其の四話
4、ミシェルの歌声
「ようこそ御出で下さいました。 本日は、ミシェルの歌声です」
神主が、またタキシードに身を包み。 ミシェルの3回目のステージ案内をした。
「ミシェルーーっ!!! 今夜も最後まで歌ってーーーっ!!」
「ミシェルちゃーーーーん!!」
客の熱狂的な声は飛べど、ステージにミシェルの姿は無く。 客は、神主の案内で登場すると思い、何度も声を飛ばす。 しかし、ミシェルは現れない。
会場中が、見る見る静まり・・・ポツリ・・・ポツリとざわめきが・・・。
「どうした・・・」
「デマ?」
「アクシュデントかな?」
「ミシェルちゃんは?」
ダンスホールが、ざわめき出したその時だ。 いきなり、客の中から中央小ステージにジャンプして飛び上がる人影が・・・。
「あっ!!!」
「ミシェルっ!!!!」
「キャーーっ!! ミシェルぅ!!」
花の髪留めを着け。 モスグリーンのベトナムの民族衣装をドレスにしたような、アジアンチックな姫君のような可憐で可愛いミシェルが立っている。
「みんなぁ、ミシェルで~す。 今日も、思いっきり歌うよぉーっ!」
にっこり笑顔のミシェルに、ダンスフロアの熱気は一気に最高潮に上がった。 今夜は、ミシェルはゴンドラには乗らず、奥ステージからダンスフロア中央へと伸びるロードの先にある円形小フロアに、客に紛れて近づいて・・・いきなりの登場という演出だった。
軽快なサウンドのカヴァーナンバーに始まった。
途中、
kiss me
night distans
maze
と、自前の曲を歌い。
途中、中休みとばかりにトークを神主と・・・。
「えぁ~みなさん、ミシェルです。 今日も集まってくれてアリガト~」
と、彼女が手を振れば・・。
「ミシェルーっ!!」
と、“ミシェル命”の鉢巻に、アニメアイドルのプリントをしたTシャツの若者達が声を上げた。 もう、コアなファンがついたらしい。
ミシェルは、神主の教育も在る為か。 ファンサービスの一環で、
「アリガト~。 最後まで聞いていってね」
と、首を傾げる。
お客の酔ったオジサンから、
「ミシェルちゃん、今夜のパンツの色は?」
と、声が。
客の一部が、嫌な顔をサラリーマンに向けるも。
ミシェルは、笑顔で。
「ンフフ~・・・明るい色ですよ~。 でも、ナ・イ・ショ」
と、口に指を当てた。
客から、
「歳は?」
とか、
「好きなタイプの男性は?」
とか、色々質問が飛んで、ミシェルは笑ったり・・・困ったり・・・神主に小声で聞いていたり。 その純粋な仕草は、何処か欲に染まっていない天使のようで、愛らしく見える。
そして。
トークの後は、神主の作詞の曲を・・・。
神主自信が、立ち上がり
「さあ皆様、今夜は新曲も行きます。 最後3曲は、オリジネルナンバーでどうぞ」
すると、お客の女性から。
「ナビゲーターさんカッコいいーーっ!!!」
と、黄色い声が。 ここは、情報厳守で、携帯のカメラを使うのは禁止されているのだ。 だから、メールは打てても、撮影はされていない。 最高技術のセンサーで管理されているのを、客は開店当初で把握している。 1000万近い罰則金を誰が払えるものか・・・。
歌うミシェルは、何処か恥ずかしそうにして。
「聞いてください・・・恋歌です」
ミシェルは、歌いだした・・・。
1
ふと瞳が覚めた朝 君が 隣にいて
ありふれた毎日 愛だ と感じた
離れている時でも 毎日 の思いが感謝で紡げるの なら
* I LOVE YOU LOVE AGAIN 涙流した 淋しい夜も有 ったよね
I LOVE YOU LOVE AGAIN 愛して居ると誓い合った 言葉 今でも君だけに
2
ケンカした時には 君が 先にゴメン
君のムクれた顔 ちょっ と好きだよ
離れている時でも 二人の 想いを確かめて
涙を見せずに
* I LOVE YOU LOVE AGAIN 涙流した 淋しい夜も有 ったよね
I LOVE YOU LOVE AGAIN 愛して居ると誓い合った 言葉 今でも君だけに
* I LOVE YOU LOVE AGAIN 変わりはしない
I LOVE YOU 君を抱き寄せた
I LOVE YOU LOVE AGAIN 背伸びしないで この手 繋ぎ合って 歩いて行こう 二人 いつまでも・・
(愛・・・って・・・なんだろう・・・)
ミシェルは、この歌を歌いながら、その意味を考える・・。 生まれて間もないミシェルは、愛がなんたるかが・・・解らなかった。 涙を流した事も・・・怒った事も無い・・・。
