第97部
これまでの話が知りたい方は、歴史の順番に「惑星探求」、惑星探求外伝的存在「高校生活」、「地震の恋」、「相棒は猫」、「シャウド」と進んでください。面倒でしたら、そのままお読みください。
プロローグ
新暦600年の事だった。世界で最初の重力発電が稼動した。その後、すぐそばの惑星に作られたひとつの町があった。それが、計画段階で機械を主とする、自動都市として全宇宙空間に名高い「スカイフェア」と言う町だった。発電開始より150年後、物語は、その年より始まる。
第37章 見知らぬ物
「ふ〜、ようやく巻いたな」
暗い路地裏を駆け抜けて行く一人の少年がいた。彼の名は、河内翔平。重力発電所の技師をしていた両親を事故で亡くし、一人孤独に、町中ですりをして生計を立てていた。
「とりあえず、家に帰ろう。仲間も待っているし。それに、こんな不思議な物も見つけたし…」
彼は、この町にある、橋の袂の陰に隠れた。そして、近くにあるボタンを押し、わずかに出来た隙間に身を滑らせ、中に入っていった。全身がはいりきると、隙間は何も無かったかのように閉まった。そして、外は何も動かなかった。
「ただいま」
木で出来た安っぽいドアを開け、坑道跡の隙間に作った空ごしらえの家に戻ってきた。
「おかえり」
そこには、いつもの2人がそろっていた。
「今日は、何が盗れたんだい?」
「そうだな…」
ポケットを探り、机の上に並べていった。
「金のネックレス、サファイアの指飾り、ダイヤモンドファイバーで出来たハンカチ。でも、これがよく分からない」
最後に机に出したのは、正八面体をしており、持ってみると、結構冷たかった。そして、重かった。ガラスのような質感であり、水のような滑らかさを持っていた。
「なんだろう、これ?」
「ちょと貸してくれるか?」
「ああ、ほら」
ポ−ンと放り投げた。しかし、それは、あまり飛ばずに、落ちた。
「え?落ちた?」
「そうだな、それほど重いって言う事だよ。さて、これをちょっと持って帰って、ある人に見せてくるよ。大丈夫。ちゃんと持って帰ってくるから」
そう言って、このチームのリーダーの、側沸長見は去っていった。
そして、彼が持っていった翌日、ちゃんと持って帰ってきた。
「お帰り、で、それ、なんだった?」
「クリスタルだって」
「はい?クリスタル?クリスタルって言ったって、山ほど使われているぜ、なにせ、この坑道の目的は、そのクリスタルとやらを取るためだからな」
「いや、このクリスタルは、普通の物じゃないらしい」
「じゃあ、なんなの」
唯一の女子である、神谷橋佳苗が言った。
「重力発電所って、知っているよな。あそこには、発電して、電気をためるための最高純度のクリスタルがある。そのうちのひとつらしい。しかも、このクリスタルは、魔力もためてあるらしい」
「でも、この中に、魔法を使える人なんていないぞ」
「この俺を誰だと思っている?幅広い人脈を備えているのは、何のためだと思う?」
「そのなかに、魔法使いとかいたりするのか?」
「無論だ。そんな人も仲間の中に入れとかないと、不便な時があるからな」
「よし、じゃあみんなでその人の家に行こう」
翔平が言った。
「今から行けるの?」
佳苗が言った。
「ああ、もちろんだとも。俺ならいつでも入れてくれる」
「じゃあ、忘れ物は無いな」
「しゅっぱーつ」
これが、この家を見た最後となろうとは、この時、3人とも想像がつかなかった。
メインストリートに出て、北側に向かって歩き続けた。今は冬。周りは、掃除ロボット以外は何者もいなかった。
「寒い…」
手を息で温めていた。
「ほら、この中に入れよ」
翔平は、佳苗を自分のだぶだぶのコートの中に入れた。もぞもぞとして、襟首の所から顔を出す。
「暖かい…」
「な、これでましだろ?」
「…うん」
そして、二人は仲良く歩いた。突然、長見が止まった。
「わっとと」
もう少しで、佳苗が当たりそうだった。
「着いたぞ。ここが、魔法使いの家だ」
「ここが?単なるアパートに見えるけど…」
確かに、見た目は集合住宅っぽかった。ベルを押し、3秒たってから、またベルを押した。そして、少し待つと、中から青年が出てきた。
「ああ、長見君か。さあ、入って入って」
周りを見回し、扉を閉めた。
「さて、今日は、どのようなご用件でしょうか?」
佳苗は、ずっと、翔平のコートの中に入ったままだった。翔平は、この青年に聞いた。
「あなたは、誰ですか?」
「ああ、言っていませんでしたか。では、イフニ、と言えば、大体察しがつくと…」
「イフニ…イフニ・グランドール大魔法使い!え?あの、全宇宙魔法評議会初代会長で、あの、スタディンの血筋を正統に受け継いでいると言う?本人ですか?」
「ええ。その通り。よく憶えてくれましたね。で、その人に何の用ですか?」
「自分達に、魔法が使えるように指南してください」
そして、長見が、いきさつを簡単に説明した。
「……なるほど、そう言う事ですか。で、このクリスタルの中の魔力を使いたいと」
「はい、そうです」
「…分かりました。では、明日この家に来てください。それと、帰り、気を付けてくださいね」
「はい。分かりました」
「このクリスタルと同じ物を持たせます。何かあれば、これを使いなさい」
そう言って持たせてくれたのは、空中から出した、クリスタルもどきだった。
「では、失礼します」
「ああ、明日な」
扉が閉まり、いつものように路地裏を歩いていると、いつもと違う感覚があった。
「なあ、誰かいるな」
「ああ、右に3人、左に2人、後ろに2人か…」
「え?本当?何にも分からないよ」
佳苗は、泣きそうな顔をしていた。そうすると、ぞろぞろと、言ったのと同じ人数が出てきた。
「さてさて、そんなにたくさん、何のご用なんでしょうかね」
「貴様らが、クリスタルを取った奴らか」
「そうだよ。だとすれば、どうする?」
「ただ取り返すまで!」
瞬間的に刃が光った。しかし、その刃は影によって止められていた。気がつくと、翔平のコートの中にいたはずの佳苗がいなかった。
そして、気づいた時には、剣を盗っており、すばらしい技を披露していた。相手は、次々と、雪振る町の裏路地の床に沈んでいった。
最後の一人を倒した時、佳苗も倒れた。
「佳苗!大丈夫か!」
「来ないで!今は、来ないで…」
その声に反応して、警報が鳴り響いた。
「なんで、戦闘中はならないのに、こんな時になるんだ?」
「それよりも、佳苗を連れて、グランドールさんの家に戻ろう。今、元の家に行ったら、確実に誰か見張っているだろう」
そして、元の道を戻り始めた。後ろを振り返ると、野次馬がいた。翔平のコートの中では、佳苗が小さく震えていた。そんな佳苗を翔平は軽く頭をなで、
「大丈夫、誰も怖いなんて思ってないから。誰も嫌いにならないから」
と、やさしく語り続けていた。
再び戻ってきた時、すぐに扉を開けた。そして、周りを最初の時よりも用心深く確認して、扉を閉めた。