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8.疑惑

運動場の一角から野太い男共の声援が聞こえる。人智を超えた身体能力というものは、女性よりも男性を惹き付けるものらしい。声援の中心にいるのは、ルーク・バレンヴォイム。

「やあルーク。相変わらず運動場(フィールド)は君の独壇場だね。」

「ギルにウィル!ウィルは倒れたってきいたけど、元気そうだな!」

見事にみぞおちにルークからの平手打ちが決まる。この雑な扱い。心配してくれるギルやエレンとは大違いだ。エレンの手刀がとても可愛く思える。

「・・・今ので再び倒れそうだよ。」

「ルーク、ウィルは病み上がりなんだ。お手柔らかにしてくれないか。」

お手柔らかでもなんでも、みぞおちに平手打ちはごめんだ。

「ところでルークはこれからテニス?」

「ああ、そうだが。」

「ふうん、お手並み拝見といこうかな。」

「ウィル、珍しいな。私もちょうど休憩したいと思っていたところだ。同行しよう。」


ルークが指導教官とテニスのラリーをはじめる。前世のゲームでは、このラリーの途中で教官がとりこぼしたルークの球がライラを直撃する。ライラの運動系のパラメーターが十分に高ければ回避できるし、低いと身体に当たってしまう。その後、セリフの選択肢が表示され、どれを選ぶかで好感度がかわる。

ライラはどうでるのか見てみようじゃないか。興味深くラリーを見守っていると、コートの向こう側に複数の女生徒と一緒に歩くライラが見えた。


さあ、そろそろだ。教官はルークの球に翻弄されコーナーからコーナーに走らされ、左サイド奥ががら空きになった。当然、ルークがそこを狙いショットを打つ。教官は届かない。その先にはライラが。

ライラはルークの放った球に向き合うと、

その球をーーー


打ち返した。


いつの間にか手に持っていたラケットでライラが打ち返した球は鋭く、ストロークコースもルークの闘争心を煽るのに申し分ない位置だった。本能でルークがライラの球を打ち返す。こうして、前代未聞のラリーが始まった。

いつの間にかテニスコートの周りはギャラリーで賑わった。

「あのライラって娘、ルーク様相手に凄え!」

「その辺の男じゃ太刀打ちできないんじゃないの。」

「女性のくせにはしたないわ。ルーク様、さっさとその娘を打ち負かして!!」

ルークとライラが互いのストロークを打ち返す度にギャラリーから歓声があがる。その様子を、隣にいるギルはあっけに取られて見ている。かくいう僕も頭の中が大混乱だ。


だって、そうだろう?ありえるだろうか。現実に打ち返すという選択肢が。テニスラケットなんて、偶然手に持っているような品物ではない。テニスの球を打つという目的以外には用途はない道具だし、ライラは女性だから運動能力測定でテニスの競技は行わない。

確かに前世のゲームの記憶ではこの選択肢は存在した。しかし、それはルークルートを1度攻略し、かつ一周目のどこかでルークと一緒に学食で筋肉スタミナ丼を食べるイベントをこなしていることが条件だ。二周目で出現するラケットで打ち返す選択肢は、実際にはあり得ない、ゲーム上での不条理ギャグだと思っていた。


そうこうしているうちに、ルークの球を打ち返したライラの靴紐がほどけた。我に返ったルークはライラの最後の球を打ち返さずに手で受けとめると、センターラインのネットを軽々と越えてコートの反対側にいるライラの元へ向かう。ギルもライラのところへ向かおうとしていたようだが、出遅れだ。なにせ、直線距離で向かうルークの方がだいぶ早い。

「君・・・女の子なのに凄いね。ナイスショットだった。思わず打ち返してしまったよ。俺はルーク。君の名前は?」

言いながら跪き、ライラの靴紐を結ぶルーク。

「ライラです。」

慌てて靴紐を結ぶルークを止めようとするライラ。

ああ、これ、ゲームのメニュー画面からいける「思い出」に追加されるスチル絵そのものだ。タイトルは「強敵(とも)」。

ライラの抵抗虚しく、靴紐をきちっと結んだルークが立ち上がる。

「ライラ、ナイスファイトだ。よければ、いずれまたやろう。今度は決着がつくまで。」

教官が慌てて笛を鳴らし、ギャラリーに解散を命じる。運動場は次第に秩序を取り戻していった。


しかし、僕は混乱の中に取り残されている。

あのライラは一体・・・。この世界のライラはどんな人物なのだろう。

先程まで、ギルバート×ライラ萌えなどと思っていたが、本当にそれで良いのだろうか。あの得体のしれないライラに大切な友人が絡め取られてゆくのを見守るだけで良いのだろうか。ライラについて、調べなくては。前世の僕の記憶はその助けになるだろうし、僕にしかできない役割だ。代々王を助けてきたヴォルフ家の名に恥じぬよう、そして何より大切な友人を守るために。言い知れね不安を胸に僕は決意を固めた。

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