(この歌・・・何て意味なんだろう・・・)
歌詞の意味が・・・ミシェルには解らなかった。
そして、次の曲・・・。
【monochrom】
冬が便りを風に乗せ 秋を静かに諭すの
アナタと別れた記憶 まだ新しい彩みたい
寒い空気に急かされて
仕事の日々に薄められて
色褪せていく愛の写真…
※一人の時間に流す涙が冷たくて 凍えてしまうの私… 逃げる思い出がシルエットみたい monochrom memorys
部屋に残る二人分の物達が 語る楽しかった時間を
ふと感じてしまう私 リセット出来ない記憶
街を歩く嬉しそうな恋人達を見る度に想ってる
湧き上がる愛情だけが…
※降り注ぐ白い雪に洗われて行く 二人で汚した愛の言葉… 終わらない愛をまた捜すから monochrom memorys
想い返せる時に輝くまで… monochrom memorys 私アナタを愛してたわ…
ミシェルは、この歌で泣いていた。 どうしてか解らない・・・ただ・・・涙が溢れてしまったのだ。
2曲を歌ったミシェルは、目を瞑っていた上に客の声が聞こえなくなっていたのにフット気付いた。
(あ・・・)
暗く照明を暗くしたダンスフロアの中、お客達はシーンと静まり返ってミシェルを見ている。 客の半分は・・・・涙を拭わずにそのままに・・・。
ミシェルの完成系の歌声は、響き・声色・浸透力、どれもが洗練されている。 神主がそうゆう遺伝子を組み込んだのだが・・・。
ステージ脇の暗幕の影に居る神主は、腕組みで見て頷く。
(フムフム、いい出来だ・・・。 ミシェルは、歌うほどに声の質感が洗練される。 これは、いい商品だ)
と、思う反面。
(そう言えば~・・・。 遺伝子の組み込み方はデータあったけど・・・遺伝子の分裂残留レベルのデータ無かったなぁ。 ん~・・もう少ししたら、ミシェル2号でも造るか)
と、また研究の事を考える。
そこに、後ろから園田が遣ってきた。
「神主様、ミシェルさんはいい歌手ですな」
神主が、初老紳士の園田を見れば、ニコニコとミシェルを見ている柔和な園田が居る。 園田氏は、作り笑いのポーカーフェイス人間で、こんな感情を見せて笑う男性でもないのだが・・・。
「ま、俺の目に狂いは無いって事さ」
その時、ミシェルは深夜12時の鐘が鳴るのを聞いて。
「時間・・・押しちゃったけど、最後の曲・・・行きますね。 “輝く羽”です」
ミシェルが、日本舞踊のように舞い踊る為のクラシカルな曲が流れ・・・。 静かな曲のサウンドに変わった・・・。
【シャイニング・フェザー】
1
疲れ果てた私は逃げ回り 都会の片隅に隠れるの
癒やされたい 癒やしたい 誰かに何を求めるの?
激しい雨をやり過ごし 雷の音に怯えるの 悲しい思い出しか呼び起こせないから
白い羽根よ 今 私を救い出して その強い羽ばたきで 迎えに来てくれるなら 私は何処までも高く飛び立てる
優しき羽根よシャイニング・フェザー
2
真っ直ぐ過ぎて 頑張り過ぎて みんなの中に居られ無い
茨の杜は何処までも見えて 体中が怯えるの
逆巻く時の風 指差す人の言葉は剣の様に鋭くて 傷付い飛べ無いわ
白い羽根よ 今 この背中に蘇るなら 雑踏の監獄を飛び出して 愛する貴方の元へ 癒やしの楽園に行けるはず
目映い羽根よシャイニングフェザー
幾千の無情の海で嘆く 漂って流れ着くのは地獄なんて信じない
白い羽根よ 今 再び蘇れ 全ての負の鎖を絶ち斬って 溢れる羽根を希望に変えて
白い羽根よ シャイニングフェザー
目映い羽根よ シャイニングフェザー
歌い終わったミシェルは、
「今日も最後までありがと~。 また、ここに立って皆さんと会いたいな」
盛大な拍手が・・・・・終わらない拍手が・・・フロアを埋め尽くす。 惜しむ声や、アンコール・・・ミシェルが神主の下に下がっても、そのファンの声は止まなかった。
ミシェルは、この歌の意味も良く解らなかったけど、飛んで行きたい人の腕の中は想像が出来た。 ミシェルの心の中には、生まれながらになのか・・・生まれてからなのか・・・何かの鼓動が産声を上げていたのだった。
「終わりました。 タカヒロ様」
見上げて笑う相手は・・・。 ミシェルは、今夜も惜しまれて下がった・・・。
どうも、騎龍です^^
いやいや、長く間を空けまして^^;
鬱気味で、忙しいんだか暇なんだか解らない生活がヤバイっすね^^;
ご愛読、ありがとうございます^人^