第101部
第41章 信頼の人の裏切り
「そう言えば、なんで教団の人は追ってこないんだろう」
ホテルに入るなり、チェックインする前のロビーの時、長見が翔平に聞いた。
「カオス神に頼んで、魔法を拡散してもらっているんだ。それで、空間移動した事はわかっても、どこに行ったかは分からない」
「なるほど」
チェックインして、部屋に上がって行った。黒い服を着ているとても怪しい人がこちらを向いているのも気がつかずに…
「やれやれ、これでゆっくりできるな」
「でも、今日中には、元の惑星に戻りたいね」
「出来たらな。教団関係者が、もしかしたら、あちこちで張っているかもしれない。その目をやり過ごしながら、空港に行くのは恐らく至難の技だろうな」
「でも、それをしないと、恐らく行けないからな」
「空間移動したら?そしたら、空港までひとっ飛びだよ」
「そうだな。ま、朝どうするか考えよう」
彼らは、部屋に入った後、朝になるまで、外には出なかった。
朝8時ごろ、来客があった。
「はいはい、誰ですか?」
「すいません、ここ、河内翔平さんの部屋ですよね。すこし、お話したい事があるんですけど」
「教団の人ではないですよね」
「ええ、違いますよ」
堂々と言った。
「なら、お入りください」
ドアが開かれ、黒スーツを来た人が入ってきた。ただ、帽子は、スポーツ帽だった。
「あなたはどなたでしょうか」
「私は、こういう者です」
名刺を出してきた。金の縁取りで、高級和紙に書かれていた。
「ねこ、しゃくどさん、ですか?」
「いえ、根来尺土です。ねごろ、しゃくど」
「職業は、第2宇宙空間惑星評議会副会長、なぜ、そのような人が、私達に?」
「実は、教団から逃げる人をかくまう仕事もしていまして、その都合です」
「いえ、そう言う事は、不要です」
「そうは言わずに、お願いしますよ」
「要らないものは、要りませんので…」
「いえいえ、必ずや、お役に立てますよ」
翔平は、ドアを指差し、言い切った。
「出て行ってください。あなたは、私達には必要ありません」
「そうですか…ならば仕方がありませんね」
刀で切りつけてきた。すると、再び佳苗が刀を取り、尺土をきった。その間、誰一人として動く事が出来ないほど短い時間だった。
「ふ〜」
深いため息をつき、深々と椅子に座りこんだ。
「なあ、佳苗さ、どうやったらそんな事が出来るんだ?この前の、あの惑星で襲われた時も、そんな感じで相手を倒したよな」
「…分からない。私自身、何も憶えていないもの。でも」
立ち上がり、二人をかわりばんこに見た。一回、深呼吸をしてから、続きを言った。
「でもね、私は私。誰でもないの」
「確かにな、でも、どうしてだろう…カオス神、神々の中で、剣が使えるのっている?」
"一通りなら、全員出来るな。しかし、ここまですばらしい腕をしているのは、誰もいない"
「じゃあ、なんだろう…」
「それより、別の心配をしよう。ほら、外」
長見に言われて、外を見ると、警察車両が山ほど来ていた。
「あいつらを全員まくなんて、不可能だな」
「じゃ、どうするんだ?」
「さっさと、ここから空間移動をする。空港は、どこだ?」
「あそこ!ほら、航宙機が飛んでる!」
佳苗が指差したのは、ちょうど、東の方向だった。
「じゃあ、さーん、にー、いーち」
バシッと移動して行った。その途端、部屋の中に、警官が突入して来た。
警官が中を調べている時、中に一人の女性が入ってきた。
「あ、あなたは…」
「根来は?」
「はい、自らの刀できり付けられ、突入時には、既に死亡しておりました」
「下手人は?」
「現在逃亡中です。さらに、教団側から、生かして連れて帰るようにいわれております」
「教団が?何をしたんだ。あいつらは」
「クリスタルがどうこう言っておりましたが…おそらく、その事かと」
「クリスタル…」
怪訝な顔をする女性、しかし、ある時、ひとつの結論に達したようだった。
「そうか、確かにクリスタルと言っていたんだな」
「はい。間違いありません」
「そうか…これは、楽しくなりそうだ。フッフッフ、現場、ちゃんと掃除しとけよ。それと、ここに、私が来たのは極秘だ。誰も話してはならん」
「了解しました。副団長閣下」
彼女はそのまま現場から去って行った。
「さて、ようやく航宙機の中に乗れた訳だが、どうしてか、指名手配が出ていないんだな」
「いいじゃない?出てないって言う事は、私達の事がまだ分かっていないって言う事だもんね」
その時、アナウンスが流れてきた。
「本日は、銀河間航宙社にお乗りいただきまして、まことにありがとうございます。第3銀河までは、1時間で。第4銀河までは、2時間半。第19銀河までは、5時間を予定しております。それでは、シートベルトをお付け下さい。まもなく、出発となります」
続いて、英語が流れた。そして、全てを言い終わった後、動き出した。
動いている間中、3人は寝ていた。そして、第4銀河に到着すると、彼らは、銀河内シャトルバスに乗り換え、元の惑星に戻った。そして、グランドールの家に入って行った。
「ただいま戻りました」
しかし、家の中には、グランドール以外にも、誰かいた。
「ああ、おかえり。さて、第3惑星はどうだったかな?ああ、座って話すといいよ」
「あの、この人は?」
グランドールに勧められて、出された椅子に座りながら、佳苗が言った。
「彼女は、教団の副団長らしいよ。ちょうど、彼女も今来たところだ。さて、ご用件を伺いましょうか?」
「ええ、私達の、クリスタルを返してもらいたいの」
「あなた達の、クリスタル」
「そうよ。この人が盗ったクリスタルは、特別なもので、それが必要なの。さあ、返してくれる?」
「そうですか…しかしそれはもう無理ですね。なにせ、自分は、神と共にあるのですから」
カオス神が現れ、副団長の前に立った。
"あなたは残念だろうな。なにせ、神の力がやすやすと手に入るチャンスだったからな。しかし、その事を潰えた。さあ、帰りなさい。9人の神がこの世界には存在している。あなたも、運命ならば誰かと一緒になれるだろう。そうだ。帰る前に、本人の口から、聞きたいことがある。いいかな"
「ええ、どうぞ」
神の前なのにかなり堂々としていた。ただ、手のひらには汗が染み出していた。
"教団とは、一体なんだ?"
