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49 二つの局面




「ローク! こ、これはいったいどういうことだねっ!?」


『だーかーらー。さっき説明したじゃないですかぁ。敵が来るかもしれないよ、って』


 四区長であるエゾアールは焦っていた。

 ジョー・ガウンとグフタークの討伐隊が出陣したとの報告を受けた数十分後。

 彼の管轄する第四区に、『天の御遣い』の大軍団が襲来したからだ。


 戦場と化した市街地で部下の魔族兵たちが悲鳴を上げながら奮戦する中。

 彼はイヤホン式の通信機でロークに指示を出されつつ、とある地点にむかっていた。


「どこ行くんだよ、魔族(イレギュラー)のオッサンよぉ! 早くり合おうぜぇ!」


 筋骨隆々の白い異形、マルーガの巨体に追われながら。


「だ、だいたいどうして私なのかねっ!? キミの立てた作戦ならばキミが体を張るべきだと思うのだが!?」


『いやー、肉体労働苦手でして。あと他にもいろいろやることあるんで』


「暗に私がヒマだと言っているのかね!?」


「なに一人でブツブツ言ってんだぁ、このオッサン。……まァいい。る気がねぇんなら――」


 マルーガの右手の先に金色のワープゲートが出現する。

 そこから彼が取り出したのは、金色に輝く巨大な戦斧。

 三メートル近い巨体でなお手にあまる巨大な得物が、


 ブオンッ!!


「ひぃっ!!?」


 ドゴォっ!!!


 軽々と振り下ろされ、エゾアールの背中をかすめて石畳を砕いた。


『あー、この分だと逃げながらってのは難しそうだねー。戦いながらむかっちゃって』


「私っ! キミがっ! 嫌いだよッ!!」


 額に青筋を立てながら絶叫するエゾアール。

 マルーガの追撃の手は緩まず、


「オッサン。独り言なら死んでからにしてくれや。俺ぁもっと骨のあるやつ、探しに行くから……よッ!!」


 ブオンッ!!


 再び振り下ろされた戦斧の一撃。

 しかしその巨刃は地面もエゾアールも砕くことなく、


 ガギィィ……ッ!!


 エゾアールが両手でかまえた、カタナと呼ばれる薄刃の前に受け止められた。


「……ほう? なんだァ、ただのオッサンかと思いきや」


「……はぁ。嫌いだね。私ゃ嫌いだよ。お前さんみたいな脳みそ筋肉も、ロークのような頭でっかちも。嫌いなヤツにゃあ出会わないのが一番だが……」


 額の脂汗が引き、涙のにじんでいた瞳が鋭く光る。

 目の前の中年魔族の変貌に、マルーガは楽しげに目を細めた。


「出会っちまったら、斬るしかないねぇ」


「いいねぇ、楽しませてくれそうじゃねぇか」



 〇〇〇



 同じ年頃の少女と朝から遊びまわる。

 相手は魔族で実年齢など不明なのだが、ともかくニルにとって、それは初めての経験だった。


 第三区の住民の大半は魔王城へと避難させられ、通常の店舗などもほとんど閉まっていたのだが、それでも。

 アイリに手を引かれて見知らぬ街並みを見て回る。

 ただそれだけで、少女はこれまで味わったことのない高揚感と充実感を感じていた。


 そうして時が過ぎ、グフタークたちが二区へと出撃したころ。

 アイリとニルのお出かけも、最後のスポットを残すのみとなっていた。


「最後、ここ。静かでお気に入り」


「ここ……。なに……?」


 見たことのない風景に、ニルは困惑する。

 開けた草原の中、文字の彫られた奇妙な形の石が規則正しく大量に並ぶ光景。

 この場所がなにを意味する場所なのか、彼女にはわからなかった。


「お墓だよ」


「お墓……? って、なに?」


「死んだ人の死体を埋める場所」


「え……。ここ、死体が埋まってるの……?」


 この石――墓石ひとつひとつの下に誰かの死体が埋まっている。

 そう聞いたとたん、なんだか薄気味悪い場所のように思えてくる。


「そう。死んだ人を埋めて、お墓を立てて、生きてる人は死んだ人に会いに来る。『ドゥッカ』ができる前からの、人間の文化」


「死んだ人に、会いに来る場所……。あ、あのさ。だったらジャージィのお母さんのも、作ってあげられないかな」


「いいよ」


 意を決して頼んでみたというのに、あっさりと了承された。

 少しだけ拍子抜けしつつも、


「……あ、ありがと」


 感謝が口をついて出る。

 相手が魔族であるにもかかわらず自然とその言葉を口にした自分に、ニルは驚きを感じていた。


「おやすいご用。ニルとアイリはトモダチだから」


「友達……、か」


 そういえば、と、ふと思い当たるニル。

 これまでアイリのことを、アンタとしか呼んでいないということに。


「あ、あの……」


「なぁに?」


 名前で呼んでみてもいい?

 それだけを聞きたいのに、そもそも名前で呼ぶ許可など不要なはずなのに、続きが中々出てこない。


「あー、だから、えっと……」


「? おなかすいたとか? そうね、気づけばもうお昼。屋敷に帰りましょ」


「いや、そうじゃなくて……」


 どこまでもマイペースなアイリを引き留めようとしたその時。


 ――うぁぁぁぁぁっ……!!


 ――敵襲だぁぁぁっ!!!


「!!」


「あら」


 遠く街の方から、魔族たちの怒声が耳に届く。

 すぐに顔を見合わせて、その場から駆けだそうとすると、


 バサッ、バサッ。


 細長い手足を持った、四つ羽の異形が天より舞い降りる。

 ニルとアイリ、二人の顔を青い瞳に写しながら。


「おやおや。強者の反応を追って来てみれば。なんとも可愛らしいお嬢さん方ですね」


「あなたはだぁれ? ニル、知ってる?」


「知らないけど……。敵だよ、それだけわかってれば充分だ……!」




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