毒吐
人生とは選択の連続であり、選択しなかった未来を私達は知ることはない。
しかし、時折夢という形で私たちは平行世界を視ることがある。
きっとそれは過去の後悔が形を成したものであり、生涯消えることのない傷でしかないのだ。
「あの時こうしておけばよかった。そうすれば傷つくことも傷つけることもなかった」
傷は私に常に問いかける。
「消えない傷を与えてまで見たかった現実はお前を楽にさせたのか?お前はあの日から覚めない夢を求めて、夢であってほしいという願望から抜け出すことはできたのか?お前が居たあの場所に、もうお前の痕跡は存在していないことを理解していながら、まだ夢に堕ちようと言うのか?」
誰にこの苦しみが理解るというのだ。昨日のことも覚えていることができなくなって、仕事にも支障が出ているのに、私を焦がすほどの後悔を誰が理解するというのだ。私自身でさえも理解できていないのだ。
毎日吐き気がするほど生きることへの苦しみを忘れたいのにそれがなくなれば死ぬことがわかっている葛藤を誰が見たのか。
「なぁ、答えてくれよ。俺はなんのために生きることを選んだと言うの。寿命を削ってまで人間で在り続けようというこの身体は何がしたいのか教えていくれよ。いい加減、死なせてくれよ。なぁ、聞いているのか!お前は誰なんだよ!いつも偉そうに語りやがって!そんなに俺を否定するなら、俺の代わりに生きてくれよ!俺はもう頑張ることに疲れたんだよ。数時間前のことさえ覚えていなくて、自分のために金を使えるわけでもなく、あるのは歯車に成り堕ちたガラクタだけの人生にどう期待しろと!?やりたいこともなく、ただ毎日を無感情に消費していくだけの人生に色があると!?お前の言う夢に堕ちてでもしないと、死にたくて仕方がないんだよ!作られた感情に、作られた自我で、どこにも自分がいない苦しみがわかるのか!?未だに上司に言われた一言が耳にこびりついて、自分の大学時代は本当に意味が合ったのか、大学に行かなかったほうが人生うまくいっていたかもしれないと考えてしまう自分を殺したくて、日に日に憎悪が膨らんでいくだけの生き方になんの意味があるんだよ!!」
どれだけ慟哭しようが、涙は流れることはない。もう泣き方を忘れきってしまった。でも、なぜか昔を思い出すと、妙に泣きたくなるのだ。
あの時代に何かを忘れてきてしまったことだけは覚えている。誰かが私に笑いかけているのに、それが誰なのかがわからない。
想い出は遥か遠くに去っていく。
世界を憎み、人類が滅びることを心の中で期待している私はきっと人間ではないのだろう。
人間のふりをした何かなのだろう。
私を誰も救わないように、私もまた誰も救わない。
人を嫌う以上、私は誰かに嫌われても仕方がない。
自分は良くて、他人が駄目なんて都合が良すぎるのだ。
「鏡は真実を映すものだが、同時に偽りも映す。お前は私であり、私ではない」
鏡の男は、無邪気に嘲笑う。
傷の男は、目を閉ざす。
白の女は、静かに笑う。
黒の男は、怒り狂う。
私という人間は、もうどこにも存在しない。
あの時、体は死ねなかった。だが、心は死んだのだ。
心は死に、記憶はいつしか記録に代わり、操縦者を失った体は少しずつ崩壊する。
首を吊って死のうとしてから、もう半年以上が経ち永い時間をかけ心が死んだ。
白の女と黒の男は、もう存在しない。今見えているのはただの幻覚だ。
首の跡が赤みを帯びる。
死ねなかった、死にたい、殺したい、殺されたい、消えたい、眠り続けたい、楽になりたい、泣きたい、叫びたい、狂いたい、狂えない、身体を切りたい、切れない、全てがどうでもいい、独りになりたい、独りになりたくない、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい
殺して、私を殺して
消えさせて、誰も私を見ないで
弱音を、後悔を吐き出したい
僕を愛して
消えたい、死にたい
狂気を抑えられる才能なんていらなかった。もっと生きるのが上手かったらどんなによかったか
助けて、この地獄から救ってよ
死ねば楽になる、死ねば誰かが悲しむ。生きないと
なんで生きてんだろ
なんで生きようとしているのか
楽にさせてよ
殺してよ、殺せよ、死なせろよ、楽にさせてよ
励ましも慰めもいらないから、殺してくれよ
無責任に応援するぐらいなら、殺してくれよ
誰も必要としないのなら、死なせてくれよ
愛をくれよ、死ぬ理由をくれよ、生きる理由をくれよ、金をくれよ、生きてもいい理由をくれよ
もうすべてがどうでもいい、だから殺してくれよ
一思いに殺してくれよ
そうすれば、俺は救われるから