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13/97

13 お断り




「さて、僕が呼び出した理由は理解いただけたよね。というわけで、さっそく僕の研究に協力して――」


「お断りします」


「どうしてだいッ!!」


 必要十分な説明をしたと思っていたのだろう。

 ロークは両手を広げて絶叫した。


「この研究の意義、キミにも理解できる程度にかみ砕いて説明したつもりだがッ!?」


「そもそもあなた、このエリアを統括する魔族ですよね。ここに住んでいる人々を苦しめて絶望をすする、反吐の出る害虫ですよね。手伝う理由がありません。殺す理由しかありません」


「あぁ、そうだね……。キミが基礎的な知識すら持ち合わせていないことを失念していた」


 やけに上から目線で尊大な態度のこの男。

 師匠がにらみを利かせていなければ、とうにこの部屋は惨殺の現場となっていただろう。


「まずはこの島『ドゥッカ』の解説から始めよう」


 ロークがパチン、と指を鳴らす。

 すると中央のデスクに、島の全体像が半透明のビジョンとなって浮かび上がった。


「ドゥッカは中央にそびえる塔と、その最上部に位置する魔王城を中心として、雲上の四地区と雲下の四地区に分かれている」


 空中に浮遊する四つの浮き島と、地表に位置するカベに仕切られた四つの区画、それらをロークは順番に指し示した。

 魔王城から見えた空中に浮かぶ島の光景が、リフレの脳裏によみがえる。


「魔族はそれぞれ、好む絶望の味が異なるんだ。キミの見てきた雲下北地区の生産する、無力感から来る深い絶望を好む魔族は非常に多い」


「でしょうね、虫唾が走ります」


「そうだろうそうだろう。が、僕をはじめとして雲下西地区の魔族は違う。もう少しまろやかな絶望が好きなんだ」


「はぁ、それで?」


「興味なさそうだねぇ。つまり、だ。僕の治める地区では不必要に人間を苦しめたりしていない。北地区から老人方を引き取って、娯楽を与え、裕福な生活をさせているんだ。そこで生まれる絶望は、『どうして自分は老い先短いのか』さ」


 手ごたえあり、と言わんばかりに彼はニコリと笑った。


「残り少ない人生となってから、生きる喜びを知ってしまった彼ら、彼女らからは、そういう絶望が生まれるんだ。ご老人方は健康的で充実した老後を送り、僕たちはそのおこぼれを頂戴する。どうだい? ウィンウィンな関係だろう? 僕は他の魔族とは違うんだ、わかってくれたかな?」


「……そう、ですね。よーくわかりました」


「おぉ、わかってくれたかい!」


 にこやかに微笑むリフレ。

 ロークは晴れやかな表情を浮かべながら、彼女に近づき握手を求めるが、


 バギャッ!!


 その顔面に深々と拳がめり込んだ。

 ロークの体がきりもみ回転で吹き飛ばされ、戸棚に衝突してその下敷きとなる。


「魔族とは絶対に分かり合えないと、よく理解できました。善人ぶってのご高説、耳が腐りそうでしたわ」


「ぶ……っ、い、いいのかい……? 僕の支援を受けられなくなるが……。活動拠点を提供してあげようというんだよ?」


「魔族の手助けなど不要です。これまでも、これからも、絶対に手は借りません。死んでもゴメンです」


「……その魔銃」


 リフレが腰に差している二丁の魔銃を、ロークが指さす。


「便利なモノだろう?」


 唐突な話題の転換を不可思議に感じつつ、リフレは素直な感想を返した。


「……えぇ。わたくしの時代にはありませんでした。素晴らしい発明です」


「僕が作った」


「……!」


「僕の発明さ。気にいってくれたようで何よりだ」


 立ち上がり、木くずやガラス片を払いながら、ロークがニヤリと笑う。

 一方のリフレは大きな衝撃の中にいた。

 魔族がなにかを生み出すなど、考えもしなかったために。


「魔族の手、借りたことになったんじゃないかい? 一度も二度も変わりないだろう」


「……ッ」


「怖い怖い。あぁ、そうだお嬢さん。キミにもお近づきの印にプレゼントを差し上げよう」


 殺意のまなざしをむけるリフレに肩をすくめると、ロークはニナへと歩み寄った。

 不信感むき出しの少女に差し出したのは魔銃と、そのグリップに差しこむための筒。


「リフレ君の持つものと同じ魔銃だ。こっちは魔力を持たない人間でも銃を撃つための、空気中から魔力を自動的に取り込み貯蔵するマガジン。護身用にいかがかな?」


「……もらえるモノはもらう。もう返さない」


「ご自由に。キミにあげたモノだからね。おっと、僕にだけはむけないでくれよ?」



 〇〇〇



「お師匠さま、どういうつもりですか」


 ロークの部屋をあとにして、客間に通されて早々。

 師匠に掴みかからんばかりの勢いで、リフレの詰問きつもんがはじまった。


「魔族と協力して生き永らえていただなんて……! その上、わたくしをあの男と会わせて何をしたかったのです……!」


「色々と知れただろう? この島のこと、過去に何が起きたのか」


「お師匠!」


「……アイツぁ魔族の中でもとびっきりの変わり種だ。自分の知的好奇心のためならば、魔王を裏切ることもいとわない。利用するだけしてやればいいじゃないか」


「そのような……!」


 どんな形であれ、魔族と協力関係を結ぶことに対する心理的な抵抗は非常に大きい。

 敬愛する師匠の提案といえど、軽々しく首を縦には振れなかった。


「アンタのその、筋金入りの魔族嫌い。家族が憑魔となったあの事件が原因だろう?」


「……えぇ。優しかった両親が怪物になってしまう。それほどまでに人間と魔族はかけ離れた存在。絶対に分かり合うことなどできません」


 もちろん、両親の件だけが今のリフレを形作ったわけではない。

 魔王討伐の旅の中で出会った様々な魔族、それらの引き起こした惨劇の数々も、大きなウエイトを占めている。

 が、全ての根幹はやはりあの日の夜にあった。


「その、両親が変わってしまった件が誤解だとしたら、どうだい?」


「……? なんと、言いました?」


「あの日の夜になにが起きていたのか、話しておこうと思ってねぇ。なにせ老い先短い身だ。この話を聞いてから、よーく考えな。憑魔のことと、ライハの小娘のことを、ね」




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