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其の七話

                 ≪秋の日のエトセトラ 2 ≫




                 ーとある晩秋も近づいた頃ー






神主は、仲間のスタッフ14・5人とミシェルを連れて、紅葉を見に信州へと向かった。


ミシェルには、睡眠学習などで教養は教えてあるが。 体験的な応用教育は、こうして連れ出さないといけないと感じていた。 ミシェルは、どうも精神的な発達が未熟な一面を持ち。 初期設定としての17・8の少女と云う感じにしては、まだまだ幼い感じがする。


さて、スタッフの中には、あの紳士的な支配人の薗田氏や、会社を任せる重役なども含まれる。 若いスタッフの何人かは、密かに神主を手伝う技術スタッフの若者でもある。


神主は、人間的には曲がりの無い人物だ。


この働くスタッフ達。 実を言うと施設育ち。


現代に何かと多くなった育児放棄だの。 家庭崩壊で施設に収容された子供達なのである。


神主自体、家庭環境は極普通だと言って良かった。 だが、彼の親戚で、従兄弟だの伯父叔母には、結構離婚しただの、育児放棄された家族が多く。 ミシェルの様なアンドロイドを作る切っ掛けに成ったのも、金目的だけが全てでは無いのだ。


現に、彼の稼ぐ莫大な利益の一部は、そうした放棄児童の保護施設や。 家庭が半壊して、母子が逃げ込める駆け込み寺の様な施設の運営にも回っている。


またこう見えて、神主は政治や業界に金をバラ撒く様なマネは好きでは無い。 そういう事をしなくても、スマート且つ、ウザい倫理をなし崩し的し、ロボットや発明品を世に送り出した。 施設で育った若者達の優秀な者にアイデアを出させ、世間のわき道を真っ直ぐに渡って来た一面も在るのだ。


ま、基本的に感情的な一面は見せず、クールにドライに遣って来ている彼のそんな活動を知るのは極一部と云う訳だが。


前持った予約にて、キャンプ地で大きな2階建てのコテージを借り受けておいた神主。


車3台でコテージの敷地内に入り。 直ぐに一台が買出しへと出掛け。 神主は、他の若者達と荷物を降ろし始める。


ミシェルは、自分の荷物と神主の荷物を降ろしていて。 庭先に置くバーベキュー用品を出す神主が、


「ミシェル~、ロビンソンを忘れるな」


「はぁ~い」


山ガールの様な衣服に成っているミシェルは、帽子まで被って様に成る。


「ロビンちゃ~ん、お宿だよ~」


「ミシェル、ヤサシクモテヨ・・。 ッテ、イッテルソバカラアタマヲモツナァァァァーーーーっ!!!」


「えへへ、鉢の方だったっけ?」


「ナンドイワセルンダァっ!! ハチノホウヲモテトイッテルダロウガっ!!!」


ロビンソンに怒られても、照れ笑いをして動じないミシェル。


だが・・・。


「オイオイ・・。 オチテルオチバヲ、オレノハチニソエルナ」


とか。


「オーーーイっ!! マツボックリヲオレノアタマニノセルナァァァーーーっ!!!!!」


とか。


そして、その内・・。


「モンガァァ!!! フゴモっ。 オフガモモっ!!!!」


と、遂にロビンソンが変な呻きを上げて口を利けなくした所で、飯盒などの準備をしていた神主が堪り兼ねてミシェルに向くと・・。


「お・・おい、ミシェル・・」


見えたのは、なんとロビンソンの口の中に、ドングリを幾つ詰めれるかと真剣にやってるミシェルが。


ロビンソンを助けた神主は、前のめりにゼーハーゼーハーと荒い呼吸をするロビンソンを見て。


「大丈夫か?」


「シ・・シヌカトオモッタ・・・」


ロビンソンをマジマジと見つめるミシェルは・・。


「ロビンちゃん、なぁ~んも食べないです。 マスター。 ロビンちゃんは、草とか木の実とか食べるんじゃないですか?」


機械で、充電すればイイだけのロビンソン。 自分で動き、マグネット充電器を遣って夜に充電を終えていたロビンソンは、ミシェルに向かい。


「オバカーーーーっ!!! ナンベンモ、オレハキカイダトイッテイルダロウガァァァーーーっ!!!!!」


と、怒声を張り上げる。 ヒマワリに叱られる人工の人間とは変わった様子である。


すると・・。


「マスター、ミシェルは機械じゃないんですか?」


と、突然にミシェルが云う。


ロビンソンは、ピタリと動くのを止め、神主を見る。


神主は、買出しに行った薗田達や、先にコテージへ行った若者達が戻らない森の中で。


「ミシェル。 ミシェルは、機械じゃないんだよ」


すると、スタスタと神主に寄るミシェルは、


「解らないです。 人は家族がいて、生まれて出来上がると在りました。 でも、ミシェルには、お父さんもお母さんも居ないです。 何時生まれたのですか? ミシェルは、機械とどう違うのでしょうか?」


