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24 浄化




「へ、へへ……、これはこれはグフタークさん……」


 理由をつけて安全圏まで逃れようとしたところ、唐突に現れたグフタークにフォーデは内心で舌打ちしつつ、卑屈な愛想笑いで応対する。

 一方のシックスは……。


「マジ!? グフっちじゃん! なになに、助けにきてくれたワケ? ちょーたのもしー!」


 思いもよらぬ救援に、素直な喜びを見せていた。


「その名で呼ぶなシックス」


「えー……!? いーじゃん、マブでしょウチら」


「貴様と親しくなった覚えなどない。フォーデ、敵の様子はどうなっている」


「へいへい……。えっと……、あー、西地区側の警備隊ほぼ全滅……。敵さんは無傷だね……」


「……だろうな」


 ライハとの戦いを盗み見ていたグフタークにとって、リフレの戦闘力の高さは承知の上。

 加えてオートヒールの存在を考慮すれば、一つのダメージも疲労も残せていないだろう。


「雑兵を用いて数で押すなど無意味。我々三人で直接出るぞ」


「グフっちと共闘!? うは、テンアゲ!」


「ちょ、ちょっと待ってくれるかな……」


 グフタークの判断にフォーデが一人異を唱える。

 鬼神のごとき聖女の戦いを目にし、彼は完全に怖気づいていた。


「魔王様は、区長四人がかりじゃないと勝てないって判断されたよね……」


「あぁ、それが?」


「お、俺ら三人じゃん? ここはさ、魔王様にお伺いを立てて、体勢を立て直してから改めて――」


 シャっ!


 グフタークの鞘から引き抜かれた剣の切っ先が、フォーデの首に突きつけられる。

 これ以上しゃべるな、と言わんばかりに。


「我が剣技の冴え、貴様ら凡百の区長二人分以上に相当すると自負しているが、貴殿の見解は?」


「そ、そりゃ……」


 言葉につまり、視線を泳がせるフォーデ。

 実際に、八区長の中でもグフタークは一、二を争う使い手だ。


「さらに言えば、これは魔王様の決定だ。私の救援は魔王様の指示によるもの。これに異を唱えるは、すなわち魔王様への反逆と同義」


 これはこの場を通すための嘘偽りであり、彼女の救援は独断によるもの。

 魔王様の望みを叶えたい、その一念による独断専行だった。


「それでも、魔王様に連絡を?」


「い、い、いや……。わ、わかったよ……。アンタを信じるよ、へへ……」


 と、引きつった笑みを浮かべながらフォーデが答えると、グフタークは剣を引く。

 脅された形となった彼の内心にはもちろん不満が渦巻いているが、グフタークの強さを信頼しているのもまた事実。


「行くぞ、必勝の策は我にある」


 剣を納めて颯爽と制御室を立ち去るグフタークと、


「グフっちかっこいー。それに引きかえ……プ、ダッサ」


 口元をおさえての嘲笑を浴びせるシックスに、


「チっ……」


 小さく舌打ちしつつ、フォーデも続く。

 いざとなれば二人を盾にして逃げ延びてやると、内心で毒づきながら。



 〇〇〇



 最後の一人となった魔族兵の口に、銃口がねじこまれる。


「さぁ、あなたで最後ですよ。偉いですねぇ、よく頑張りましたね?」


「もごぉ、もごおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 涙をあふれさせながらブンブン首を左右にふる哀れな魔族に、リフレは女神のような慈愛の笑みをむけた。


「お仲間がどんどん殺されていって、さぞ辛かったでしょう。だって、たった一人で取り残されてしまうんですもの」


「んもごおおぉぉぉぉ!!」


 次々と惨殺されていく味方の姿が脳裏によぎり、恐怖が限界に達したのだろう。

 彼の股間がじわじわと濡れ、染みが広がっていく。


「ですから、頑張ったごほうび。あなたは特別、手厚く救済してさしあげます」


「むごおおぉぉお、あがっ、がごぉぉぉおぉお!!」


「さぁ、無に還る時です。あなたという地上のゴミに、永久なる安らぎを」


 タァン!!


 無慈悲に引き金が引かれ、魔族の男はこの上ない恐怖と絶望にそまった表情のまま喉奥を撃ち抜かれる。

 緑色の血が大量にぶちまけられ、あおむけに倒れた体はしばらく痙攣したあと、黒いチリに変わって消えていった。


「……ふぅ、終わりました」


 リフレは満足げに吐息を吐いて、懐に二丁の魔銃をしまう。

 そのタイミングを見計らって、物陰に隠れていたニルと師匠が顔を出した。


「お疲れ。だがねアンタ、敵を無意味にいたぶりすぎてやしないかい?」


「無意味……? あの最後の方のことでしょうか。あの方、最後まで逃げ回ってましたので、特別待遇をしたまでです。……そう、味方を盾にして、仲間が死んでもお構いなしに自分だけ助かろうとして。醜い、本当に醜い……。だからああして浄化して差し上げたのです」


「浄化……ねぇ。なんにせよ、ほどほどにしときなよ?」


「えぇ、その通りですお師匠さま。わたくしの目的はあくまでもライハ。それ以外のことに、あまり時間はかけていられませんものね」


 わかっているようでわかっていない弟子の返事に、思わず頭が痛くなったのだろう。

 片手で目をおおい、天をあおぐ師匠。

 一方のリフレはまったく意に介さず。 


「ライハと再び会うために、わたくしは進みます。邪魔する魔族は――皆殺しです」




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