80.贈り物
「もうすぐギルバート様とエレノア様の誕生日だ。王宮内でお会いする際は学園とは違うのだから粗相がないようにな」
「わかってるよ」
父に言われ、少し身を引き締める。
「しかし、ギルが成人するというのに、あまり盛大な式はやらないんだね」
「何を言う。当日は他の重臣も立ち並ぶ中、皆にご挨拶を賜るのだからそんな事を言っていないで身を引き締めておけ」
「でも僕の誕生日の時には晩餐会まで開いたのに?」
「それはお前の誕生日が社交シーズン中でちょうど良かったというのもあるし、我が家の方針というところでもある。とにかく……」
父がくどくどとご高説を垂れ始めたので、話半分に聞いておく。
実際、ギルとエレンの誕生日は、午前10時に王宮のバルコニーから一般市民に向けて挨拶をした後に主要な王立議会メンバーと会食をするのみ。大多数の貴族は今の時期はそれぞれの領地に戻っているし、わざわざ呼び立てする程の事でもないという事だ。逆に、この時期に王都に残っているのは王立議会のメンバーなど国の政に通年関わっている超VIPばかりであるから、その辺と挨拶さえすれば、実務上は全く問題がない。国王陛下もご健在の中、ギルが成人したからといってすぐに王位の移譲が行われる訳でもない。
ギルが成人したことにより、仮にギルが王位についた場合、今までは限定的だった王の権限の限定措置が解除される。具体的には、後見と呼ばれる王の補佐をする立場の者を置かずに政に参加可能だ。その辺りの王位継承に関しての変更については、書類の署名などの事務手続きをもって終わる。
エレンに関してはそういうこともないだろうから、前世で言うところの“20歳の誕生日”くらいのイメージかもしれない。
前世では20歳になれば晴れ着で成人したことをお祝いした。
「せっかくだから、何か心に残るようなことをしてあげたいけど」
大掛かりなことは出来ないけれど、何かちょっとしたものでも、心に残る贈り物はないだろうか、僕は暫く悩んでみることにした。
***
「ウィルって、ピアノ弾ける?」
学園でライラに話しかけられる。
「何だよ?暫く弾いてないから弾けるかな……」
「前やってたなら弾けるわよ。良かった!」
何だ何だ……何だっていうんだ?
「もうすぐギルとエレノア様の誕生日でしょ!ルイがしばらく王都に滞在するから、ひとつ考えがあるのだけど……」
ごにょごにょごにょと、ライラに計画を耳打ちされる。
「……素晴らしい!!まさかライラがそんな事を考えるだなんて!雨でも降るんじゃないの?」
「そう?何か言い方が失礼じゃない?私だってこの間の件でギルに恩を感じてるし、友達として当然でしょう」
「ギルのことは攻略しないって言っていたから、ライラがギルに贈り物をするとは思わなくて」
「プレゼントなんてしないわよ。だってもう攻略しないのに、好感度アイテムあげたって仕方ないし……」
「その折には万年筆をどうもありがとう。少しは心がこもっているかと思ったが、勘違いだったようだね」
「ギルとエレノア様の空いてる日時が知りたいわ。誕生日前後3日くらいで……」
「当日も午後だったら大丈夫だと思うよ。2時間くらいなら約束できると思う。ただし場所は王宮になっちゃうけど」
「えー!私たち入れないじゃない!」
「僕にまかせて!ルイは当日大丈夫かな?あと、ルイにピアノパートは簡単にしといてって言っておいて!」
「昼なら何もないはず。あと、練習の日取りも相談しましょ」
こうして、ライラ主導でギルとエレンの誕生日サプライズ計画が粛々と進められることになったのだった。




