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73 片翼の正体




 魔王城最深部、魔王の私室。

 椅子に深く腰掛け、ロークから押し付けられた資料に目を通すライハ。

 そのかたわらで、リフレは遠慮がちに彼女へ声をかける。


「あの、ライハ」


「どした?」


 すぐに資料から目を離して、リフレと目を合わせるライハ。

 手の届く距離にいて、呼べば当然のように答えてくれる。

 そんな関係に戻れたことに小さな感動を覚えつつ、質問を投げかける。


「わたくしの『黒い翼』のこと、ロークに言ってないのですか?」


 頭の先から足の先まで、すべてが好奇心で出来ているようなあの男が、リフレの変化に一度も言及しなかったことを、リフレは不思議に思っていた。

 マルーガという恰好の実験体を手に入れて、時間も忘れてその研究に没頭しているにしても、一言くらい触れてもいいはずだ。

 考えられる理由が、『そもそも知らない』程度しか思いつかない。


「そうだよ。ロークの耳には入れてない」


「なぜ……?」


「言えば面倒なことになりそうだから、かなー」


 たしかに、未知の現象を究明するための実験に協力しろとしつこく迫られそうだ。

 想像するだけで、げんなりした気分に襲われる。


「アイツに見せれば、あの力の正体がわかるかもしれないけどさ。――その必要、ないだろ?」


「――えぇ。師匠が見極めてくださいましたから」


 師匠との闘いのさなか、リフレの背中に生えた黒の片翼。

 今はもう消えているが、その気になればすぐに出せると感覚でわかる。

 自分の力として、自在にコントロールできると確信している。 


 なにより、あの師匠が認めてくれた力。

 ならば未知でこそあれ、危険な力であるはずがないだろう。


「正体なんてどうでもいい。リフレの力になって、リフレを助けてくれるなら、面倒な実験に付き合う意味なんてない。そう思って黙ってたんだ」


「ライハ……。ありがとうございます」


「……い、いえいえ、どういたしまして」


 自分を思いやるライハの気持ちを受け取って、胸の奥が高鳴るリフレ。

 胸元に両手を重ねて微笑みながらお礼をすると、今度はライハが顔を赤くして顔をそらした。


「も、もしかしたら余計なことだったかなー、て考えてたりもしたからさ。正体を知りたかったりしたらー、とか。よかった、うん」


「正体……。それなのですが、なんとなくわかるのです。この力がどういうものなのか」


「……わかるの?」


「えぇ。念押ししますがなんとなく、です。根拠などない直感的なものですが――」


 この力が発現したのは、ニローダの支配から解放されたとき。

 そのきっかけとなったのが、口移しでライハから絶望を受け取ったこと。

 そして、力を使っていた時に感じていた感覚と照らし合わせれば……。


「おそらく、この力はわたくしの生まれ持った『白の異形』の因子と、ライハの――魔族の力が混ざり合ったものなのではないか、と」


 ライハの注ぎ込んだ絶望と、ニローダによって活性化していた体内の白の因子が混じり合い、爆発的な変化を起こした。

 それがリフレの立てた推測だった。


 もちろん、このようなケースは魔王であるライハすら見たことも聞いたこともない。

 だが、ライハの中でその理由は不思議と腑に落ちた。

 不思議と信じる気になれた。


「なるほどね、あたしの力か。だったらリフレを守るに決まってるね」


「でしょう? ふふっ」


 ライハ自身、あの力からは魔族とよく似た波動を感じていた。

 正体がリフレの推測通りならば、そのことにも、リフレが力を自在に操れることにも納得がいく。


「あの人だってリフレの力として認めてたし。うん、きっとそうだよ」


「はい。師匠が認めてくれた力ですものね」


「……ん? 待って、ちょっと待って。それってつまり、あたしらの関係は親公認ってこと?」


「……え?」


「だってそうだよね。あの人、リフレの親も同然でしょ? その人がリフレの一部として認めてくれたんだから」


 魔王は何だかおかしなことを呟きつつ立ち上がり、リフレにじりじりと近づいてくる。

 思わず後ずさるリフレだったが、すぐに背後のベッドまで追いつめられてしまった。


「あ、あの、ライハ……?」


 魔族らしく、自分の欲望に忠実に生きると言ったライハ。

 宣言通り、今の彼女の目は欲望でギラギラしている。


 さて、心のままに一体なにをするつもりなのだろうか。

 考える間もなく、両肩をつかまれてベッドの上に押し倒されてしまった。


「……ねぇ、リフレ」


 耳元で熱い吐息混じりにささやかれ、くすぐったさから身をよじる。


「あたしの力とリフレのが、体の中で混じり合うってさ……。なんだかちょっとえっちじゃない?」


「な、なにバカなこと言ってるんですか! 早くどいてください……!」


「……どいて欲しいの? 本当にダメ?」


「う……。そんなこと……。そんな聞き方、ずるいです……」


「あ、もうダメ。我慢できない。いいってことだよね、いただきます」


「ちょ、んむぅっ!!」


 唇がふさがれ、そして。

 欲望のままに生きるということの意味を、リフレはとことん教え込まれるのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] やばっ下半身が反応しちゃっぁっ
[一言] 今回のヒロイン(ライハ)は今までの作品のヒロインたちとは違って積極的ですね。 これも魔族化している影響なのでしょうか。それとも元から…?
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