#3
「急なお誘いに来てくれてありがとうございます」
「こっちこそ誘ってくれてありがとうデス。来てみたかったんッス、富士Mランド!N.Nさんのお友達、感謝ッスよ」
「可愛い女の子がそう言ったらもっと喜ぶと思うから、本人にも言ってあげて」
「承知ッス。…しかし、リアルで言われると照れるッス」
「おーい!七都木ー!」
遠くから戸部くんの声が聞こえた
「どこだろう…」
「あそこじゃないッスかね」
指す方を見ても俺には特になにか変わったものは見えない
「手を振ってるっぽいシルエットが見えるッス」
「じゃあそこに向かいましょう。違えばまた大きな声でなにか言ってきます」
「そうッスね」
歩き始めるとじっと見られる
…危ないよ
「そういえばお互い本名を言ってなかったッス」
「確かにそうですね。俺は七瀬七都木。改めてよろしくお願いします」
「だからN.Nッスか。自分は桜井明日香ッス。よろしくッス」
「以前からの知り合いに言うなんて、変な感じがしますね」
「七都木!」
背後から肩を掴まれる
「どこ行くんだよ!」
「ああ、ごめん。目が良いんだね」
「それは良い。早く女の子を紹介するんだ」
ブレないなぁ
いっそのこと清々しいよ
「ブレないね」
「分かりにくい場所にしたのが悪いって叱ったからよ」
「そうなんだ…」
「あれ…もしかして桜井さん?」
もしかして、という言葉を不思議に思うと、桜井さんは少し俺に隠れるようにして立っていた
「戸部さん、黄さん、どうもッス」
「桜井!それなら自己紹介の必要ないな!よし!行くぞ!」
「え…あの…」
***
「だらしないわね」
「大丈夫ッスか」
「俺だって…弱くはないはずだ…!おかしいのはお前等だ!」
「そんなこと言ったってなにも変わらないから。ほら、座って」
「この状態で座ったら椅子が濡れるだろ!なんで俺だけカッパねぇんだよ!」
「途中でトイレに行くからよ。頼まれてないし」
「普通買っといてくれるだろ!」
「うるさいわね。ほら、ハンカチ敷いたわ。飲み物買ってきてあげるから、座ってなさいよ」
「悪いな」
「チュロスはなに味が良いかしら?」
「チョコをよろしくッス」
「俺はシナモンかな。よろしくね」
「りょうかーい」
何故か妙にご機嫌で歩いて行く
その手にはお洒落な花さんらしくない財布が握られている
もしかして…
「おい待て!その手に持ってるのは俺の財布だ!」
…やっぱり
「大人しくしておくのが吉だと思うよ」
「俺の野口~」
「諦めるッス」
「花!俺はカレー味だ!」
「また変わった味ッスね…」
…さっきは意図的に無視したと思うけど、今回は本当に聞こえていないと思う
それに、そんな珍しい味をリクエストされても困ってしまうだろう
少しの沈黙
戸部くんがなにか閃いたような顔をした
「ところで桜井。いっつも思ってたんだけどさ」
なんだか妙に真剣な顔をしている
「な、なんッスか」
「なんでいっつも同じところに寝癖ついてんの?」
戸部くんの頬に桜井さんの掌がヒットした
~~~
「お待たせ…ってなにこの空気」
「桜井さんの髪について質問を…なんていうか、神妙な面持ちで…したんだ」
「戸部、あんた忘れたの?去年あんだけからかわれた人よ?」
なんとなく想像はしていたけど、やっぱりそうなんだ…
「それが神妙な面持ちで話しかけてきたら真剣に聞こうとするわよ。っていうかアタシなら帰るわ。それが髪よ。ビンタで良かったわね」
「あ…そうか…。ごめん」
「犬のようにしょぼくれられると困るッス」
「え?俺可愛い?」
「寝言は寝てから言いなさい!」
またもや戸部くんの頬に掌がヒットした