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34 あの時




「わたくしのことを、好き……? 好きだから、世界がこうなったと……」


「そうだよ。これが教えてあげられる範囲での、あたしの最大の秘密」


 電撃をまとった剣で斬りつけ、突き、なぎ払いながら、ライハが堰を切ったように語り出す。


「好きだよ、リフレ。大好き。初めて会った時から、ずっと好きだった……」


「ライハ……っ、くっ……!」


 動揺から動きがにぶり、肩を雷鳴斬がかすめる。

 痛みとともに走る電撃にリフレは顔をゆがめた。


「栗色の髪も、丸い瞳も、かわいい顔立ちも、全部好き」


 ズバッ、バチィッ!!


「あぐ、うっ……!」


「気丈にふるまってても、じつは傷つきやすい心とか、守ってあげたくなっちゃうよね」


 バチィィィッ!!


「うあ゛あぁぁ゛ぁぁ゛ぁぁっ!!!」


 何度も電流を流され、ついに足が止まったその瞬間。

 脇腹に刀身が強く押し当てられ、高圧電流がリフレの全身をかけめぐった。

 体中の筋肉が弛緩して、その場に崩れ落ちる。


「あたしの抱えてる問題はね、リフレを殺せば全て解決することなんだ」


「……はぁ、はぁ……っ、ライ、ハ……っ」


「でも殺さないよ? 殺せるわけがない。世界中の人間全ての命をリフレ一人の命、どちらを選ぶか問われれば、あたしは迷わずリフレを選ぶ」


 ライハはすっ、と剣を引くと、リフレの前にかがみこむ。

 そして彼女の目前にまで顔を近づけた。


「……こんなこと言ったら勇者失格だよね。だから魔王なんだけど」


「あ、あなた……は……っ」


「ねぇ、殺したくないんだ。あきらめて封印されてくれないかな……? こんな誰も知らない未来の世界なんて、どうでもいいじゃん。絶対なんとかするから、解決したら封印解くから。その時になったら楽しく暮らそう? 二人でずっと……」


「い、嫌、です……っ!」


 リフレのくちびるが拒絶の言葉をつむいだ瞬間、ピクリとライハの眉が動く。


「……どういう意味の『嫌』かな、それは」


「ライハ……。旅をしていたあの頃と、たしかにあなたは根っこの部分で変わっていません。でも、まったく変わっていないわけじゃない」


「108年も経ってるからね。そりゃ多少は変わるよ」


「いいえ、あなたが変わってしまったのはわたくしを封印する前! きっと魔王城に攻め込んで、魔王を倒したあの時からです……!」


「……っ! ……さすが、よく見てたんだね」



 〇〇〇



 魔王城最深部。

 待ち受けていた魔王と、わたくしたちとの死闘はついに決着の時をむかえました。


 オートヒールを付与したライハとわたくしの連携の前に、圧倒的な魔力をほこる魔王も次第に消耗していきます。

 どれだけダメージを与えても即座に回復する手練れの二人を相手にしているのだから、当然と言えるでしょう。


土竜昇ドリュウショウ!!」


 ドゴォっ!!


 床を殴りつけ、地中に衝撃波を走らせて敵の足元を揺るがす。

 わたくしの放った技で魔王は体勢を崩します。


「今です、ライハ!」


「ナイスアシストっ!!」


 上空高く飛び上がり、剣に大量の雷氣をまとうライハ。

 最上段にかかげた渾身の一撃が、魔王の脳天へ振り下ろされました。


「雷鳴破断っ!!」


 ズバァッ!!!


「が……っ、こん、な……っ!」


 頭を割られた魔王が、緑色の血を流しながら一歩、二歩と下がっていきます。


「我が命……っ、志半ばにて潰えるか……っ、し、しかし……っ! しかし、我が力、我が志……っ、そして魔族もまた、不滅……ッ!!」


 両手を大きく広げて断末魔の叫びを上げると、魔王の体は黒いチリとなって消えていきました。

 勝利です、わたくしたちの……勝利です!


「ライハっ!!」


 剣を振り下ろした体勢のままで固まるライハに駆け寄ります。

 不自然に動かないことが気になりましたが、きっと感慨にふけっているのでしょう。

 わたくしは喜びにまかせて、彼女に後ろから抱きつきました。


「やりましたっ! わたくしたち、やったんです! 世界を救いましたよっ!!」


「…………あ、あぁ……っ、リフレ……。そう、だね……。救った、ね……」


「ライハ……?」


 明らかに様子のおかしいライハ。

 顔は青ざめ、大粒の汗が額から垂れていきます。


「どうしました……? 大丈夫ですか……?」


「うん、平気……。オートヒールのおかげで、体はなんともないよ。安心して気が抜けちゃったのかな。あはは……」


「そう、ですか。ともかく、魔王を倒したのです! もっと喜ばないと!!」


「そうだね……! 喜ばないとね! やったー!!」


 ……うーん、どこか空元気にも見えますが、まぁ気のせいですよね。

 だって世界は救われた。

 もうなんにも、心配なんていらないんですから!


「あ、そっ、そうだ! 魔王のヤツ、宝物庫にすっごいお宝隠してるってウワサだよね! ちょっと覗いていかない?」


「かまいませんけど……、盗んだものがほとんどですよね。わたくしたちで持って行ってはダメですよ?」


「わかってる、見るだけだから! ほら、早くいこいこっ」


「あ、ちょっと……!」


 少々強引に、わたくしの背を押していくライハ。

 そんなに宝物が見たいのでしょうか、まったく仕方ありませんね。

 こうしてライハと二人で旅するのも最後なわけですし、この程度の寄り道ならかまわないでしょう。

 もう世界は、平和なのですから。



 〇〇〇



「……思えば、魔王を倒したあの時から、あなたの様子はおかしかった。そして直後に、宝物庫にあった棺にわたくしは封印されました」


「いやー、隠してたつもりだったんだけどバレてたかー。リフレがするどいのか、あたしの演技がダメダメなのか」


 苦笑するライハに対し、リフレは視線をそらさず問い詰める。


「教えてください。あの時、魔王を倒した時、あなたに何が起きたのですか……!」


「んー……、ま、コレも言っちゃって構わないか」


 少し考える仕草をした後に、ライハは答える。


「あの時あたしは、魔王を継いだんだ」


「……え?」


「正確には、魔王になる資格……かな。魔王を倒した者は、その記憶と力を受け継ぐことができる。魔王を倒した瞬間、流れこんできたんだよ、ヤツの記憶が。ヤツが立ち向かおうとしていた、世界の危機の情報が、さ」




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