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64 リフレの異変




 圧倒的な力でサムダを追い詰めるリフレ。

 彼女の見せる戦闘力に、ライハも言葉を失っていた。


 108年前、魔王討伐の旅を共にして、現代においては何度も拳と刃を交えた間柄。

 リフレの強さのレベルを誰よりも――師匠よりも把握しているのがライハだ。


 そんなライハだからこそ断言できた。

 今のリフレの強さは、異常だと。


(あの回し蹴り……。反応速度といい威力といい、さっきまでと全然違う……)


 先ほどまでのリフレなら、サムダの思惑通りに意識を刈り取られていたかもしれない。

 この突然の変化、まず思い当たるのが『憑魔化』だった。


 原因不明とされている人間から憑魔への変異だが、魔王であるライハだけはその仕組みを知っている。

 その条件とは、まず濃度の高い絶望を体内に取り込むこと。

 そして、その状態で深い絶望に沈むこと。


(でもリフレ、ちっとも絶望してないよね……。むしろすっごく怒ってる)


 後者の条件を満たしていない以上、憑魔となった結果のパワーアップとは考えにくい。

 ともかく、リフレになんらかの異変が起きたことだけは事実。

 ゆっくりとサムダに迫っていくリフレを、ライハは心配そうに見守っていた。


 一方、怒りに燃えるリフレは。


「さぁて、何発撃てば引っ込むのでしょうね。まず一発」


 バギャッ!!


「ぐぶぁっ!!!」


「二発、三発」


 ドガッ、ゴッ!!


「まだ足りません? あなた、まだサムダですか?」


 戦意を喪失した敵に対し、容赦なく拳を浴びせていく。


「や、やめろっ、げっ、ぶぁっ!!」


「まだサムダですね。では続けましょう」


 この上なく冷徹な目で見下ろしながら、尻もちをついたサムダに何度も拳を振り下ろす。

 肉体の主導権を師匠に返すまで、攻撃の手を止めるつもりはない。


 一方、完全に心を折られて殴られ続けるサムダ。

 その心の奥に呼びかける声があった。


『なんだい、やられ放題じゃないか。いいザマだねぇ』


(……っ、ババァ……!)


『おやおや、あたしの声が聞こえるのか。そこまで弱っちまってるたぁ、哀れなもんだ』


 愉快愉快、とでも言いたげな口調に不快感をつのらせるも、今のサムダにもはや打つ手など残されていなかった。

 リフレの攻撃によって、師匠を抑え込むための力は刻一刻と削られていき、師匠の声も次第に大きくなっていく。


『ずいぶん苦しそうじゃぁないか。どうだい? そろそろ代わってやってもいいんだがねぇ』


(うるさい……! あたしには、ニローダを降臨させる使命が……!)


『使命。はぁー、立派なもんだ。……ところで、アンタの中にいるあたしにゃぁ、アンタの心の声が手に取るように聞こえてね』


(……ッ!?)


『リフレが怖い、恐ろしい。痛い、苦しい。もう許して。……くくくっ、なんともご大層な使命感じゃないか』


(だ、黙れ……!)


『情けないったらありゃしない。いくら強がってみせても、アンタの心はとっくに負けを認めてんだ』


(黙れ黙れ黙れ!!!)


『とっくにアンタの出番は終わったんだよ。理解したならさっさと引っ込みな、この寄生虫が!!』


「……黙れえぇぇぇええぇぇえぇえぇぇっ!!!!」


 バギャァァァァァッ!!


 絶叫と共に立ち上がり、直後にリフレの拳を顔面に食らったサムダ。

 きりもみ回転で吹き飛び、地面に何度もバウンドし、五十メートルほど行ったところで停止。

 そのままぐったりと動かなくなった。


「なんでしょう、いきなり叫んだりして。狂ったのでしょうか」


「……さぁ。それよりリフレ、すっごい吹き飛び方したけど、死んでないよね?」


「師匠の体ですし、大丈夫……なはずです」


 強さに関して、リフレは師匠に全面の信頼を置いている。

 パワー、スピード、テクニック、そしてタフネス。

 そのどれもがリフレやライハのはるか上を行くものだと確信している。


(……し、しかし、さすがに心配になる吹き飛び方でしたね。いきなり立ち上がってきたので、力加減を間違えてしまいました)


 こうしてライハと話している間にも、師匠の肉体は身じろぎひとつしない。

 万が一の可能性が頭をよぎり、不安がふくらんでいく。


「……ちょ、ちょっと様子見てきますね」


「う、うん。行ってらっしゃい……」


 なぜかライハに許可を取ってから、駆け足で師匠の体へと近寄るリフレ。

 大の字に倒れた体をそっとのぞき込み、


「……あの、生きてますか?」


 声をかけてみるも反応なし。


「あ、あのー……」


 もしかして本当に殺してしまったのか。

 脈拍と心臓の鼓動を確かめるため、体をかがめたその瞬間。


 ヒュパッ!!


「……!!」


 突如として立ち上がった老婆が、鋭い拳の一撃を放った。


 パシィ!!


 間一髪。

 顔面に命中する直前、手のひらで拳を受け止めるリフレ。

 不意打ち気味であったとはいえ、その速度は反応できる限界に近かった。


(今の一撃……。この速さと鋭さ、そして……)


 ブンっ!


 腕を払いのけ、すぐさま間合いを取る。

 攻撃を止めた手のひらに感じる、ジンジンとした感触。


(この威力……。サムダでは到底打てないはずの一撃。まさか……)


「……今のを止めるたぁ、成長したもんだねぇ」


「……まさかっ」


 確信を持って戦闘態勢を解くリフレ。

 けわしかったその表情も、みるみる緩んでいく。


「本当に、見上げた弟子だよ。リフレ」


「師匠……っ!!!」




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