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青春代行課-七瀬七都木の青春救出  作者: ゆうま
ルートその2
12/66

#11

「夏休み明けから図書新聞再開することになりました。記事のひとつにアンケートの集計結果を載せますので、アンケートに協力して下さい」


アンケート用紙を配っている間不満の声があがる


委員長が無理に通したことだから俺には関係ない

そうも言っていられない

委員会で決定したということは、委員全員で決めたことになる

だけど…

やりたくないなぁ


「案外簡単!」


「みんな静かに。黄さんの言う通りだよ。これはとても簡単なアンケート。それに七瀬くんだって、どうしてもやりたくてやってるんじゃないんだから」


「そうだね。出来れば俺もやりたくないよ。だけど委員会での責務は全うするべきだからね。それに委員長に怒られたくない」


「七瀬くん」


焦ったような小野口くんの声にクラスに笑いに包まれる

ほとんど全員がアンケート用紙に記入している

小野口くんのおかげで助かった


…ただし、回収してパラパラと見た内容に俺は思わずため息を吐いた


「委員長に怒られるのは不可避かなぁ」






                     ***






今日は土曜日

どこかへ出かけようか


そういえばゲームセンターは戸部くんと黄さんと一緒に行ったときが最後か

ゲームセンターにでも行って、ひとりで気楽に遊ぼう

それに桜井さんに会えるかもしれない

会ったら誘おう

きっと白熱した勝負が出来る


気候は暖かいというより暑くなり始めている

それでも俺は長袖で家を出た





ゲームセンターの入り口付近で意外な人物がクレーンゲームを睨んでいる


「緑田さん、どうしたの?」


「ああ、七瀬くんか。見てくれ、この愛くるしいぬいぐるみを」


残念だけど、その価値観は共有出来そうにない


「えっと、どの色がほしいの?」


「この手前にいる茶色だ」


「あー、これは取りにくいね。奥の茶色なら割とすぐに取れると思うけど、顔が違うからこの子が良いんだよね」


「そうなのだ。既に千円使っている。故に迷っているのだ」


「分かった」


100円を入れると操作する


「うーん…アームがもう少し強かったらなぁ。それともタグに引っかけて…」




「すごい!すごいぞ!2千円で2体も!」


1,500円で余ったからついでに取ってしまった


「はい、欲しかった子」


「良いのか?」


「うん、横に並べて比べてどう?」


「やはり茶色だな。でも、七瀬くんには黒の方が似合うと思うぞ」


「えっと…?」


なんと反応して良いのか分からない


「闇に飲み込まれないためには自身が闇になれば良い。――そう、エドワードは言った。だが、私はそうは思わない。自分が闇になったら、そのぬいぐるみは見えなくなる。七瀬くんにはその色が似合う」


「ありがとう」


ちょっと分かりにくいけど、緑田さんなりの精一杯の励ましだ

とっても嬉しい


「礼を言うのは私の方だ。こういうゲームは取るのに必要だった金額を渡すのは違うのだろう」


「そうだね。それに頼まれてやったわけじゃないから」


「だが礼のひとつもしない。それは私自身が許せん。茶の一杯でも奢らせてくれ」


「緑田さんとお話ししたいし、ご馳走になろうかな」


「そうやって誰にでも調子の良いことを言っているのか?」


「それならどんな回答がお好みかな?」


「お前はどこにある」


「引け目を感じられるのは嫌だし、聞きたいこともある。良い機会かな」


「そうか。それなら行こう」


どこに行くのかという話しもせずに緑田さんは歩き出した

慌てて追いかけて、隣に並んで分かった

迷いのない歩み

緑田さんの目的地は決まっている


「それで、聞きたいこととはなんだ」


「早速本題なんだね」


「なにか問題か?」


「ううん。あと、聞きたいことならないよ」


「では何故あんなことを言ったのだ」


「あれが「俺らしい回答」だと思ったんだよ」


「息を吸うように嘘を吐くんだな」


「嘘なんかじゃないよ。こういう状況ならなんて返すか、真剣に考えたんだ。考えたのは紛れもなく俺だよ」


「詭弁だ」


「そうかもね。俺のこと嫌いになった?」


「好かれていた自信があるのだな」


「嫌いな人にあんなこと」


黒いぬいぐるみの頭に優しく手を乗せる


「言わないよ。それとも本当に自惚れかな」


穏やかに微笑むとゆっくり息を吸った


「嫌いだ」

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