさを隠そうともせずニマニマ。

 彼女もまた、黒の左腕を大斧へと変化させた。


「またも共同作業。アイリ、うれしみでホクホク」


「何言ってんの……。来るよ、かまえて!」




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