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85 果たすべき時




 リフレを助けてやってほしい。

 師匠と交わした最後の会話、最後の約束は、常にニルの心の中にある。


 危険を冒して戦いに参加した理由も、恩人であるリフレを助けたいから。

 リフレと師匠、二人の恩人に報いるために。

 約束を果たすべきは――今だ。


「っああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 雄たけびとともに、ブースターへと変えたひじから魔力を吹き出し突進するニル。

 標的はニローダのかたわら、彼女を迎撃しようと構える異形――サンティ。


 拳を大きくふりかぶり、突っ込んでくるニルにカウンターを合わせるべく、ベストのタイミングでパンチが繰り出された。

 当たれば即死せずとも大ダメージ、そのうえ昇降機の外に吹き飛ばされて落下してしまう。


 だが命中の直前、ニルは手首から先を砲門にチェンジ。

 ひじと同時に魔力を噴射して自らの挙動を制御し、直角にターンして側面に回り込んだ。

 当たるはずだった渾身のパンチが空を切り、サンティは大きく体勢を崩す。


(ここだ……っ!)


 通常、ニルのパワーではサンティの巨体を場外に吹き飛ばすなど不可能だろう。

 しかし突進の勢いを乗せ、カウンター気味に全体重を乗せた蹴りを放つならば。

 そして、


「アイリたち、息ぴったり」


「――だね……っ!」


 彼女も同時に、まったく同じタイミングで蹴りを放ったならば。


 ドゴォッ!!


 回転を加えたニルとアイリの蹴りが、左右からサンティの腹に命中。

 異形の巨体はエレベーターの外へとめがけ、


「イぎゅああぁぁぁっ」


 悲鳴とともに吹き飛んでいった。


「見たか……っ! あたしだって、ただついてきただけじゃない!」


 ニローダにむけて啖呵を切るニル。

 アイリはというと、ニルのアイコンタクトを受けてとっさに連携できたことにホクホク顔だ。


 果たしてニローダがじっと立ち尽くしていたのは、一瞬の攻防だったがゆえに手を出せなかったのか、計算外の出来事に不意をつかれたのか。

 その思考の一切を表情に出さないため、真意はうかがい知れないが、


「我に目をむける余裕があるか?」


「……っ!?」


 ただ彼女は冷静に、客観的な事実を指摘した。


「ニル!」


「アイリ、危ない!」


 同時にリフレとライハも、ニルとアイリの危機に気付く。

 場外へ吹き飛ばされていくサンティが、口を大きく開けて二本の長い舌を伸ばし、二人を絡め取ろうとしていることに。

 助けにむかおうとする二人だが、時すでに遅し。


 ギュル、ギュルンっ!


「しま……っ」


「あう」


 不意をつかれた二人の体に舌が絡みつき、引っ張られる。


「うああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 つかまるものもなく、すでに落下を始めた巨体を支える筋力もないニルとアイリになすすべはない。

 必死に踏ん張ろうとするものの、すぐに体が宙に浮き、足場の外へと投げ出されてしまった。


「ニルーーーーッ!!!」


 リフレが足場から身を乗り出すも、彼女には落下していくニルたちを見送ることしかできない。

 しかしニルは全身を襲う浮遊感の中、力の限り彼女に叫んだ。


「――あたしらは平気、絶対大丈夫! だから気にしないで! リフレはそいつを、ニローダをブチのめすことだけに集中してッ!」


 声を残して、奈落の底へと消えていく二人。


「……信じて、いいんですね。わかりました、信じます」


 リフレは小さくつぶやき、立ち上がると、ゆっくりと足場の中央へ。

 そこでニローダに向きなおり、戦闘態勢をとった。


「わたくしは、ニローダを倒します」


「味方の脱落による戦意の喪失、確認できず。交戦状態を持続する」


 対するニローダも、また表情を一切変えない。

 背中に一対の白い翼を出現させると、両手を広げて浮遊。

 その両掌に光の魔力を集中させていく。


(ここからが本番、ですね……! ニル、アイリ。あなたたちも、どうか無事で……!)



 〇〇〇



 啖呵を切ったものの、ニルとアイリに巻き付いた舌は殴っても引っ張っても離れない。

 どのくらいの高度から落ちているのか定かではないが、このままでは落下の衝撃でサンティもろともお陀仏だ。


「クッソ、どうしたら――」


「こうすればいいの」


 アイリが左腕の包帯を解き放つ。

 筋張った黒紫の肌に、悪魔のような禍々しく鋭い爪。

 彼女が普段、かわいくないからと使用を避けている、アイリの真の力。


「結界抜けたから元通り。アイリの力、ふつーにつかえる」


「あ、そっか」


 アイリは腕を鎌状に変化させ、するどい刃を素早く、かつ自分たちを――特にニルを傷つけないよう正確に振り抜く。


 ズババババッ!!


 無数の斬撃によってサンティの舌がいともたやすく切り刻まれ、二人は自由を取り戻した。

 とはいえ落下は止まらない。

 絶体絶命の窮地から、二人はいまだ脱せていない。


「……で、これからどうする? って、その人形飛べたじゃん。それでなんとか――」


「どうだろ。落下スピードが早すぎて、ロロちゃん人形の出力じゃちょっと減速難しいかも」


「マジ? ……でもそうだ、だったらあたしら二人の力を合わせれば……!」




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