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67/97

67 百分の一でも




「弟子としての最後のつとめ、果たさせていただきます」


「……来な」


 もう迷いはなかった。

 師匠の手招きに応じ、一気に間合いをつめるリフレ。

 直後、二人の肉弾戦がはじまった。


 拳打、蹴撃、手刀。

 ありとあらゆる技と力を駆使し、繰り広げられる超高速の攻防。

 余波で周囲の地盤が崩れ、拳の圧でクレーターが次々に作られる。


「はん、やっと本気になったかい!」


「えぇ、本気です! 本気でなければ意味がない……っ!」


「嬉しいね! だが、そんなもんじゃないだろう!」


 つい先日までのリフレならば、この時点ですでに倒されていた。

 だが、今のリフレにはまだ余力がある。

 この急激なパワーアップは、明らかに自然なものではない。


 格闘者として今のリフレの底を知りたい。

 と同時に、この力がリフレの今後に影を落とさぬものか否か、その根源と正体を確かめたい。

 弟子の瞳に覚悟と闘志が宿った今、師匠の目的はそこにスライドしていた。


「見せてみな、本気を超えた底力をね! 双鹿突そうかとつ!!」


 両の拳を同時に突き出す技、双鹿突。

 相手に防御の択を強いて隙を作りだす牽制技だが、師匠が放てば必殺の一撃となりうる。


「あぐっ!」


 胴体に二つの打撃を同時に受け、大きく後ずさるリフレ。

 追撃をしかける師匠だが、リフレもすぐさま体勢を立て直す。


「どうした? そんなもんじゃ、あたしを安心なんてさせられないよ!」


「……っ、まだまだ!」


 一歩も退かず、すぐさま間合いをつめて攻防を再開。

 一進一退の攻防がひたすら繰り広げられる。


「師匠! わたくしは……、あなたを超えて行きます……!」


「口先だけならなんとでも言えるよ!」


「口先だけで終わらせない……! 師匠に安心してもらうために……、もう思い残すことがないように……!」


 師匠の繰り出した正拳をかがんで回避。

 攻撃が空ぶった瞬間、生じた一瞬の隙を逃さずに、かがんだ体勢からバック転をしつつ蹴り上げる。


昇燕尾しょうえんびッ!」


「……っ!」


 リフレの足が師匠のあごをかち上げ、わずかにのけぞらせた。


(今! 勝負をかける……っ!)


 軽やかに着地し、拳の連撃を浴びせかけていくリフレ。

 師匠がわずかに押され始めた……かのように思えたが、


「……まだまだ、なってないねぇ。昇燕尾ってなぁ――」


 師匠もまた同じように身をかがめ、リフレの正拳を回避。

 その隙を逃さず、バック転をしつつ蹴り上げる。


 バギャッ!!


「あぅ……っ!!」


 先ほどのリフレが放ったものとは異なり、あごを蹴り上げられたリフレの体は、その威力に上空へと舞い上がった。


「コイツへの、つなぎ(・・・)の技だと教えただろう!」


 リフレを追いかけ、師匠も天高く飛び上がる。

 そのまま空中で一回転し、強烈なかかと落としを脳天に叩き込んだ。


「飛燕流星!!」


 ドゴォォォォオッ!!!


 文字通り流れ星のような勢いで地面に叩きつけられるリフレ。

 衝撃で巨大なクレーターが生まれ、その中心に降り注ぐガレキに彼女の体が埋もれていく。


 かつてリフレがジャージィを倒した時に放ったものとは、まったく比較にならない威力。

 以前のリフレなら、すでに意識を失っているだろう。

 しかし、


 ガラガラ……ッ。


「……ほう」


 今の彼女は倒れない。

 ガレキをかきわけて起き上がる弟子の姿に、師匠は目を細め、口元をゆるめる。


「今ので倒れないとはね」


「倒れてなんていられません……!」


 両足でしっかりと立ち上がり、師匠を見すえるリフレ。

 受けた傷はオートヒールで即座に全快。

 すぐさま大地を蹴ってクレーターから飛び出し、ふたたび師匠に挑みかかる。


「これまで師匠に受けてきた恩の数々、あまりにも多すぎて、大きすぎて、全部を返すことなどできません。でも……!」


 息もつかせぬ蹴りと拳のラッシュを放ちながら、リフレの口をついて出るのは思いの丈。

 育ての親であり恩師でもある師匠への、おさえきれない感情の奔流。


「でも! ほんのわずかでも! その百分の一でも返したい!」


「……っ!?」


 リフレの拳をガードしたとき、師匠は異変に気付いた。

 速度が、威力が、明らかに上がってきている。


「これは……!」


「だから……っ! だから、倒れてなんていられないんです!!」


 ドギャッ!!


 渾身の力で振りかぶり、繰り出した正拳が、ついに師匠のガードをつらぬいた。

 砂煙を巻き上げながら地面を数十メートルほどすべったあと、老婆は見定めるような視線を弟子へと――弟子の背中へと送る。


「……やっと『形』を見せたね。なるほど、そいつが力の正体か」


 リフレの背に生まれたのは、黒の片翼。

 『天の御遣い』のものとそっくりな、しかし漆黒に染まった片翼の翼が、羽根を散らして広がった。




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