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98.平和の祭典2日目7(エレノア視点)

―――頭が痛い。

額だけがひんやりとして、少しだけ気持ち悪さを和らげてくれている。

ええと、私はどうしたのだっけ―――

身体は気だるくて動かすのが億劫だったが、それでも誰かの声がするのでゆっくりと瞼を上げる。


「……ここは?」

見れば私はどこかの一室でソファに寝かされているようだった。

「目を覚ましましたわ!良かったです」

召使いの女性がほっとしたように胸をなで下ろす。

「――気がついてよかった」

見れば横にカイン様がいる。

「―――!?」

「マティーニを一気にあおって倒れた時は驚いたよ」

「―――!!」

あまりの醜態に一気に顔が赤くなる。

喉の乾きとウィルへの苛立ちで一気に飲み干したグラスには、どうやら度数の高いアルコールが入っていたようだ。まさか倒れてしまうなんて。

「ごめんなさい!!」

カイン様にも大変な迷惑をかけてしまった。早く広間に戻らなければ。慌てて身を起こした私に、カイン様のいかにも楽しそうな、しかし堪えたような笑い声が聞こえた。

カイン様をみると、口を手で抑えて震えていて、一生懸命に笑い声を噛み殺しているように見える。つまり、私の耳に聞こえてきたのは笑い全体のうちの一部、声が抑えきれなかった部分だけだってわけ。

「―――失礼」

しばらくして、ようやく息を整えてからカイン様は言った。

「いいえ、失礼をしたのは私の方です。笑われたって仕方ありません」

先程からの一連の出来事を思い浮かべて肩をがっくりと落としながら私は言った。

「いえ、そういう事ではなく……。……あなたは思ったよりも感情がそのまま行動に出てしまうタイプなんだね。新鮮だった」

「……」

「すみません、第一印象では、もっと落ち着いた方かと」

「……」

返す言葉もない。

恥ずかしくて俯いていると、カイン様は私の頬に片手を添えると言った。

「言い方が悪かったかな。誤解しないで頂きたいが、責めている訳じゃなくて………可愛いな、と思いまして」

「―――!?」

瞬間、思わず視線を上げるとカイン様と視線がばっちりと合った。顔が熱くなる。

「また赤くなりましたね」

カイン様は楽しげに笑うと、そのまま私の向かいのソファに腰掛ける。

「落ち着くまでここで少しおしゃべりでもして行きましょうか」

「!!私はもう大丈夫ですから、カイン様はお戻りになられた方が……」

カイン様だって色々あるだろうに、お忙しい中、ずっとついててくれたんだ。私のためにこれ以上カイン様の時間を費やすのはとても申し訳ない。

「私が居たら迷惑かな?」

「いいえ、迷惑だなんて……!」

一連の出来事で、すっかり恥ずかしい気分になった私は、本当はもう1人で引っ込んでいたかった。けれど、散々迷惑をかけて失礼をした相手を無下にはできない。むしろ迷惑をかけたのはこちらの方だというのに。

ぶんぶんと頭を振る私にカイン様は目を細めると言う。

「なら、私の好きにさせてもらおう。ここに居ても良いかな。あなたと過ごしたいからね」

そう言われて、私には断ることが出来なかった。




暫くカイン様とたわいのない話をしていると、突然部屋のドアが開いた。

「エレン!!倒れたって聞いて!!大丈夫?」

前につんのめりそうになりながらウィルが慌てて、続けてお兄様がゆっくり入ってきた。

「ウィル?お兄様?どうしてここに?」

「倒れたって聞いたよ。体調は大丈夫か?」

「大丈夫よ。間違ってお酒を飲んでしまったの」

ウィルは私の姿を確認した後、安堵の表情を浮かべると柔らかに笑った。

今、ウィルの事なんて考えたくないのに、そんな顔はずるいと思う。

「…倒れた人がいる部屋に、その入り方は少し騒々しくないかい?」

カイン様がウィルに呆れ顔でそう言った。

「すみません。慌てていて。エレン、心配したよ。会場に戻れそう?一緒に行こうか?」

ウィルが私に向かって手を差し伸べる。

「まだ完全に回復した訳ではないし、もう今日はこのまま退室した方が良いだろう。私が責任を持ってエレノア様をお部屋までお連れします。ギルバート様とウィリアム様は先に会場に戻っていて大丈夫です」

カイン様がお兄様に向けて穏やかに言った。

「エレンそうなの?」

ウィルの問いかけに頷く。

「ごめんなさい。今日はもう広間には戻らない方が良いと思うわ」

頭痛もそうだけれど、あんな醜態をさらしてそのまま戻るのは憂鬱だった。

ウィルの差し出した手が遠のく。

「カイン様、申し訳ないが妹を頼みます」

お兄様が言った。

「お気になさらず。美しい王女のエスコートができるのは役得ですね」

「ではウィル、私達は戻るぞ」

一足先にドアに向かうお兄様に促されて、ウィルが後ろ髪引かれそうな表情でこちらを振り返りながら言った。

「早く具合が良くなるといいね」

その表情から心配していることが窺い知れて。

私はやっぱり少し嬉しくなってしまったのだった。

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