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90.平和の祭典舞踏会初日 閑話

カトリーヌから解放された僕は、よろよろと喫茶室に向かった。

エレンの先程の態度が気になったけれど、当のエレンはすでに別の相手とダンスを踊り始めており、あの様子では暫く解放されないだろう。それに、何となくエレンが踊る姿を見ていたくない。


広間の隣の喫茶室はソファや椅子が何組も置かれ、舞踏会で意気投合した男女の語らいの場となっている。

テラスもあるが、テーブルを置けるほどの広さはなく、冬ということもあり皆もっぱら室内で寛いでいる。


「あれ……?ディーノ?」

喫茶室から見える窓の向こうに見えた見知った人影に、僕は思わず声をかけた。

ディーノはテラスに出て月明かりを浴びていた。今の時期、外はかなり寒い。

「ディーノ、何してるの?寒いし中に入りなよ」

ディーノは僕に促されるまま室内に戻ると1人がけのソファに座り込んだ。寒さで色白の肌が一層透き通って見える。僕はローテーブルを挟んだ向かいのソファに腰掛けるとディーノに話しかけた。

「ディーノが舞踏会の広間に居ないなんて意外だよ」

全くもって野心家のディーノらしくない。いつもなら、人脈を繋げるために精力的に動き回っていそうなのに。

「……少し感傷に浸っていただけだ。すぐに戻るさ」

「ライラを思い出してたとか?」

僕の言葉に顔でも赤くするかと思ったが、意外や意外、ディーノはバツの悪そうな顔で言った。

「ここに来て何名かの女性の相手をしたが、ライラほどの人物は1人もいなかった。貴族と一般市民の違いとは何だろう」

「それは……どうなんだろう。ご先祖さまがうまく立ち回ったかどうか?この世界は本人の力ではどうしようもない、生まれってので多くが決まりすぎるって思うよ。個人としては貴族と一般市民に違いはないと、僕は思ってるけど」

「そう、個人としての資質に違いはない。その資質を磨く環境には差があるだろうがな。しかし、いくら能力があろうが一般市民には僕らのような権利はない訳だ。……立場が上の人間には、それに見合った働きをしてほしい。それだけの影響力がある訳なのだから」

それきり、ディーノは黙りこくってしまった。何かしら思うことがあるのかな?

愚かな統治者の下の領民ほど不幸なものはない。

これから先、国を支える同胞として長い付き合いになるだろうディーノの考えが知れて良かった。

しかし、ディーノがあまりにも思いつめている様子だったので、気分転換にと別の話題を提供してみることにした。


「ディーノは張り詰めすぎなんだよ。……でさ、この間渡したフワフワの犬耳アクセサリー、癒しと心の浄化のためにライラにつけて貰ったら?」

我ながら他に話はないのか……と思ったけど、ディーノと話す時はいつも仕事の話になってしまうので、他に共通の話題が思いつかなかったのだ。

ライラが前に同じシリーズ(?)の猫耳カチューシャをつけていたけど似合ってたよ、と言葉を続ける前に、ディーノの冷たい視線と反論が被さってきた。

「バカか。そんな事を考えるだけで不謹慎だろう」

そうかなあ。ライラだったらノリノリで付けてくれそうではあるけど。

「じゃあさ、ライラの前でディーノが付けてみたら?ディーノも似合いそう」

ちょっとした冗談のつもりで適当な事を言ったら、見る間にディーノの顔が赤くなる。

「なっ……何言ってんだよ!??そんな事するはずないだろう!!」

身振りまで大振りになり、明らかに動揺しているのがわかる。

「ちょっ……、冗談なのにそんなに反応することないじゃない」

ディーノの動揺が伝染し、僕まで慌ててしまった。

「お前がおかしな事を言うからだ!この変態!!」

「変態という方が変態だと思うけど」

こんなに狼狽えるなんて、ディーノは何を想像したのだろう。まさか1度くらいは自分でつけてみた事があるとか?思わず僕まで、犬耳カチューシャと首輪をつけたディーノがお座りしてライラの帰りを待っている光景を想像してしまった。これじゃまるでディーノはライラの下僕だ。

「……あれ?下僕?」

そういえば、ライラは以前ディーノの事を下僕だと言っていた。本当に下僕?こうなるともう駄目だ。

犬耳カチューシャをつけたディーノがライラに苛められる想像が止まらない。

こんな事を考えてしまうなんて……。

「あれ?変態は僕?」

混乱し始めた僕の呟きを聞いてディーノが心底軽蔑した眼差しを僕に向ける。

「……付き合ってられない。僕は戻る」

そう言い残すと、さっさと立ち上がって舞踏会の開かれている広間に戻っていった。無駄のない、目的を持った人間の足早な動き。

さっきまでのどことなく危うげなディーノよりも、こっちのディーノの方がよほどディーノらしい。


「……僕も元気を出さなきゃな」

僕は誰も居なくなった向かいのソファに向かってひとりごちた。

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