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30 雲の上へ




 壊れた橋を飛び越えて、一行は今度こそ塔の出口へ。

 橋の先にはうす暗い通路が続き、そのむこうにまぶしい光が差している。

 慎重に通路を進み、入り口と同じ自動ドアをくぐると、


「わぁ……」


 師匠の肩の上で、ニルが感動の声をもらした。


 見渡す限りの青空、カベのむこうに見える海、光り輝く太陽。

 生まれて初めて見るものだらけの絶景に、少女は魔族殺し以外での初めての感動を覚えた。


「師匠、下ろして。もう敵いないでしょ」


「構いやしないが、落ちるんじゃないよ?」


「落ちないから……」


 いつもの冷めた態度を取りつつも、目の輝きは抑えられていない。

 師匠から解放されるや通路のふちまで行き、キョロキョロと景色を見回す年相応の少女の姿に、リフレは微笑ましさを感じていた。


(……さて、まずはどうしましょうか)


 塔の出口は直接四つの浮き島――雲上四区を結ぶ空中回廊につながっている。

 見上げればはるか上、塔の頂上に魔王城が鎮座し、最も高い場所に位置する浮き島から橋がかかっていた。


「お師匠、あの島が第一区ですよね」


「ロークはそう説明してたね。アイツによれば、あの橋が魔王城につながる唯一の道だ」


 彼女たちは旅立つ前、第一区から第四区までのおおまかな説明をロークから受けていた。

 魔王城に行くにはまず、雲上第一区に行かねばならない。


「まぁ、わざわざ魔王城まで行く必要、無いんですけどね」


 肩にかついだ無残な姿のグフタークを、リフレが乱暴に放り投げる。

 さらに、意識のないままゴロリと転がった彼女にめがけ、


「起きなさい、出番ですよ」


 ドボォッ!!


 腹に思いっきり蹴りを叩き込んだ。


「がっ……!? ごぼ、おごっ……!」


「おはようございます。目覚めの気分はいかがですか?」


 血と反吐を口からぶちまけながら、意識を取り戻したグフターク。

 そのかたわらにかがんだリフレが優しくおだやかな声で語りかける。


「は、はぁ、が……っ、こ、ここ、は……ッ」


「雲の上です。とってもキレイな景色ですね。心が洗われるよう」


「ぐ、殺せ……! 魔王様を誘い出す……、っぐ、エサにしようというのだろう……! はぁ、はぁ……っ、そんなモノには……っ、応じない……!」


「……何か勘違いしてません?」


 優しげな口調を保ったままのリフレから、ぞっとするような殺気が放たれる。


「あなたに拒否権なんて無いんですよ? それに、あなたの意思がどうであれ、もうどうすることもできません」


「な、に……?」


「ほら、アレをごらんなさい」


 塔の出口付近の天井に、レンズのついた黒い箱のようなものが設置されている。

 リフレがそれを指さし、グフタークは青ざめた。


「見えますか? 見えてますね、よかった。あれ、監視カメラと言うらしいですね。遠くの映像を見ることができる大発明」


 発明者がやはりロークであるという事実が、どうにもリフレの癪に障っているが。


「現在のわたくしたちの映像、どこに送られているんでしょうね。おそらく魔王城でしょうか、うふふ」


「き、貴様……っ」


「その反応、やっぱり魔王城に送られてるんですね。そう、あなたとっくにエサの役割果たしてるんですよ。今さら意地を張っても意味ありません、手遅れです」


「……っ、しっ、しかし魔王様自らがお出ましになるとは限らぬ……っ! 私ごときのために、魔王様がご足労なさるなど――」


「……またまた勘違いしてます?」


 バギャッ!


「がっ……!」


 裏拳でグフタークの頬を殴り飛ばすと、リフレの視線が冷たいものに変わる。


「あの子はライハです。仲間を絶対に裏切りません。あなた、一応あの子の右腕なのですよね? でしたらなおさら、ライハは来ます」


「く……っ」


「……それに、あなたを連れてきたのは来る確率を上げるため。きっとあなたがいなくても、ライハはわたくしに会いに――」


 カッ……!

 ビシャァァァァァッ!!!


 雲ひとつない抜けるような青空に、雷鳴がとどろいた。

 まさしく晴天の霹靂。


 景色を楽しんでいたニルも、それを見守っていた師匠も、音の方へと目をむける。

 雷が落ちたのはリフレとグフタークのいる地点から数メートル、ほんの目と鼻の先。


「やっぱり、来てくれましたね」


「ま、まさか……、本当に……」


 稲光が消え、そこに立っていたのは紛れもなく、


「ま、魔王様……!」


「ライハ、会いたかったです」


「うんうん、あたしも会いたかったよー」


 リフレの、そしてグフタークのよく知るライハ。

 かつてリフレと旅をしていた頃のようにフレンドリーな笑顔を浮かべて、手を小さくふりふりしながら歩み寄ってくる。


「リフレってば、あたしのことライハって呼んでくれるんだ。嬉しいけどさ、どんな心境の変化かな?」


「いろいろとありまして……。あなたがライハであることは、もう疑いません」


「そっか、嬉しい。……あ、ちょっと待っててね」


 リフレに近づく足を止め、止まったのはグフタークの前。


「ま、魔王様、申し訳――」


 ドギャッ!!


「ぶっ!!」


 謝罪の言葉を聞くまでもなく、ライハはグフタークの顔面を思いっきり蹴りつけた。


「なにやってんの……さっ!」


 バギャッ!


「勝手に戦って、無駄に魔族兵殺してさぁ! フォーデとシックスまで死なせて! とんだ無能だね!!」


「な……っ、なぜ、それを……っ」


「生き残った兵から連絡! 山ほど届いてんだよッ! この、このっ」


 バギッ、グチャッ!


 何度も何度も顔面を蹴り、グフタークの顔面は血まみれになっていく。

 鼻の骨もへし折れているだろう。


「あ、ばっ、まおうさま、にっ、蹴っていただけてる、あはぁ……っ」


「……ホント、気持ち悪いね。これがねぎらいになるなんて」


 ゴキブリでも見るような目をむけて、心底気味悪そうに遠ざかるライハ。

 この暴行は罰としての側面が強いが、グフタークの性癖を満足させるための褒美でもあった。


「ま、コイツはほっとくとして。リフレ、ようこそ雲の上へ」


「えぇ、あなたに会いにやってきましたよ。雲の上まではるばると」


「へへ、どうしよ。ニヤケちゃうね」


 ポリポリと頬をかくライハは、かつての彼女とまるで変わりなく映る。

 彼女が魔王だと忘れてしまうほどに。


「たくさん話したいことがあるんです。聞いていただけますか?」


「アタシもたくさんあるよ。……でも、まずひとつ。このお願いだけは聞いてほしい」


「はい、なんでしょう」


「魔族を……、これ以上殺さないでほしいんだ」


「……理由をお聞かせ願います」


 いくらライハの頼みでも、これだけは首を縦に振れない。

 彼女の魔王としての行動、全てに納得がいくまでは。


「んー、まぁそうなるよね」


 ライハの方も承知の上。

 話し合うべきか、首をひねって考えた末、名案を閃いたとばかりに彼女はポンと手をたたいた。


「そうだ! ねぇ、デートしようよ!」




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