「私の教団は、魔力増強教団と呼ばれています。遥かな昔、神の力を受けた2人の人から派生して作られたと言われています。彼らは、人出身ながら、神になった人物です。我々も、為れるはずだと言う目標の元、教団は結成されました。そして、神の現象と思しき物は、すかさず、本部に伝わるようになっています。それを利用して、複数の職員を派遣し、事実なら、私達、最高幹部クラスの人達の出番です。今回は、最初の事実報告例でした。さて、副団長は、5人おり、そのうちの一人が、クリスタルを受け取りました。そして、彼に、掏られたのです。それが、神のクリスタルだったのです」
"なるほど、だが、我が力を手に入れた後、そなた達はどうするつもりなのだ?"
「私達は、教団全員の内、それぞれの神の力を受け入れる器が出来ている者達に、等分分割します。神のクリスタルを等分に分割し、それぞれに神の力が宿ります。それをひとつづつ渡します」
"そなた達にひとつ教えておこう、我が力は既にこの3人と不可分化しておる。こやつらを殺さぬ限り、我が力は永久に手には入らんぞ。ついでに言えば、このクリスタルは我が力により、いかなる力を持ってしても割れぬようになっておる。うそと思うのならば、実際に試すがよろしいだろう"
「そんなものは、世界に存在しない」
カオス神は、クリスタルを出し、相手に渡した。ファシミルは、さまざまな魔法をかけ、さまざまな力を使ったが、割れなかった。ついに床にへたりこむほどだった。
「なぜだ…我が力は無敵のはず…このようなクリスタルぐらい…」
"そこがそなたの考え違いという物じゃな。魔力のみでいうと、神を超えるものは存在せぬ。ただ、神になったイフニ兄妹は別じゃがな。さて、クリスタルを返してもらおう"
カオス神が手を伸ばしたと同時に、クリスタルは消えた。
「クリスタルを手に入れた以上、そう易々と渡すとでも?クリスタルは我が手中にあり、さあ、取り返してみなさい」
次の瞬間、ファシミルは消えていた。
「どこに行った、クリスタル付きで」
「エネルギー跡を追いかけたら?そうしたら、場所が分かるでしょう」
"フッフッフ、あの女も馬鹿じゃな"
「どうしたんですか?カオス神。もしや、あれは…」
"真っ赤な偽物じゃ。割れぬようにするには苦労したぞ。複数の最強の魔法を駆使して、わざわざ、ひとつのクリスタルにかけたんじゃからな"
その時、ドアが叩かれた。だが、グランドールは居留守を使っていた。何分かして、その人は去っていったようだった。
「さて、君達に見せたい物がある。少しついておいで」
グランドールは立ち上がり、まえ、彼らを閉じ込めた地下階段を下に降りていった。
「ここって、修行中でも、入れさせてもらえなかった場所だよね」
「この奥に、何があるんですか?」
下から冷たい風が吹き抜けて行く。入ってきたところからの光のみが頼りだった。
「さあ、この部屋だ」
そこは、鉄格子を入れられた、牢みたいな部屋だった。
「ここに入りなさい。見せたい物がある」
「もうそろそろ教えてくださいよ。見せたい物って、何ですか?」
「まあ、中に入りなさい」
長見の質問を受け付けず、ただ、中に入るように促し続けた。3人とカオス神が中に入ると、ドアを閉め、鍵を何重にもかけた。それこそ、さまざまな魔法が複数に重なり合い、永久にとけないような鍵を構成した。
「グランドールさん。これは一体?」
長見が鉄格子の隙間から除くようにしてグランドールを見た。
「気がつかなかったかい?僕は教団幹部だ。彼女が来たのも、僕が手引きをしたんだ。君達が神のクリスタルを操るまでに成長した時、教団の物にし易くするためにね。君達は、まんまと引っかかってくれたよ。長い間の信頼関係が君達の緊張をほぐし、こちらの手の内を明かさずに済んだんだ。ああ、ここから出ようとは考えるなよ。この鍵は、僕以外に解除は出来ない。それに、この部屋は、脱出も不可能だ。魔法を吸い取るように構造が出来ている。さて、では諸君。少しここで待っときたまえ。すぐに教団の団長が来るだろう」
そして、笑い声が冷たい牢の中まで響いた。上の方で、ドアが閉められた音が聞こえてきた。