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08 あなたは誰?




 魔王城で目にした彼女が、本物なのかどうか確かめる。

 ただそれだけのためだけに魔王城を目指そうとしていたにも関わらず。

 長い旅の大目標だったはずの彼女の登場に、リフレは思わず言葉を失う。


「あたしはね、一日だって忘れたことないよ? 毎日リフレに会いに行ってた。たくさん謝って、たくさんお話して、たくさん一緒にいたよ? この108年間、ずっと、ずーっと」


「本当に……、本当に、ライハ……なのですか……?」


「他の誰かに見えるかな。あたしとしてはぜんっぜん変わってないつもりだよ」


 彼女の言うとおり、ライハはまったく変わっていなかった。

 108年前にリフレを封印したあの瞬間から、声も、姿も、何も変わっていない。

 変わっていなさすぎる。


 他にも、なぜ自分を棺に封印したのか。

 なぜ魔王城にいたのか。

 どうして自分を探してここまでやってきたのか。

 彼女にぶつけたい疑問は山とある。

 しかし……、


「ライハ……!」


 そんな疑問よりも先に、彼女が変わらぬ様子で自分に親しく接してくれる、そのことが嬉しかった。

 リフレは涙を浮かべながらライハに駆け寄り、その両手を取ってにぎる。


「よかった……! わたくし、あなたとあのような別れ方をして……。目覚めたらはるか未来で、もう二度と会えないと思って……。だから……!」


「うんうん、あたしもだよ。こうしてまた話せて、すっごくうれしい」


 再会を喜び合う中、ふとライハの視線がリフレの後ろへとむけられる。

 彼女の後ろ、唐突に現れたライハを警戒する小さな少女へと。


「……あの子は?」


「ニル……と呼んでいます。このエリアに住んでいた子で、わたくしについていきたい、と」


「ふぅん……」


 興味なさげに相づちをうつライハ。

 しかしほんの一瞬、少女を見る彼女の視線がぞっとするほど冷たいものに変わったことに、リフレは気づかなかった。


「ま、どうでもいいや。それよりさ、早く帰ろう?」


「帰る……ですか? いったいどこに……」


「決まってるじゃん。魔王城だよ、魔王城」


「言ってる意味がわからないのですが……。それではまるで、あなたが魔王城に住んでいるかのような……」


「そうだよ、あそこがあたしのおうち」


 あっけらかんと言ってのけるライハに、リフレの中で喜びよりも困惑が大きくなっていく。

 そもそもさっき、彼女はなんと言ったか。

 108年間、ずっと自分の封印された棺を見守っていた……?


「……先ほどと、同じ質問をします。あなたは本当にライハなのですか?」


 同じ質問だが、その意味合いはかなり異なる。

 再会の喜びから口をついて出た言葉が先の問いかけ。

 しかしこの問いには、疑念、警戒、不信、さまざまなものがこめられていた。


「だから、そう言ってんじゃん。ほら、いいから早く来な」


 リフレの腕をつかんで強引にぐいっと引き、連れていこうとするライハ。

 その腕を振り払い、リフレはけわしい表情で親友を見つめ返す。


「わたくしを連れ帰って、その後はどうするつもりです」


「また眠ってもらう。リフレには何も知らないまま眠っててほしいんだ。全てが終わるまで、なんにも知らないままで」


「納得できません。封印される理由も、今のあなた自身にも。あなたがライハだと、わたくしにはどうしても信じられない」


「信じてもらうためには?」


「こうします……!」


 ピッ……!


 リフレの放った鋭い手刀がライハの腕をかすめる。

 とっさに間合いを離したライハは、心外だと言わんばかりにほほをふくらませた。


「ひどいなぁ、親友に攻撃されるなんて思わなかった」


「……やはり、あなたはライハじゃない」


「んん? どうして――あぁ、コレか」


 ぽた、ぽた、ぽた。


 腕から垂れ落ちる緑色の血液。

 手刀で受けたキズから流れ出したのは――、彼女の体の中に流れていたのは赤い血ではなかった。


「まいったな……。これ、一番リフレに知られたくなかったのに」


「緑の血……、魔族の証。答えなさい、魔族。ライハの姿形を借りて、どういうつもりです。わたくしの動揺を誘おうとでも?」


「だからぁ……、あぁもう仕方ないなぁ」


 もう隠し通せない。

 そう観念したように、ライハは小さくため息をつく。


「あたしは正真正銘、本物のライハだよ。ただ、今はワケあって魔族の体に変異してる」


憑魔ひょうま……ですか」


 元は人間だったものが魔族へと変化したもの、それが憑魔。

 原因こそハッキリと判明していないものの、古来から多数の事例があった。


「まぁ、そうなるのかな……。で、80年くらい前から魔王やらせてもらってます」


「……よくわかりました。やはりあなたはライハじゃない」


「えぇ……と、話聞いてた? ……って、ムリもないか。よりにもよって憑魔だもんね」


 リフレの過去――魔族を憎むきっかけとなった事件をライハは知っている。

 だからこそ知られたくなかった。

 知られれば、決定的な亀裂が生まれてしまうから。

 こうなってはもう二度と、リフレは自分の言葉に耳を貸そうとしないだろう。


「これ以上、ライハの姿で悪行を重ねさせません。魔王よ、今ここであなたを殺します」


「やっぱこうなっちゃったか……。じゃあもう、力ずくで連れ帰るしかないね」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 殺し愛、第1ラウンド開始ですね!! [一言] >リフレの過去――魔族を憎むきっかけとなった事件をライハは知っている。 あっ…(察し)
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