28 圧倒的
「……悲しいですね。まだムダなあがきを続けるだなんて」
リフレは二丁の魔銃をもてあそびつつ、首を左右に振る。
心底からの哀れみと侮蔑の視線を投げかけながら。
「わざわざ塔の中に招き入れて、橋を崩して身動きを封じた上での三人がかり。そこまでしないと勝てない相手だと、最初からわかっていたんですよね? まぁそこまでしても勝てなかったんですけど」
「だからとて……、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかぬ!!」
グフタークの心はまだ、折れていない。
主であるライハへの妄信的なまでの忠誠心が、彼女の心を鋼のごとく強靭にしていた。
「あの時の続きだ……! 真正面から貴様を斬り伏せる!」
闘志と殺気をむき出しにして斬りかかるグフターク。
常人では一瞬の閃きにしか見えない剣閃を次々と繰り出し、リフレを攻め立てる。
その速度は一秒間に数十回以上。
グフタークの肘から先を視認できないほどの速度。
しかし、
「く……っ、かすりもしないだと……!」
「なんですか、これ。ウォーミングアップか何かでしょうか」
リフレの肉はおろか、肌にも、服にも、髪一本にすら届かない。
最小限の動きでかわし、手を押しのけ、剣を銃身で逸らして、そのことごとくが軌道を外される。
「練習の素振りでしたら、どうぞあちらでやってきてください。あなたお一人で」
ドボオォッ!!
「ごぼっ……!!」
隙とすら呼べない一瞬の間を縫って、槍のような蹴りが放たれる。
リフレのつま先がグフタークの腹部に深々と突き刺さり、血を吐き散らしながら吹き飛ばされた。
「が、はっ、くっ、こんな……っ」
剣を杖代わりに、なんとか立ち上がる。
圧倒的な力の差。
それでもグフタークの心は折れない。
「この程度、で……っ! 当たりさえ、当たりさえすれば……っ」
「あらあら、当たれば勝てるだなんて思ってらっしゃる?」
リフレはクスクス、と声を殺して笑うと、なにを思ったか二丁の魔銃を懐に仕舞い込んだ。
さらには両腕を開き、無防備な棒立ちの状態に。
「でしたらどうぞ、試してみてください。当たりさえすれば勝てるのでしょう?」
「貴様……、愚弄するか……!」
「いえいえ、まだ理解していらっしゃらないようなので。少し理解らせて差し上げようかと」
ニコリとおだやかな笑みを浮かべる少女からは、殺気も闘志もまるで感じられず、抵抗の意思すらうかがえない。
本当に隙だらけの敵を前に、グフタークは逆に恐怖を抱いていた。
「ほら、どうしたのです? 勝てるのですよね? 大チャンスですよ」
「……ならば、後悔するがいい!」
己を鼓舞する気合いの声とともに、一気に間合いをつめる。
目前に至っても、反撃の気配はいまだなし。
(本気か、この女……。それとも何か策が……)
迷いを振り払い、グフタークはリフレの右肩めがけて剣を振り下ろした。
ズバァッ!!
「……っ!?」
なんの抵抗もなく腕が切断される。
切断面から赤い血をまき散らし、そして、
ずにゅっ。
……一瞬にして、切り口がつながった。
「ほら、どうしました? 勝てるんじゃなかったのですか?」
無防備のまま、ニヤリと笑うリフレ。
その迫力と、想像をはるかに上回る再生速度に気圧されかけるも、
「……っ、舐めるなァァァァァッ!!!」
すぐさま繰り出される剣の乱舞に、リフレの腕が、足が、次々と斬られては繋がる。
「もうわかりましたか? サービスタイム、終わりにしてもいいでしょうか」
「く、うっ……!」
いくらオートヒールがあるとはいえ、生身の体で手足を何度も斬り飛ばされているのだ。
常人では発狂するほどの激痛を味わっているはず。
とうに意識を手放してもおかしくないのに、目の前の女は表情ひとつ変えない。
攻撃している側のはずのグフタークの方が、精神的に追い詰められていた。
無防備な首を狙えば殺せるだろうか。
いや、殺してはダメだ。
そもそも首を狙った瞬間、回避されて反撃を食らい――それ以前に、首を斬れば死ぬ保証がどこにある?
さまざまな思惑が脳裏をよぎり、剣を振る腕が止まったその刹那。
「あら、心が折れましたか? ではここまでにしましょうね」
もう飽きた、とばかりにサービスタイムの打ち切りが宣告された。
「は――」
グフタークの口が、何らかの言葉を発しようとした瞬間、
パキィッ……!
手刀で剣が叩き折られ、
ガシッ!
右の肩口と手首が恐ろしい怪力でがっしりとホールドされる。
「腕を落とされる痛み、あなたも経験してみましょう」
「な、や、やめ――」
ブチブチブチィ……ッ!!
グフタークの右腕が、力ずくで引きちぎられた。
引っこ抜かれたという表現が正しいだろうか。
いびつな傷口から骨が露出し、おびただしい出血で足元が緑に染まる。
それからワンテンポ遅れて、
「ぎ、ぐっ、いぎゃあああ゛ぁぁぁぁ゛ぁぁああ゛ぁあぁっ!!!!」
想像を絶する激痛が走り、彼女の悲痛な絶叫が響き渡った。




