其の五話
5、ミシェルの日常ーその1
朝、部屋が明るくなった。
「ん? ・・・・朝か?」
神主は、ベットの上でムクリと起き上がった。 白い、金属の台の様なベット、床に直寝しているような硬さが、神主にはいいらしい。 黒いカジュアルシャツの前のボタンは填めておらずに、裸の半身が見えている。
だが、それだけではない。 神主が寝てから、神主のバイオリズムを管理する体調管理システムが部屋全体に巡らされて。 睡眠の時間と、神主の体調に合わせて、天井が明るくなるのも実はこのベットに内蔵されているセンサーの御蔭。
「ん?」
隣を見れば、ミシェルが可愛いピンクの熊のキャラクターのプリントが入ったガウンスカートタイプの寝巻きで寝ている。
「・・・・」
神主は、自分の隣にミシェル用のベットを作ったのだが、どうしてもミシェルは神主の横に潜り込むのだ。
本人、曰く。
「だってぇ~。 神主様って温かいです」
と。
(まったく・・・どうなっている?)
神主は、ミシェルがどうも解らない。
嫌・・・神主がミシェルを解らないだけじゃない。 ミシェルも神主を理解出来ないのだ。 だが、ミシェルは神主の定めたプログラム教育の中で、自分の好きな事をやると教育は受けている。 それが、答えなのかもしれない。
だが、神主は人の心の機微が解っても、受ける人間では無かった。
「ミシェル、起きなさい。 朝だ」
神主は、ミシェルを揺り起こす。 言う事を聞かないからと腹を立てる性格でもまたない神主である。
「はぁ~い、ふぁ~・・・・」
ミシェルが身を起こすと、いきなりベットに三つ指を点いて。
「おはようございます、ご主人様」
その仕草を見た神主は、ポッカーーーーーンっとミシェルを見る。
(何処で・・・覚えた?)
暇な時のミシェルには、気の向くままに好きにさせているので。 彼女はテレビを見たり、インターネットで何かを検索したり・・・。 とにかく、ミシェルは神主から離れない。 神主が外に出れば出たがり、居れば居たがる。
神主は、頭を掻いて。
「ホラ、起きるぞ」
と、ベットを降りる。
「はぁい」
ミシェルもベットを降りた。
神主は、ミシェルを夜だけクラブに立たせて歌わせる。 もう、あのステージ初日から立った回数は4回を数える。 3日か4日起きに歌わせている。 人気は上々。 告知無しの、不定期登場なのに、ミシェルがステージに上れば。 客がメールなどで情報を送るために、時間の進むに連れてダンスフロアは満員になる。
昨日は、アキハバラTVと云う番組で、“シャングリラに現れる謎のアイドル”とか云う特番で、撮影が来ていたとか。 内容は、シャングリラでステージに立つインディーズアイドルの卵達の紹介だが。 探していたのは、完全にミシェルである内容だった。
神主は、いずれはミシェルをアイドルとして大きくデビューさせる方向だ。
ただ、まだ色々と壁もある。
一つは、所属プロダクションだ。 ミシェルの事では、ある程度は神主サイドに融通が利いて貰わないと困る。 ミシェルそのものが、未知のヒューマノイドだからだ。
それに、やはり金も。 ギャラの云々では無い。 ミシェルを商品としているのは、あくまでも神主である。 一方的な商業戦略を組まれても困る。
さて、今日はな~んもやることが無く。
神主は、トイレに行って考えて、出てくると・・。
「神主様、ご飯出来ました~」
と、ミシェルが寝巻き姿のままにフライパンを握っている。
(う~ん・・・・家族染みて来てる・・・)
神主がミシェルに思い描いたイメージとは、かなり逆の方向だ。 もう少し我儘で、掴み所の無いほうが、客に受けやすいと思うのだが・・・。
明るいライトの下、白いテーブルに座り。 ミシェルと向かい合って、スクランブルエッグとトーストにスープ・・・。 かなり美味い。
「ミシェル」
パンを片手に神主。
「ハイ? なんですか」
スープを掬ったミシェル。
「モグモグ・・・・ん・・お前、何処にでも嫁に行けるな」
「そ・・・そうですかぁ~」
急に、ミシェルは顔を赤らめて下を向く。
神主は、パンにバターを塗りながら。
「これだけ料理上手で、家事全般はパーフェクト・・・いずれは、お前も誰かのお嫁さんだ。 俺が、相手にお前を連れてヴァージンロード歩かないとなぁ~」
ミシェルは、首を傾げて。
「ヴァ・・ジン・・・ロード?」
神主は、ミシェルを見て。
「知らないか・・ま、まだ知らなくてもいいか」
と、云う。
ミシェルは、結婚と云うことを昨日知った。 検索したのだ。
(今日も、検索ですぅぅ~)
ミシェルは、気合いを入れてそう思った。
さて、神主は食事が終わり。 ミシェルと跡片付けをしてから、会社を任せている友人と連絡を取り合ったり、運営状況の報告を聞いたり。 終われば、もう一つのプロジェクトの考案や技術開発の草案にと動く。
一方・・・ミシェルは・・・。
(ケッコン~・・女のシアワセ~・・・、出前でっきるっかなぁ~)
神主の身の回りの世話を終えると、彼女専用のPCに向かう。 研究室に有るダンス・ヴォイスシミュレートトレーナーの脇に、デスクと一緒に買って貰った。 そこで、日課の検索生活に入った。 本の様なノートチェッカーと呼ばれる所に、タッチペンで検索したい事柄を説明書きしても検索してくれるのだ。 商品の注文も出来る。 (けして・・・つう○○生活では無い)
さて、昨日は言葉だけだった“結婚”について。 ミシェルは、結婚式の遣り方から、結婚の定義や流れ、ウェディングドレスのアレコレまで見る。
(・・・ドキドキ・・・・ドキドキ・・・・)
その中で、ミシェルは、
【結婚とは、愛する人と共に生きる決意であり・・・】
と、結婚の定義に目が奪われていた。
(? ・・・愛? 愛って・・・・何?)
