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15 人助け




「あの、大丈夫ですか? どこか痛めたりとか……」


「あぁ、あぁ、ありがとよ。どこもケガしてないから大丈夫。しかし、若い人なんて珍しいねぇ」


「えぇ、ちょっといろいろありまして……」


 老婦人の周囲に世話役の魔族は見当たらない。

 大きな荷物をかかえて、一人っきりで歩いていたようだが……。


「食材、ですか……。ずいぶんと大荷物」


「息子が来ててねぇ。私の手料理を食べたいって言うからつい張り切ってしまって。お付きの魔族さん、あの子のために残ってもらったけれど、ついてきてもらった方がよかったねぇ」


「なるほど、だからお一人で……」


 三つの紙袋いっぱいに入った様々な食材。

 腰の曲がった彼女には重い荷物だろう。


「あの、よろしければ家まで運ぶお手伝いをさせていただけますか?」


「いいのかい? 親切だねぇ」


「人助けですから。わたくしたちで二つ持ちますね」


 全部持つのもちがうと思い、三つの紙袋のうち二つだけを受け取るリフレ。

 その後ろでニルが首をかしげる。


「わたくしたち、とは」


「わたくしたちです!」


 リフレは楽しげにウインクすると、二つのうちの一つをニルに押しつけた。

 押しつけられた当人はキョトンとした表情で立ち尽くし、紙袋とリフレに視線を往復させてから、


「これ、なに……?」


 心底わけがわからない様子でたずねる。


「いっしょに運びましょう。人助け、わたくしの親友の趣味でした」


「親友……。それって……」


「さぁ、行きましょう」


「うん……」



 〇〇〇



 老婦人の住む家はロークの屋敷にほど近い、いわばこのエリアの一等地。

 かつての王都の貴族屋敷と比べても遜色ない、立派な邸宅だった。


「お帰りなさいませ」


 帰宅早々、魔族が出迎える。

 付き添いと言うよりは、まるで従者のように深々と礼をしながら。


「はい、ただいま。息子はどうしてる?」


「あの方でしたらリビングに通してあります。お会いになられますか?」


「あとの楽しみに取っておくわぁ。腕によりをかけて、ここで学んだ料理を作ってあげるの。お話はそのあと、お食事しながらのんびり楽しみましょう」


「かしこまりました。では――おや? お客人とは珍しいですね」


 ふいに魔族の視線がリフレとニルにむけられる。

 このエリアにいる以上、彼はロークの配下という形になる。

 リフレについての事情も、連絡を受けて知っていたようで、特にうろたえる様子は見せなかった。


「えぇ、困ったところを助けてもらったの。お礼にこの子たちにもごちそうしたいから、客間に案内してもらえる?」


「喜んで。ではお客人、こちらへどうぞ」


「……はい、お邪魔させていただきます」


 あからさまに嫌そうなニルをうながして、スマイルを崩さないまま案内に応じる。

 本当は殺したいけれど、老婦人の手前、あふれ出る殺意をグッとガマンするリフレだった。



 客間に通され、ニルにどうしてアイツを殺さないのかと問い詰められながら待つこと一時間ほど。

 魔族が料理の完成を知らせに来て、リフレとニルはリビングへと案内された。


「お待たせしちゃってゴメンねぇ、慣れてないから……」


 老婦人が出迎えて、席につくよううながされる。

 テーブルの上には素朴で不慣れな、しかし手間のかかっていそうな手料理がならんでいた。

 そして部屋の中には老婦人以外にもう一人。


「あの方が……?」


「えぇ、私の息子」


 大柄で短髪の、やけに体格のいい男が座っていた。

 彼はリフレの顔を見ると、ほんの一瞬ピクリと眉を動かす。


「よければ仲良くしてやってねぇ。さぁさ、席について」


 老婦人にうながされ、腰を下ろすリフレたち。

 夫人の息子だという男はリフレと目が合うと軽く会釈をし、


「おふくろが世話になったらしいな。礼を言う」


 と謝意をのべた。


「かまいません、人助けは当然のことでしょう?」


「……ずいぶんと珍しい考えを持ってるな。こんなロクでもない世界で生きてるにしては」



 食事中、老婦人はさまざまな話をリフレたちに聞かせた。

 かつてニルとおなじ雲下北地区に住んでいたこと。

 息子を残して西地区に移り住み、引け目を感じていたこと。

 息子が雲上四区の要職について、貧しい生活から脱却したことを聞いた喜びなどを。


「西地区の中でも、私の待遇はトップクラスでねぇ。こんなにいい暮らしをできるのも、息子のおかげなんだよ」


「おふくろのためだからな。今まで苦労させてきた。多少のムリは通してやるさ」


「雲上四区……。そんなにいいところなんですか?」


「あら、行ったことないのかい? 身なりがいいもんだから、てっきり雲の上から来たのかと」


「雲の上の島には、旧時代を模した立派な街がある。もちろんそこの住民も魔族に絶望を提供しているが、雲の下ほどは酷くない」


 そこで言葉を区切り、


「すまないな、おふくろ。俺にもっと力があれば、雲の上に――太陽の下に住まわせてやれるのに」


「太陽……。一度でいいから見てみたいものだが、贅沢は言わないよ。あんたが元気でやってくれれば、それで十分さ」


「……あぁ。おふくろの料理、美味しかったよ」




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