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33/97

33 開戦




 翌朝。

 雲上第二区、浮き島の中央に位置する自然公園。

 市民の憩いの場となっている広々とした芝生の上で、リフレとライハはむかい合う。


 ライハの指示で人払いが行われ、戦いに立ち会う者はニルと師匠のみ。

 少しだけ離れた場所から、二人はリフレとライハの戦いの始まりを見守っている。


「リフレ、昨日はよく眠れた?」


「おかげ様でぐっすり眠れました。こっそり封印しても気づかなかったかもしれませんよ?」


「しないよ。それやったら絶対に絶交されるじゃん」


「えぇ、嫌いになってたでしょうね」


 談笑しつつ、背中の長剣を引き抜くライハ。

 対するリフレも拳をにぎり、腰を落としてかまえる。


「じゃあ、今はまだ嫌われてないんだ。よかった」


「場合によっては嫌いになりますよ? 今はグレーというところです」


「うひゃあ、じゃあ気をつけないとね。……『雷氣光来ライキコウライ』」


 ピシャァァァアッ!!


 青空に雷鳴がとどろき、ライハの剣が雷撃をまとう。

 彼女の戦技はいたってシンプル。

 いかずちの力をあやつる、ただそれだけ。


 それだけであるがゆえに応用の幅が利き、その強さも使い勝手の良さもトップクラス。

 彼女が勇者に選ばれた理由のひとつが、『この戦技をもっているから』だった。


「雷鳴斬。最初から飛ばしてくよ」


「どうぞ。わたくしも飛ばしていきます」


 剣を両手でかまえ、ライハはニヤリと笑った。

 そこで二人の会話は途切れ、しばしの静寂ののち。


 ドウ……ッ!!


 爆発と聞き違うような踏み込み音を残し、二人の姿が消えた次の瞬間。


 ゴォォォッ!!


「わっ……!」


 嵐のような衝撃波が走り、ニルは思わず顔を腕でかばう。

 吹き飛ばされてしまいそうな小さな体を守るように、師匠が彼女の前に出た。


「ニル、立ってられないかい? もう少し離れてもかまわないよ」


「いい……、ここにいる」


「そうかい。だったらアタシの後ろから離れるんじゃないよ。これからもっと激しくなるからね」


 師匠の言葉どおり、草原のあちこちで衝撃波が――二人の激突の余波が発生。

 ニルは師匠の体にしがみつき、そこから一歩も動けない。

 しかし目だけはしっかりと開けて、目には見えない二人の戦いをその網膜に焼き付けようとしていた。


 一方、リフレとライハの戦いはたった数十秒間で、数千度の攻防を経ていた。

 その最後、姿勢を伏せたリフレへめがけ雷鳴斬を振り下ろすライハ。

 彼女の手首をつかみ、攻撃を押しとどめたところで、ようやく二人は動きを止めた。


「……さすが、やるねぇ。こりゃグフタークたちが束になろうと勝てないはずだ」


「わたくしも、さすがとほめてあげましょう。まだほんの小手調べではありますが」


「そりゃそうだ。リフレの本気、まだまだこんなもんじゃないもんね……ッ!」


 バチィッ!


 ライハが手首に電撃を流し、リフレはとっさに手を離す。

 痛みのためではない。

 彼女の電撃が全身に巡れば、肉体を麻痺させられる。


 痛みに耐えられても、筋肉や神経を封じられてはどうすることもできない。

 まさにリフレの天敵といえた。


「もっと続けようよ、リフレが納得するまでさ!」


 ライハが剣を振るうたび、雷撃が周囲にまき散らされる。

 毛細血管のような電撃をくぐり抜け、リフレも反撃に転じるが、蹴りも拳もことごとくを回避された。


「わたくしの納得は、力ずくでは得られませんよ!」


 それでも果敢に間合いをつめ、掌底をくり出す。

 ライハはギリギリで後ろにジャンプ。

 しかし生じる衝撃波をモロに受け、大きく後ろへ吹き飛ばされた。


「そりゃ大変だ。だったら納得する前に、ビリビリさせて封印しかないね!」


「しかなくありません! あなたが説明すれば、それですむことじゃないですか!」


 すぐさま前に飛び、吹き飛ぶライハを追いかける。

 しかしライハはリフレの前にクモの巣状の電撃ネットを展開。

 勢いのまま電気の網に突っ込んだリフレは体勢を大きく崩し、ライハのはるか手前に墜落した。


「説明、できないんだよ。したくてもできない理由があるんだ」


「どうして……ッ、わたくしに隠し事を、しないでください……っ!」


 体にしびれを覚えながらもリフレは立ち上がる。

 少量の電撃ネットに短時間触れただけでは、彼女の動きを封じるほどの麻痺状態にはできなかった。


「わかってよ。リフレが大事だから言ってるんだ」


「わかりません……! あなたが何を考えているのかも、どうして魔王になったのかも、この時代の人々を苦しめているのかも……!」


「……ぶっちゃけさ。これって全部リフレを殺せばすむ話なんだよ」


「え……?」


 ライハの独白、それは真相に一歩近づく感触を、重みをリフレに与えた。

 それほどまでにしぼり出すような、実際ライハにとっては明かしても構わないギリギリの言葉だった。


「あの時リフレを殺してれば、魔王になんてならなくてよかった。人類文明を滅ぼさなくてよかった。こんな島作って、魔族を繁栄させなくてもよかったんだ」


「なにを――」


「でも殺せなかった。だって、あたしはリフレが好きだから。世界を滅ぼしてでも、リフレに生きてほしかったんだ」




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