表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/97

28 圧倒的




「……悲しいですね。まだムダなあがきを続けるだなんて」


 リフレは二丁の魔銃をもてあそびつつ、首を左右に振る。

 心底からの哀れみと侮蔑の視線を投げかけながら。


「わざわざ塔の中に招き入れて、橋を崩して身動きを封じた上での三人がかり。そこまでしないと勝てない相手だと、最初からわかっていたんですよね? まぁそこまでしても勝てなかったんですけど」


「だからとて……、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかぬ!!」


 グフタークの心はまだ、折れていない。

 主であるライハへの妄信的なまでの忠誠心が、彼女の心を鋼のごとく強靭にしていた。


「あの時の続きだ……! 真正面から貴様を斬り伏せる!」


 闘志と殺気をむき出しにして斬りかかるグフターク。

 常人では一瞬の閃きにしか見えない剣閃を次々と繰り出し、リフレを攻め立てる。


 その速度は一秒間に数十回以上。

 グフタークの肘から先を視認できないほどの速度。

 しかし、


「く……っ、かすりもしないだと……!」


「なんですか、これ。ウォーミングアップか何かでしょうか」


 リフレの肉はおろか、肌にも、服にも、髪一本にすら届かない。

 最小限の動きでかわし、手を押しのけ、剣を銃身で逸らして、そのことごとくが軌道を外される。


「練習の素振りでしたら、どうぞあちらでやってきてください。あなたお一人で」


 ドボオォッ!!


「ごぼっ……!!」


 隙とすら呼べない一瞬の間を縫って、槍のような蹴りが放たれる。

 リフレのつま先がグフタークの腹部に深々と突き刺さり、血を吐き散らしながら吹き飛ばされた。


「が、はっ、くっ、こんな……っ」


 剣を杖代わりに、なんとか立ち上がる。

 圧倒的な力の差。

 それでもグフタークの心は折れない。


「この程度、で……っ! 当たりさえ、当たりさえすれば……っ」


「あらあら、当たれば勝てるだなんて思ってらっしゃる?」


 リフレはクスクス、と声を殺して笑うと、なにを思ったか二丁の魔銃を懐に仕舞い込んだ。

 さらには両腕を開き、無防備な棒立ちの状態に。


「でしたらどうぞ、試してみてください。当たりさえすれば勝てるのでしょう?」


「貴様……、愚弄するか……!」


「いえいえ、まだ理解していらっしゃらないようなので。少し理解(わか)らせて差し上げようかと」


 ニコリとおだやかな笑みを浮かべる少女からは、殺気も闘志もまるで感じられず、抵抗の意思すらうかがえない。

 本当に隙だらけの敵を前に、グフタークは逆に恐怖を抱いていた。


「ほら、どうしたのです? 勝てるのですよね? 大チャンスですよ」


「……ならば、後悔するがいい!」


 己を鼓舞する気合いの声とともに、一気に間合いをつめる。

 目前に至っても、反撃の気配はいまだなし。


(本気か、この女……。それとも何か策が……)


 迷いを振り払い、グフタークはリフレの右肩めがけて剣を振り下ろした。


 ズバァッ!!


「……っ!?」


 なんの抵抗もなく腕が切断される。

 切断面から赤い血をまき散らし、そして、


 ずにゅっ。


 ……一瞬にして、切り口がつながった。


「ほら、どうしました? 勝てるんじゃなかったのですか?」


 無防備のまま、ニヤリと笑うリフレ。

 その迫力と、想像をはるかに上回る再生速度に気圧されかけるも、


「……っ、舐めるなァァァァァッ!!!」


 すぐさま繰り出される剣の乱舞に、リフレの腕が、足が、次々と斬られては繋がる。


「もうわかりましたか? サービスタイム、終わりにしてもいいでしょうか」


「く、うっ……!」


 いくらオートヒールがあるとはいえ、生身の体で手足を何度も斬り飛ばされているのだ。

 常人では発狂するほどの激痛を味わっているはず。

 とうに意識を手放してもおかしくないのに、目の前の女は表情ひとつ変えない。

 攻撃している側のはずのグフタークの方が、精神的に追い詰められていた。


 無防備な首を狙えば殺せるだろうか。

 いや、殺してはダメだ。

 そもそも首を狙った瞬間、回避されて反撃を食らい――それ以前に、首を斬れば死ぬ保証がどこにある?


 さまざまな思惑が脳裏をよぎり、剣を振る腕が止まったその刹那。


「あら、心が折れましたか? ではここまでにしましょうね」


 もう飽きた、とばかりにサービスタイムの打ち切りが宣告された。


「は――」


 グフタークの口が、何らかの言葉を発しようとした瞬間、


 パキィッ……!


 手刀で剣が叩き折られ、


 ガシッ!


 右の肩口と手首が恐ろしい怪力でがっしりとホールドされる。


「腕を落とされる痛み、あなたも経験してみましょう」


「な、や、やめ――」


 ブチブチブチィ……ッ!!


 グフタークの右腕が、力ずくで引きちぎられた。

 引っこ抜かれたという表現が正しいだろうか。

 いびつな傷口から骨が露出し、おびただしい出血で足元が緑に染まる。

 それからワンテンポ遅れて、


「ぎ、ぐっ、いぎゃあああ゛ぁぁぁぁ゛ぁぁああ゛ぁあぁっ!!!!」


 想像を絶する激痛が走り、彼女の悲痛な絶叫が響き渡った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ドラゴンボールの悟空とフリーザの闘いを見ているようてです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