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63/97

63 圧倒的




 封印を解いて以降、サムダは常にリフレを見ていた。

 時に師匠をよそおい、時に師匠の内側から、じきにニローダの器となる彼女の戦いぶりを観察してきた。

 さらに言えば彼女が封印される以前、師匠に拾われた幼いころから、ずっと。


 その上で、勝てると確信した。

 リフレの実力はいまだ師匠に遠く及んでいない。

 全ての能力を引き出せないとはいえ、師匠の肉体を使って戦う自分に負ける道理など無いと。


「寄生虫たぁご挨拶だねぇ。まぁいいさ」


 だからこその、余裕と自信。

 不敵な笑みを浮かべたまま、サムダが挑発混じりの手招きをする。


「さぁ、遠慮なくかかってき――」


 バギャァァァッ!!


「ぶぬあがっ!!!」


「言われなくとも、あなたなんかに遠慮はしない」


 瞬間的に間合いをつめ、再び拳を叩き込むリフレ。

 鼻血を噴き散らしてのけぞりながら、サムダの脳裏に若干の困惑がよぎる。


 先ほどは完全な奇襲だったがために殴り飛ばされたと、そう判断していた。

 しかし今回、決して油断はしていない。

 常に相手の動きに対し、警戒していたにも関わらずのこの結果。


「……っ調子に乗んじゃないよ、小娘がぁ!!」


 浮かびあがる『疑念』を振り払うように、サムダが叫ぶ。

 同時に力の配分を7割にまで上昇。

 ジョー・ガウンが命を捨てなければ、有効打すら望めなかった圧倒的な実力を見せつけるため、反撃に転じる。


 しかし、サムダの攻撃はことごとく打ち払われた。

 顔面を狙った連撃をたやすく回避され、あるいは手のひらで軽く受け止められる。


「こんなものですか? あなた」


「……っ、調子に乗るなと言ってんだッ!!」


 焦りから冷静さを失ったのだろう。

 大振りの打撃を繰り出すサムダ。


 対するリフレは冷静に敵の腕へ手をそえて軌道をそらし、がら空きになった顔面に、


 ゴシャァァァァッ!!


「ぶっ……!!」


 強烈な肘撃ち(エルボー)を叩き込んだ。


「がっ……はぁっ、こんなはず、こんなはずは……っ」


「この程度で大口叩いていたんですか」


 ドゴッ、バギャッ、メギャッ!!


「ぶっ、がっ、ぁぎっ!」


 続けて放たれた拳の連打は次々と、吸い込まれるようにサムダの顔面へ。

 一つ一つが首をもぎ取るような重さの打撃を連続で受け続け、もはやなす術もない。


「同じ肉体を使っていても、師匠には遠く及びません。あなた、弱いですね」


「っ、ぐおおぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 叫びと共に、サムダの姿がリフレの前から消える。

 ほんの一瞬だけ使用可能な9割の力。

 その一瞬に賭け、サムダは超高速移動でリフレの背後に回り込んでいた。


(さすがにこの速度にゃぁ反応できないだろ。このまま背後から手刀で意識を刈り取って――)


 ゴ……ッ!!!


「あぇ?」


 手刀を放とうとした瞬間、頭部に走る強烈な衝撃。

 リフレの回し蹴りが叩き込まれたのだと気づいたのは、吹き飛ばされて地面を転げまわり、吐血をしながら立ち上がってからだった。


「がっ、はぁ、はぁ……っ、バ、バカな……! 今の動きが、見えていたとでも……っ」


「えぇ、見えていました。遅すぎますね、師匠の十分の一以下ですよ」


 十分の一以下、というのは挑発混じりの誇張だったが、それでも今のリフレには簡単に目で追えた。

 背後に回り込むまでの敵の動きが、コマ送りのようにハッキリと見えた。


「あ、ありえない……! こんな、こんなことが……ぁっ!!」


 対して、サムダのショックは絶大。

 自らの引き出せる、体を制御できる限界である9割の力が、リフレにまったく通用しない。


 リフレは自分よりも遥かに強い。

 抱いた『疑念』が確信に変わった瞬間だった。


「なぜ……! 魔王と戦っていたときには、ここまでの強さはなかったはず……っ!!」


 結界を貼っていた時の、力をセーブされていたライハとほぼ互角程度。

 当然ニローダには遠く及ばず、自分の力でも十分に勝ちを収められると、リフレの力量をそう踏んでいたサムダ。


 にも関わらず、この圧倒的な力の差。

 ライハやニローダにも匹敵するほどの強さを唐突に手に入れたとしか思えない。

 大幅な計算の狂いを前に、サムダの絶望と混乱はふくらんでいく。


「さぁ、どうしてでしょうね」


 当のリフレにも、パワーアップの原因はわからなかった。

 わからなかったが、これでいい。

 師匠とライハを侮辱し、自分の運命をもてあそんだ憎むべき敵に絶望を与えられているのだから。


「さて、あとどれほど痛めつければ、体を師匠に返してくれるのでしょう。あと何回殴り続ければ? ……続けていればわかりますか」


 ザっ。


「ひっ……!」


 一歩、リフレが踏み出すと、サムダの肩がビクリと跳ねる。

 完全に心が折れた敵に、リフレはこの上なく冷たい視線をむけながら詰め寄っていく。


「安心してください? 殺しはしませんから。死ぬより苦しいかもしれませんけどね」




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