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50 明敏なる豪腕




「おらおらぁっ!! もっともっと楽しもうぜぇッ!!」


 マルーガの剛腕でもって振り回される、嵐のような戦斧の連撃。

 小太りの体系に見合わない身軽な動きで連続バック転を打ち、エゾアールは猛攻をかわしていく。


「避けてばっかじゃ勝負になんねぇだろぉがぁ!」


「この体格差、真正面から打ち合う方がよっぽど勝負にならんだろーがっ!」


 圧倒的なパワーから繰り出される巨大なバトルアックスの破壊力は、地面を割り砕き、建物を両断するほど。

 エゾアールの武器が細身のカタナである以上、打ち合えば勝負は見えている。


「んーなこともわからんほど、脳みそに筋肉詰まっとるのか!」


「理屈ぁわかるぜぇ? けどよぉ、その方が楽しいじゃねぇかぁっ!!」


 ブオンッ!


 うなりを上げて振り下ろされる戦斧を、後ろに飛びのいて回避するエゾアール。

 だが、


「それでかわしたつもりかぁ?」


 ドゴォォォッ!!


 砕かれた石畳が石つぶてとなって、エゾアールめがけ正確に打ち出された。


「なんと……!」


 ドゴゴゴゴゴっ!


 腕をクロスして急所への直撃をガード。

 ダメージこそ軽微だが、マルーガの狙い通りエゾアールはよろめき、足が止まる。


「そこだぁっ!!」


 渾身の力をこめて戦斧が振り上げられ、打ち下ろされる。


「むぅ……!」


 カタナで受け止めるために防御姿勢をとるエゾアールだが、


「無駄だぁ!! 今度は受け止められねぇぞぉ!!」


 今回の攻撃は両手持ち。

 細身のカタナごと敵の体を叩き切るために、もっとも威力の高い一撃で確実に仕留めにかかっていた。


 絶対に回避できない体勢の相手への致命の一撃。

 マルーガの目論見通り、戦斧の刃はエゾアールをとらえ、彼の体を真っ二つに叩き切る――はずだった。


 ドガァァァァッ!!


「……なにぃ?」


 しかし、結果は地面に大きなくぼみができただけ。

 エゾアールの体はマルーガの方をむいたまま、地面すれすれをすべるような不自然な動きで離れていく。

 そうして一定の距離をあけると、またも不自然にピタリと急停止した。


「ふぅ、ちと危うかったぞ……」


「……ほう。今のがてめぇの持ち技か」


「おおっと、どうだかね」


 マルーガの読み通り、この現象はエゾアールの戦技『招機到来ショウキトウライ』によるもの。

 戦闘そのものを避け、生き残る力を最大限に引き出す戦技のため、直接戦闘には基本的にむいていない。


 たった今使った技はその応用である『反発(リパルション)』。

 敵と定めた相手の魔力を自分の魔力と磁石のように反発させ、一定の距離をとることができる。


「つまんねぇことしてくれるじゃねぇか」


「戦闘は得意でないのでね」


「最初の打ち合い、とてもそうは思えなかったが……なッ!!」


 ギュンッ!!


 マルーガの足の筋肉が膨張し、巨体に見合わぬ速度で急接近。

 そのまま横振りの戦斧をエゾアールに見舞う。


「おっと! いささか買いかぶられているようだね……!」


 この攻撃をバック転で回避し、エゾアールは通りの建物の屋上まで跳躍。


「見ての通り、わたしゃ逃げ回るしか能のない男。強い味方がやってくるまで、時間を稼がせてもらうとするよ」


 言い残し、連なる建物の上を飛びわたって逃走をはかるエゾアール。

 もちろん、ただ逃げるわけではない。


 ロークの立てた作戦を成功させるためには、敵をある地点に誘導する必要がある。

 戦意旺盛、かつ思慮の浅そうなあの敵ならば、確実に追ってくると踏んでの撤退だった。


「おい、おっさん。この期に及んでまだ鬼ごっこか?」


(来た……。……っ!?)


 狙い通りと振り向いたとき、エゾアールの顔は驚愕に染まる。

 声が聞こえた背後にすでに敵の姿はなく、前方から感じる凄まじい殺気。


 すでにマルーガはエゾアールの行く先に回り込み、駆けてくる彼に合わせて斧を振り切ろうとするところだった。


 ブオンッ!!


「あぶっ――」


 ギリギリで身をかがめ、頭頂部すれすれを刃がかすめていく。

 背中側まで抜けると同時、『反発(リパルション)』を発動。

 敵と距離を取り、目的地までの距離もわずかに稼ぐ。


「――っないねぇ……。危うく真っ二つになるところだったよ……」


 エゾアールのほほを冷や汗が伝う。

 物理的な命の危機ももちろんだが、何よりもマルーガのスピードが予想外だった。

 しかしこのあと、マルーガはさらなる予想の上を行く。


「なぁ。今どうして、斧が振られる前に離れるヤツをやらなかった?」


「な、なんのことだね?」


「とぼけんじゃねぇよ。わざわざ攻撃をかいくぐって、俺の後ろに回ってから離れただろ」


「あ、あぁ。とっさには出せないだけのことだよ」


「とぼけんじゃねぇっつってんだろ」


 再び超高速で迫るマルーガ。

 反射的に『反発(リパルション)』を使い距離を取るも、移動が終わった瞬間には間合いの中に入り込まれる。


「ほらな、とっさにできたじゃねぇか」


「うぐっ……!」


 連撃をかいくぐり、なんとか距離を取ろうと飛び駆ける。

 しかしマルーガの猛攻は止まらない。


「ただその技、欠点があるな。連続して使わないあたり、五秒ほどのクールタイムが必要と見た」


(こいつ……!)


「それでも、さっきのは余裕で五秒経ってたな。だとしたら、なんで使わず危険をおかしてまで回避したのか」


 攻撃をかいくぐりつつ進む中、視界のはしに円形広場が映る。

 E―21区画・第二広場。

 マルーガを誘導するように、ロークが指定した場所だ。


(見えた! だ、だが……っ)


「そういやぁお前、さっきから同じ方向に逃げてるなぁ? つまり、どっかを目指してるってことかぁ?」


「ど、どうだかねっ!」


「なるほどなぁ。目的地までの距離を少しでも稼ぐため、かぁ。だとしたら、そこはいったいどこなのか……」


 ただの筋肉バカかと思いきや、冷静に戦局を分析していく。

 このままでは作戦そのものを見破られるのでは。

 そんな考えが頭をよぎり、エゾアールのわずかに泳いだ視線が広場へとむけられた。


「……ほう、そこかい」


 ブオンッ!!


「っ!!」


 ガギィィィッ!!!


 フルスイングで振りぬかれた戦斧。

 とっさにカタナで受けてガードしたものの、衝撃を殺しきれずにエゾアールの体は広場へむけて猛スピードで吹き飛ばされる。


 ドゴォォォッ!!


「が……っ!!」


 石畳に背中から叩きつけられ、緑色の血を吐き散らすエゾアール。

 目的地にはたどり着けた。

 だが……。


「お望み通りの場所に送ってやったぜぇ? さぁて、なにを企んでやがるのかなぁ……?」


「ぐっ、げほっ……! ホント、嫌いだね……! 見かけによらず鋭い洞察しおってからに……!」


 広場に降り立ったマルーガは、周囲をぐるりと見まわす。

 策があるならすぐにでも見破ってやろうと言わんばかりに。


(ローク、本当に成功するんだろうね……? アンタのことは本当に嫌いだが、もうアンタに賭けるしかないよ……!?)




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