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22 二人の区長




 うす暗い森の中、獣の皮で作られた腰巻きだけをまとった原始的な風貌の男たちが歩いていく。

 息を殺し、獲物や捕食者の目に止まらぬように。


 茂みの中に横たわり寝息を立てる鹿を見つけると、彼らは声を出さないまま身振り手振りで合図し合い、それぞれに分散。

 残った一人が手を下ろすと同時、全員でいっせいに手槍を投げつける。

 石と木で作られた粗末な槍が次々と鹿の体に突き刺さり、哀れな獲物はしばらく走り回ったあと糸が切れたように倒れた。


「……やった、か? 今日の分の食いモノ、これで……」


「まだだ、まだ油断するな……! 血のニオイに釣られて、猛獣がやって――」


「ガルァァァっ!!」


 直後、樹上から襲いかかる黒い影。

 舞い降りた黒ヒョウが彼らの一人に突進し、キバをむいて噛み殺そうとする。


「き、来たぁ……!」


「うぁっ、ひ、怯むなぁ!」


 魔物ではない。

 力を失った人類に、魔物に対抗する手段は残されていない。

 しかし通常の獣であるならば、死を覚悟して力をふり絞れば撃退は可能だろう。


 追い払うため決死の応戦を繰り返す男たち。

 一方の黒ヒョウも飢えた腹を満たすために必死だ。



 獲物を手に入れて命をつなぐ、そのための命のやり取りを、一人の魔族がモニター越しにながめていた。


「いいよ……、死の恐怖出てるね……」


 まるで少年のような容姿の小柄な魔族。

 彼は雲下東地区を治めるフォーデ。

 好む絶望は『死の恐怖』。


 ギリギリの命のやり取りをする戦場や、魔物の巣喰うダンジョンで発生するこの恐怖を好む魔族は、少数派にせよ一定数存在する。

 その需要にこたえるため、東地区には密林と、そこに放たれた野生動物、そして文明を取り上げられた人間が代々暮らしている。


 彼らは80年もの間、他の地区から完全に隔離され、死の危険がともなう極限のサバイバルを強いられながら命をつないでいた。


「ひひ……、今日の収穫も上々……」


「そんなん見て面白いのぉ? あはっ、ウケるんですけど☆」


 そんなフォーデの背後から、モニターを覗き見て嘲笑する声。

 ふりむけば、そこには金の髪をなびかせる、他人を小ばかにしたような態度の魔族の女がいた。


 彼女の名前はシックス。

 『病にかかった苦しみ』を好む、南地区の区長だ。


「理解できないんですけどー。ビョーキかかって『くるしーよぉ』『しぬぅ』言ってる人間の絶望のが、ずっとおいしーじゃん☆」


「キミこそ理解してほしいね……。俺らそれぞれ、好みがちがうんだ……」


「わかんなーい。で、いつまで見てんの? ロークとジャージィ、そろそろ来る頃じゃん?」


 今現在、二人がいるのは雲上へと続く中央塔、その管理室。

 『魔王の大事な探し物』を回収するため、雲下の区長全員の集合を待っているところだ。


 東地区の中継映像を見る片手間で、フォーデが手元の機械を操作。

 西地区方面のゲートの監視カメラ映像が映し出されるが……。


「……まだ来ないよ。特に異常なし、いたって平和で退屈な映像さ……」


「はー、ちょーダルイ。ロークはともかくジャージィのヤツ、真面目なだけが取り柄だってのにいつまで待たせるつもりだっつの」


「だから俺は、こうして時間をつぶしてる……。お、獣が逃げてくね……。よくがんばりました……」


「暗っ、キモっ」


「ひひ……、誉め言葉……」



 〇〇〇



 中央塔への第二関門、生体認証ゲート前。

 そこに四人の人影があった。


「ここがゲート、この先は魔族の警備がうじゃうじゃいる中央塔前の広場さ。ここを越えれば隠れる場所なんてないよ?」


「充分です、わたくしが殺し尽くしますので」


「血の気の多いことだねぇ」


 彼女――リフレたち四人の姿は、監視カメラに写っていない。

 ロークの撒いた妨害粒子により、カメラは一定時間の間生物を認識できない状態にされていた。


「さぁて、僕の案内はここまで。ゲートを開ければさすがに中の奴らも異常に気付く。まだこの地位を失いたくないからね、開け次第とんずらさせてもらうよ」


「えぇ、かまいません。せいせいします。さっさと開けなさい」


「やれやれ、少しくらい感謝してほしいな」


 操作端末の前に陣取ったロークが、センサーに指を当てた。

 すると、巨大な鉄の門が音を立てて真ん中からゆっくりと開いていく。


「では、僕はこれにて。いつかまた会おう!」


「二度と会いたくありません」


 門が開き始めた瞬間、その場をそそくさと逃げていくローク。

 後ろから撃とうかとも思ったリフレだが、師匠がにらみを利かせていたため断念した。



 一方、ゲートが開いたことに気づいた警備の魔族たちの一部、その数およそ100名。

 二人の区長が来たと判断し、出迎えるための整列を開始していたのだが。


 ゴゴゴゴゴ……!


 少しずつ開いていくゲート。

 そのむこうから現れたのは、屈強な憑魔でも人を喰ったような態度の魔族でもない。

 シスター服に身をつつみ、清楚に微笑む少女だった。


「……だ、誰だ、アレ」


「わ、わかんねぇよ……。魔族、じゃなさそうだが、憑魔……?」


 生体認証を突破したのだから味方ではあるだろう。

 そう判断はしたものの、戸惑う魔族たち。

 直後。


 タァン、タァン!


 乾いた二発の発砲音とともに、先頭にいた魔族の脳天に穴が開く。

 両手に二丁の魔銃を手にし、リフレは魔族殺しの愉悦に口元を歪めた。


「うっふふっ。さぁ、この世のゴミを大掃除する時間です」




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