神主は、ミシェルが真面目に言うので、自身も真面目な顔をして・・。


「ミシェルには、お父さんもお母さんも居ないよ。 私が、ミシェルを作り出したんだ。 だが、ミシェルは機械でも無いんだよ。 機械は、金属やコードで作り出す物。 だけど、ミシェルは人と同じ生き物なんだ」


「・・・カエルさんや、ネコさんと同じ様なですか?」


「そうだよ? 睡眠学習で習っただろ?」


「・・・はい。 でも、ミシェルには、誰も居ないです・・。 創ってくれたマスターと、機械のロビンちゃんだけです・・・」


急に思いつめた様子に成るミシェル。 彼女を見る神主は・・。


(ふむ。 自我が成長し始めたか・・)


ミシェルの言動を聞くに、自己の存在定着を探すと云う精神が発達し、自己存在の起源や存在定義に踏み込んだ思考や、存在意義の模索、存在を確信する為の事実を模索する思考が働く様に成った様だ。 親の解らない子供などが見せる様子と酷似している。


(毎日色々考えているだけ在るな。 精神面も成長している証だ。 さて、そろそろ自発的に何かをさせる方に誘導しないといけないか・・)


ミシェルの成長が順調なのを見て取った神主。


「・・ミシェル」


俯いたミシェルは、呼ばれて神主に少し顔を向け。


「はい・・」


「ミシェルは、今は一人だ。 確かに、ミシェルに血縁と云う遺伝子レベルの家族は居ない。 だが、ミシェルは列記とした女の子だ。 いずれ、子供を産める様に成るし。 将来は、家族を築くだろう。 それに、近々ミシェルの妹が出来る。 ミシェルと、血を分けた家族だ」


ミシェルも、神主が新たな研究をしているのは知っている。


「本当ですか・・マスター? ミシェルに、家族が出来るんですか?」


「あぁ。 だが、出来るのは・・・、早くてクリスマス頃。 遅ければ、来年だろうな」


ミシェルの顔が、一気に明るく成る。


「妹・・家族・・」


期待に胸を膨らませる様子を面に出したミシェル。


神主は、其処で。


「ミシェル、いいかい?」


「はい、マスター」


「妹が出来れば、君が妹に名前を付けるんだ。 そして、君が先に学んだ事を教えるんだ。 イイね。 ミシェルの毎日は、生活するに不自由ない知識と経験を学ぶ日々なんだよ。 だから、毎日を元気に送って欲しい」


「はいっ」


「さ、荷物を運んで」


ミシェルは、素直に頷いて荷物を運ぶ作業に移る。


その姿を見る神主に、ロビンソンは。


(マスター・・。 ミシェルハ、ダレカトケッコンスルノカ?)


神主は、抑えた声で。


(いずれな。 今は、まだ無理だろう)


(ソウナノカ・・)


(ミシェルの体は、見た目は17・8の女だが、中身はまだ12・3の少女と変わらない。 もっと発達する頃が来るはずだ)


(マスター。 アイテハ、シンチョウニエラベヨ。 アノコハ、シヌホドシンパイダ・・・)


(ロビンソン、心配してくれるなら・・。 見合い写真は一緒に拝むかい?)


(・・・ゼヒ)


(そうか)


神主は、コテージに入るミシェルを見ていた・・。 その背中の面影が・・・心の中に浮かぶある人物と重なる。


(創った以上は、人にしてみせる。 愛を無限に創れるなら、不幸は縮小するさ)


神主の心の中に、強い意志が超新星スーパー・ノヴァの如く光を放つ。 彼の生涯を掛けた挑戦であった・・・。


さて。


ミシェルを連れ、夕方前に神主は皆と間近の湖へと出掛けた。


ケータイや一昔前のキャッシュカードの様に薄いデジカメで、若者のスタッフは紅葉の美しい湖畔の風景を写したりしている。


神主やミシェルと共に歩く薗田氏。 ハイキングジャッケトに、ベスト、チェックのYシャツと云う紳士スタイルは変えないままで。


「しかし、紅葉は素晴らしいですな。 半年掛かって育った葉を、色づかせて落す・・。 生命のサイクルとしては当たり前なのでしょうが。 この様に尽きる前の命が色鮮やかに燃える。 素晴らしい以外に言葉は要りませんな」


