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59 魔王様が御為に




 時は前後し、さかのぼること数十分。

 魔王とニローダの戦いが佳境をむかえようとしているころ。


 第一区と第二区をつなぐ空中回廊ではじまった戦い、その戦局は魔族たちの劣勢に傾いていた。


「どうした? こんなもんかい、一区と二区の区長さんとやらは」


「やはり……、はぁ、はぁ……っ、簡単にはいかないか……!」


「強敵結構……! 鍛えた技と肉体の魅せ所だ……ッ!」


 余裕の笑みで腕を組み、膝をつくジョー・ガウンとグフタークを見下ろすサムダ。

 傷だらけの二人に対し、老婆は目立ったダメージを負っていない。


「威勢はいいが、今にもくたばりそうじゃぁないか。そうまでして体を張るものかねぇ?」


「当然だ……! 魔王様がこのグフタークに、命を賭して時間を稼げと命令した! ならば、たとえ死しても遂行するのみ!」


 立ち上がり、剣にオーラをまとって斬りかかるグフターク。

 並みの相手ならば一瞬で細切れになるだろう連撃を、サムダは表情ひとつ崩さず、その場から一歩も動かずに上半身の動きだけで回避していく。


「く……っ、かすりもせぬとは……!」


「はぁ、健気なことで」


 ドボォッ!!


 一瞬の、隙とも言えない隙をつき、サムダの放った拳がグフタークの腹に突き刺さる。


「が……ッ!」


 緑の血反吐を吐きながら吹き飛ぶグフターク。

 その体をジョー・ガウンが受け止めた。


「ジョー殿、かたじけない……」


「先走るな。二人でかからねば勝負にもならぬぞ」


「あぁ、そうだな……!」


 うなずき、戦闘態勢をとった二人がサムダと対峙する。


 圧倒的な戦闘力を発揮するサムダに対し、ここまで彼女たちは二人がかりでなんとか食らいつけていた。

 要因は二つ。

 一つは、サムダが師匠の肉体のスペックを充分に引き出せていないこと。


 内なる師匠が抵抗をしているのか、もしくはサムダ本人の肉体からかけ離れているからなのか。

 いずれにせよ、その戦闘力は現状では塔での戦闘時のリフレにまでは及んでいないと、両者と剣を交えたグフタークは判断している。


 もう一つは横やりが入らなかったこと。

 魔族兵と天の御遣いとの戦いは今なお続いている。

 部下たちの決死の戦いのおかげでサムダ一人に集中できていることに、ジョー・ガウンは心中で感謝を告げた。


「では、いくぞ……っ!」


「あぁ、参る!」


 息を合わせ、同時に駆け込む二人の区長。

 先陣を切ったグフタークの横なぎを、サムダがバック宙で回避。

 そのまま連続バック転で距離をとる。


「健気だねぇ。今この瞬間にも魔王が死んで、消えるかもしれないってのにさぁ」


「魔王様は負けぬ。それよりも――」


「――自分の心配をした方がいい」


 回避行動を終え、反撃にうつろうとした直後。

 サムダの背後にまわったジョー・ガウンが、太い腕で腹回りをがっちりとホールドする。


「ぬおおぉぉぉぉぉぉっ!!」


 そのまま雄たけびとともにブリッジの姿勢をとり、スープレックスでサムダの頭部を地面に叩きつけにかかった。


「はっ、甘いねぇ」


 パシッ。


 が、サムダの頭部が砕け散ることはなかった。

 ホールドされていなかった両腕を先に地面につけ、腕力だけで投げの勢いを完全に止めて見せると、


 ドゴォっ!!


「ぬぅっ……!」


 同じくフリーの足をジョー・ガウンの腹部にたたきつけ、分厚い鎧を蹴り砕く。


「この程度で、あたしを崩せると思わないことだ」


「……そのセリフ、そっくり貴殿にお返し致そう。おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 しかしジョー・ガウンも崩れない。

 六つに割れた分厚い腹筋が内臓への衝撃をやわらげ、ひるむことなく体を引き戻す。

 ふたたびサムダの体を浮かばせると、今度はブンブンと振り回し、


「グフターク、やれッ!!」


 剣をかまえるグフタークへと、サムダを投げ飛ばした。


「さすがだ、ジョー殿」


 一直線に飛んでくるサムダ。

 その首を断ち切るため、鋭い踏み込みから繰り出されるのは目にも止まらぬ高速の一閃。


「もらった……!」


 正確無比な剣の運びが、吸い込まれるようにサムダへと振るわれる。

 回避不可能、そう確信したグフタークだったが。


 ガチッ……!


「なに……っ!?」


 剣を止めたのはサムダの歯。

 命中の瞬間に刃を前歯ではさみ咥える離れ業に、グフタークにも動揺が走る。

 だが、それも一瞬のこと。


「……っ、ジョー殿、頼む!」


 技をふるった勢いのまま一回転し、剣ごとサムダをジョー・ガウンの上方に投げ飛ばす。


「心得た! 我が筋肉、その全霊で――」


 同じくジャンプしたジョー・ガウンが、空中でサムダの体を絡め取った。

 両手で足首をつかみ、手首は膝裏で挟んで固定。


「とくと味わうがいいッ!!」


 敵の頭部を真下にむけて、全体重を乗せて落下していく。

 両手両足を完全にホールドされ、今度こそサムダに回避する術はない。


「マッスル・メテオドライヴッ!!!」


 ドゴォォォォォォッ!!!


「がはっ……!」


 脳天を打ち付けられ、その衝撃に周囲がクレーター状に陥没。

 サムダは口から剣を離し、金色の血を吐き散らした。


「……決まった」


 拘束を解き、離れるジョー・ガウン。

 サムダの体は糸の切れた人形のようにその場に倒れ伏す。


「まだだ、ジョー殿。油断せず、確実にトドメを刺す……!」


 叫びつつ、グフタークが素早く剣を拾う。

 そして、ピクリとも動かないサムダに対し、


「今度こそ、終わりだッ!!」


 切っ先をむけ、心臓めがけて振り下ろした。




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