ミシェルは、PCの前で考え込んだ。
神主は、次のステージの上に立つ時の衣装が困る。 業者から送られて来たのは、どれも風俗のコスプレ衣装ばかり。 前回の“アオザイ”と云う民族衣装のアイディアは、園田の下に居たスタッフの案だが。 神主からすると、こっちのほうが理解が行く。
(う~ん・・どれもイマイチだ。 仕方ない、ミシェルに決めさすか・・・)
ふと、ミシェルを見ると、PCの前で右に左に頭を揺らし、ミシェルは何やら思案中である。
(な~に考えてるんだか・・・)
「お~い、ミシェル」
神主はミシェルに声を掛ける。
ミシェルは、最初呼ばれているのに気付かなかったが。 神主がミシェルの頭に丸めた紙をポ~ンと投げて、当たって初めて。
「あれ? 何?」
と、頭に当たった物を確認しようとしたときに。
「うぉぉぉい、ミシェルっ」
と、神主の声が聞こえた。
「あ、ハ~イ・・何ですか?」
ミシェルが立ち上がった。 スタスタと歩くミシェルは、神主の下に向かった。
全く整理されていないゴミの山な机の前に、神主は座っている。 このテーブルだけは、ミシェルにも片付けさせない神主なのだ。
前に来たミシェルは、短い黒のスカートに、白い袖の長いTシャツ姿。
「ミシェル、何を悩んでた?」
ミシェルは、俯く。
神主は、呆れて。
「ま~た訳の解らん事を調べたのか?」
この前は、何を調べているかと思ったら、新聞やニュースに出ていた痴漢の事を調べて、
“神主様、女性とは電車の中で触られるものなのですか? 服も脱ぐのですか?”
と、質問し。 神主が食べていたたこ焼きを喉に詰まらせて、危うく窒息しそうだった。
今日もミシェルは、悩む素振りで首を傾げて。
「はい、愛って・・・なんでしょうか。 結婚には、愛が必要だとありましたが。 私、愛が何か解りません・・・」
神主は、ミシェルを見返して困った。 自分の最も不得意な分野である。
「ミシェル、愛ってのはな。 人を好きになってから知る事だ。 まだ、お前は人を好きではないだろう?」
すると、ミシェルは更に困惑した顔で。
「“好き”・・・ですかぁ~? ん~神主様をなら、だぁ~い好きです」
「アホ。 それは、教育で俺に従うように学んでいるからだ。 それは“好き”では無い」
「はぁ・・。 ではぁ・・解りません」
神主は、困ったが。 コレも人と同じ身体の為と思って。
「まあ、いい。 ゆっくり考えなさい。 それより、今度のステージはどうする? いっそう、ウエディングドレスでやるか?」
ミシェルは、パッと明るくなり。
「は~い、それ着たいですっ」
「うん、解った。 じゃ、衣装スタッフでも誰か作るか・・・。 俺が毎回悩むのもバカらしい・・・」
神主は、自分の手からミシェルを少しづつ離そうと考えた。
その晩、ミシェルがせがむので、一緒に風呂に入れば・・・。
「ドキドキ・・ドキドキ・・・ドキドキ・・・」
ミシェルは、神主の裸を恥ずかしがっていながらも、注目する。
頭を洗う神主は、床に座りながらに。
(コイツ、メチャクチャ男に興味あるなぁ。 恋愛も早いかな・・・来年に父親代わりで歩くかもしれん・・・ヴァージンロード)
ミシェルは、湯船に浸かりながら、浴槽から顔半分を除かせて神主を見ていた・・。
どうも、騎龍です^^;
最近、全てが何かに偏り気味で、ノイローゼに近い毎日です^^;
あ〜、なさけね;>;
ミシェルの衣装について、一番頭が回らないので、困る今日この頃です〜(;0;)
ご愛読、ありがとうございます^人^