神主は、薗田氏が饒舌なのに微笑み。


「薗田さんが良く喋るとは珍しい」


「あはは、ちょっとセンチメンタルになりました。 昔は、妻と一緒に良く旅行に行きましたものですからね」


「なるほど」


ミシェルは、湖畔の木々を見ながら。


「マスター。 この木は、全て死んじゃうんですか?」


枯葉の絨毯の上を歩く神主は、ミシェルに紅葉の理由を教えた。


聞いたミシェルは、楓や公孫樹、橡などの木々を見て。


「紅葉って、命の輝きなんですね~」


薗田は、ミシェルを見て目を細め。


「いやいや、ミシェルさんも紅葉の意味がお解りの様だ・・」


神主は、ミシェルの肩に腕を回し。


「ま、植物も動物も変わらない。 最も輝ける時は、子孫を残そうとする時と、若く何かに向かって成長する時。 ・・、今のミシェルは、先ず成長をする時に来てると云えるかな」


ニコっと微笑むミシェルは、神主のポケットにいるロビンソンを見て。


「マスター、ロビンちゃんは枯れないんですか?」


やっぱり意味を理解していないと解ったロビンソンは。


「オレハキカイダトイッテオロウガッ!! ソンナニオレニシンデホシイノカっ?!!!」


ミシェルは、ロビンソンをジッと見ていて。


神主は、


(ロビンソンの何が気に入らないのだろうか・・・)


と、呆れるしかなかった。


神主がスタッフを連れて来た理由は、只の観光でも無い。 ミシェルの歌う歌の作成や、衣装などの打ち合わせのアイディアを絞る意味合いも含まれていた。


薗田とは、ミシェルの登場やステージ上での演出を話し合う意味から付いて来て貰った訳だ。


約1週間の滞在だが。 この間も【シャ・ン・グリ・ラ】の営業は続けられている。


その運営は、ミシェルにも興味を示す社員の一人に、神主は任せている。 ガリガリに痩せた小男で、経営センスと行動力に優れた“祭事 亮”(さいじ あきら)と云う中年男である。


神主は、下手な幹部社員よりこの男を買っていて、何事も云わずしてこうしているのだ。


さて・・。


ミシェルにとって、この外泊は楽しい物となった。


「わ~いわ~い」


湖面に浮かべたボートを爆走するバイクの如く漕ぐミシェルは、他の訪れた客達に“UMA”が現れたと驚かせ。


神主にボートを禁じられると、今度は落ち葉を山を築く様に集めてはハイキングコースを塞き止めた。


次の日。 早朝にハイキングへと出掛けた人達が、落ち葉で出来た壁に出くわして騒ぎに。


神主は、ミシェルの存在を公に出来ないから傍観を決め込んだが・・。


(早く・・・早く教育を進めねば・・・。 何れバレる・・・、ヤバい)


所が、その二日後。


神主が車でスタッフ数人と出掛け、他のスタッフは仕事にそれぞれ向かっていた。


暇で仕方の無いミシェルは、スタッフの一人が持って来ていたスキューバーの一式用具を勝手に借りた上に、一人で湖へ。


丁度、買出しに出ていた神主不在の所だが。 残ったスタッフは、環境の変化で刺激を受けたのであろう、アイディアを捻るのに皆が夢中に成っていて、ミシェルに気付かなかった。


ミシェルは、神主の開発した時計型アームPCからスキューバーの遣い方を知り。 勝手に湖へと潜る。


湖に潜ったミシェルは、泳いでいる魚を追い回しては、ボートに乗る客を驚かせ。 コケと水草に巻き付かれたままに姿を湖面へ。


神主が車を運転して戻ると、湖の周りを捜索する住人と出くわし。


「アンタらっ、気ーつけっ!! カッパか、この地方に伝わる妖怪のアズミが出たんじゃっ!!」


と、注意をされる。


ミシェルの存在を真っ先に思って驚いた神主は、急いで戻る。


すると、遊んですっかり満足したミシェルが、シャワーを浴びていた最中で。 水草を絡めた酸素ボンベと、ドロドロに汚れた潜水服がコテージに脱ぎ捨ててあった。


神主の帰還を知ったロビンソンが。


「マスター・・アノコヤバイヨ・・・。 ソノウチ・・ゼッタイニバレルッテっ!」 


神主は、ミシェルの奔放さに肩が落ち。


(はぁぁ・・、次のヒューマノイドは、もっと大人しくする教育プログラムを使うか。 ミシェルが二人居ては、身が保たん)


と、心に決めた。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、ありがとうございます^人^

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