第99部
第39章 魔法協会
「ここが、太陽系か…」
「人類の母なる惑星。ここから、全てが始まった」
「とりあえず、魔法協会に行ってみよう」
空港から、タクシーに乗り込んだ。運転手がいなかった。行き先を言ったら、すぐに動き始めた。
「こんなに大都会、初めて見るね」
佳苗が言った。
「そうだな。今まで、完全に機械化されてきた、初めての実験型の都市にいたからね。結局の所、都会ではあったけど、こんなに大きくなかったもの」
翔平が答える。長見が自らの知識の片鱗を見せた。
「この大都市、東京は、新暦が使われ始めた頃に起こった、原子力テロによって、廃墟になったそうだ。
しかし、新暦360年前後の安全宣言によって、ようやく、復興が出来るようになったそうだ。政府は、莫大な資金を調達して、東京を副都心指定をした。いま、この東京は、日本列島の、行政の中心地なんだ。さらには、人口が、3000万人にまで増えた。いきなりな」
「と言う事は、今、この大都市はこの惑星中の、どの都市よりも、大きいんだな」
翔平が肯定を求めるように言った。
「ああ、それどころか、この宇宙の中で、ひとつの都市に3000万人以上の人口を有するのは、存在していないんだ。それに、この町も、不完全ながらも、機械化はされている。ただ、俺らの町みたいに、全ての行動一つ一つが統制する事ができると言うわけではない」
タクシーは、高速に乗り込んだ。スイスイ進んで行った。
「渋滞とかは、もうなくなったんだね」
佳苗が言った。
「そう。この町は、道路に極微小のマイクロチップを埋め込んでいて、車は、それを頼りに進んでいっているんだ。どんな小さな道路にもそれは入っていて、それを頼りに車は動いている。それに、衛星を利用して、車間距離も自動的に測る装置もある。そうして、この町から渋滞は消えました、とさ。昔聞いたことがあるよ」
「じゃあ、最後の渋滞は、一体いつだったんだ?」
「たしかな…新暦550年ぐらいだったはずだな。だけど、昔は、こんなに自動化はされていなかったんだって。それに、レトロ派って言うのがいて、その人達は、未だに機械化を拒んでいるらしい。便利なのは分かっているんだけど、使いたくないんだって」
「ふーん」
そして、タクシーは、ひとつの建物の前で止まった。自動音声で目的地についた事が分かった。長見達は、カードで払い、タクシーから降りた。
「ここが、魔法協会本部」
「でかいタワーだね」
佳苗が上を見上げながら言った。
「この魔法協会本部は、この太陽系第3惑星の中で、4番目に高い人工建築物なんだ。さらに、世界で最も耐震率が高い建物でもある。高さ1450m、この中では、3万人を越える人が働いている。この近くには、錬金術協会の人達も働いている建物があるよ」
「また、いずれ見に行きたいね」
「そうだな。とりあえず、中に入ろう。ここは、なんか暑い」
タワーの中は、とても涼しかった。
「うわっ、何でこんなに違うんだ?」
「単純な事だ。この惑星は温暖化しておるのだ。今の東京の気温は、40度後半のはずだ」
後ろから、杖の音と共にスーツ姿の男の人が来た。
「あなたは?」
「私は、このタワーの主です。イフニ・グランドール会長から、話を先に聞きました」
「そうですか。では、何を聞きにこちらに来たかも、ご存知ですね」
「そうです。まず、私のオフィスに来てください。それからです」
彼らは、一般利用のエレベーターに乗った。そのエレベーターの最上階のボタンを彼は押した。
「あれ?最高が、60階になってる」
「そうです。このタワーの上部以降は、上級魔法習得者であり、魔法協会職員でないと、入れない仕組みになっているのです」
「へー」
3人は、見知らぬ世界に興味津々だった。1分ぐらいで60階に着いた。
「さあ、ここで降りてください。そして、あそこに受付があるから、そこで手続をしてきてもらいませんか?」
「へーい」
3人とも、手紙を携えて、受付に行った。
「すいません、中に入りたいんですが?」
新聞を読んでいた受付の人は、こちらを向いた。そして、
「何か身分証などはお持ちでしょうか?」
と、精一杯の引きつった笑みを浮かべていた。ここには、あまり関係者以外は入ってこないようだった。
