23 殺戮者は舞い躍る
「う、うわあぁぁっ! な、なんだ!?」
「あ、あの女、撃ちやがった……!」
「ビビるな、相手はたかが人間一人! やっちまえぇぇッ!!」
動揺もつかの間。
相手が人間の女一人とわかるや、魔族たちは一斉に襲いかかる。
たかが人間、内心でそう侮りながら。
「人間殺せるなんて滅多にねぇや! うひゃははははっ、死ねぇぇッ!」
先陣をきって、手にした槍で突きかかる魔族の男。
下卑た笑いを浮かべたその顔面にリフレは冷静に標準を合わせ、舌なめずりをしながら静かに引き金を引いた。
タァン!
「ぐえぁ!」
脳天を撃ち抜かれ、白目をむいて倒れる魔族。
その死にざまに周囲の視線が集まった瞬間、リフレが魔族の群れに飛びこむ。
タァン、タァン、タァン!
踊るようなステップで攻撃をすり抜けながら、ダンスのリズムを刻むように銃声がひびく。
すれ違いざまの的確な射撃で、魔族たちは次々に眉間を撃ち抜かれていった。
「な、なんだコイツ!」
「ただの人間じゃないのか……!?」
「ひ、ひ、ひるむな! 全員でかかればきっと……!」
リフレの周囲を取り囲む形で距離を取り、息を合わせて槍を突き出す魔族たち。
しかしリフレは大きく足をひらいて姿勢を低く下げ、そのままブレイクダンスをするように激しく回転しながら発砲。
魔族たちは心臓を正確に撃ち抜かれ、
「……ふぅ。もう終わりですか?」
バタッ、バタバタバタッ!
リフレが起き上がると同時、糸が切れた人形のように倒れ伏した。
「う、わああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「バケモノだ、勝てっこねぇぇ!」
「殺される、嫌だぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
多くの魔族たちにとって、命令よりも使命感よりも優先するのが自らの命。
敵わない相手とわかるや否や、戦意を喪失して逃げ出そうとする。
しかし。
「……逃がすとでもお思いで?」
圧倒的な力の差を前に逃走など無意味。
武器を放り出し、背中を見せて逃げ出した瞬間、戦いは虐殺へと姿を変えた。
一方、塔の管理室。
西地区方面の入り口前で起きているこの異変は、もちろんすぐに二人の区長の知るところとなる。
「ちょいちょいちょいちょい……、なんだよこれ……。人間アニマルデスマッチ見てる場合じゃねぇじゃんよ……」
「うわ、あり得なくね? こいつアレでしょ? ウチらが集められた原因の小鳥ちゃん」
「小鳥というより猛禽……、いやガルーダ……、もしくはロックバード……?」
「どーでもいーし! どうすんの、まだジャージィとローク来てないんですけど! ウチらだけでなんとかなる系!?」
「なる……、かな、コレ……」
映像に映し出されているのは、逃げ惑う魔族兵たちを次々と背後から射殺し、首を蹴り飛ばし、胴体を拳でブチ抜く緑の血にまみれた殺戮者の姿。
全速力で四方八方に逃げ回る魔族に瞬時に追いつくスピードと、人間どころか魔族基準でも並み外れた怪力。
魔王が四人がかりで相手をするよう指示した意味を、二人は嫌というほど理解らされた。
「に、逃げた方がよくない……? とりあえず西地区に逃げ込んでさ、ジャージィとローク連れて改めて……」
「ナイスアイデア、と言いたいとこだけどさ……。コイツ、どうやってここまで来たんだ……?」
「はぁ? 歩いてに決まってんじゃん。バカ?」
「人間の目には見えない迷彩と迷路、そして生体認証……。特に生体認証は、かなりの権限がないと開けられないんだぞ……」
「うん、そうだね。つまりどゆこと?」
「つまり、さ……。頼みのロークとジャージィ、どっちもとっくにやられてる可能性大ってこと……」
「あ。生きたまま脅してここまで引きずってきて、道案内とカギにされたってカンジ?」
――もしくはロークが裏切ったという可能性。
フォーデの中ではこちらの説の方が濃厚だったが、シックスの前での不用意な発言は自らの首を絞めることになる。
自己保身のため、ここは黙っておいた。
「と、いうわけさ……。逃げるなら雲の上一択、ではあるけれど……」
「じゃあとっとと逃げようよ! ヤバいって!」
「持ち場を離れて雲の上にこの女を通して……。俺らの地位、ヤバくならね……?」
「え、ヤダ、ソレも超ヤダ」
「魔王様は俺ら四人で、とおっしゃられた……。不測の事態が起きたわけだし、お伺いを立てて許可を得てから撤退がベストだと思うね、俺は……」
「よーし決定! ソレで行こう!」
「じゃ、魔王様につなぐよ……。さぁて、ご機嫌うるわしいかな……」
「つなぐ必要はないぞ、フォーデ」
「……お?」
凛とした女性の声に、フォーデの機器を操作する手が止まる。
ふりむけば、そこにいたのは凛とした表情の女魔族。
「雲上第二区長にして魔王様の懐刀、グフターク。我が敬愛する魔王様のため、助太刀に参った」