「これで、身分証になりますか?」
長見は、グランドールから受け取った手紙を手渡した。受付の人は、手紙を受け取り、中を検めた。そして、手紙を見て、何も言わずに中に入れた。
「あの手紙、なんて書いてあったんだろうな」
「さあ、知らないほうがいいと思うから、知りたくない」
「受付が終わったな?じゃあ、ここからさらに上に行く事になる」
別のエレベーターに乗り込んだ。次は、390階まであった。
「多いな…」
「我々は、390階で降りる。ここから、大体6分半かかる」
「6分半…まあ、のんびりするとするか」
振動どころか、動いた事すら分からないほど丈夫なエレベーターで、390階という、このタワー最上階にある、魔法協会協会長のオフィスに、彼らはいた。
「さて、君達、神を見たことがあるか?」
「唐突になんですか?」
「そうだな、君達が、神のクリスタルを所有し、なおかつそれは盗品であり、さらには、違法持ち出しであると言う事はわかっている。ただ、本当に神のクリスタルであるならば、400年前後に当時、魔法評議会5会長の時以来、実に350年ぶりと言う事になる。さて、そのクリスタルは、どこにある?」
「ここにあります」
翔平が持っていた袋からクリスタルを取り出し、会長が座っている前においてあった机にゆっくりと置いた。
「そうか、これが神のクリスタルか…350年ぶりに我々人類の前に現れた神…我々は、神に許されるのだろうか…」
何か独り言のようにつぶやいていた。その時、クリスタルが激しく光と音を出し始めた。光が、この部屋を埋め尽くした時、一人のりりしい青年が現れていた。
"やれやれ、350年ぶりに出てきたな…"
ジーンズのズボン、さらに、明らかに工事の時着るような服で、頭には、「安全第一」と書かれた、黄色のヘルメットをかぶっていた。
「あなたは?」
少し、低めの声で、彼は話し始めた。
"我は、カオス神なり。いや、こんなかしこまった口調でなくてもいいだろう。さて、久し振りに出てきたこの宇宙空間で、なぜ、ここにいるんだ?この俺は"
「すいません。私がここに持って来てしまったんです」
"お前は、側沸長見だな。14歳で、上級魔法資格を持っている、さらに、幅広い人脈をほこり、築いている最中で身に付けた知識は、永久に出る事はない"
「なぜ、自分の名前を?」
"当然だ。私は神だぞ?それぐらいはすぐに分かる。さて、この女子は、神谷橋佳苗だな。お前の350年前の祖先は、宇宙軍で主治医をしてたと言う事を知っているか?"
「そうなんですか?全く知りませんでした」
本気で驚いたように答える。
"嘘で驚かんでもいい。さて、この、少年は、河内翔平だな、お前は、この神のクリスタルを偶然にも盗んでしまった、そう今考えているだろうが、実は違う。このカオス神である俺がお前を選んだんだ。さてと、最後になったが、この部屋にいて、この魔法協会会長の、アントイン・カブリエルよ、お前は、この物達から、俺のクリスタルを盗もうとしただろう。無理もないだろう。なにせ、このクリスタルひとつで、莫大な魔力が封じ込められているのだからな。暇を持て余していたこの俺は、この世界に降り立ったんだ。そして、偶然目に付いたクリスタルに住み着いた。それが、今から30年前だ。それ以降、このクリスタルから出た事はなかった。今の今までな"
「どうしてでなかったんですか?あなたならば、いつでも出る事が出来たでしょうに」
"単純な事だ。俺は、おれ自身が認めたやつのまえ以外には出ない。それが、お前だったんだよ、河内翔平。お前が、このクリスタルの所有権を持っている。世界は広いぞ。そして、お前は、このクリスタルを持って、何をしようとしている?"
「俺は、お前の魔力を使いたかっただけだ。それだけだ」
"なんだ、それだけか?まあいいや、だったら、好きなだけ使いな。いつでも、お前達3人だけだったら、歓迎して使わしてやろう"
「ありがとうございます」
"じゃあ、俺は、このクリスタルの中にもう一度帰るから、何かあったら呼んでくれ"
「はい、了解しました」
そして、再び激しい光と共に、カオス神は去って行った。残った物は、暖かくなっているカオス神入りのクリスタル、但し、電気ショックの恐れあり、と、4人だった。