79.女性の褒め方
「ん?ライラ、髪型変えたか?」
「おはよう、アルベルト。髪型は別に変えてないけど……」
「毛先に緩いウェーブがかかってるが?いつもより大人っぽいな」
「そう?ただの寝癖じゃない?今日はあまり整える時間がなかったの」
「いや、可愛いよ」
ライラとアルベルトが朝の挨拶をしている所に僕は偶然通りがかった。
一部始終を間近で目撃し、呆気に取られていると、アルベルトが僕に声をかける。
「ウィリアム様!後で時間を取れますか?例のアクセサリーの件で話したいのですが」
ランチ前ならいいよ、と僕が答えると、アルベルトは頷いてそのまま行ってしまった。
アルベルトの背中を見送り、僕はライラに詰め寄る。
「ちょっとちょっと!アルベルトって朝の挨拶の時、いつもあんななの?」
この間のコンサートで、アルベルトがライラに惚れているのは心底分かった。ライラはどうなのだろう。恋人ではなさそうだと勝手に思い込んでいたけど……。僕はギルの味方だけれど、ライラの方でもアルベルトが好きというのなら、諸々考え直さなければならない。
「いつもあんなよ。どっかおかしかった?」
「おかしいというか……。『可愛い』とか、朝から褒めているのが気になって!ライラはそこら辺どう思ってるの!?」
僕はライラを問い詰める。
「どうって……。別に普通じゃない?昨日はピアスが揺れてて素敵だって言っていたわね。何かしらどこか褒めていくから、あまり参考にならない意見だと思って聞き流しているわ」
「ええっ!?」
「アルベルトって、お姉さん2人に妹が2人いるでしょ。女をおだてるのが上手いのよ」
ゲームでだってそうだったじゃない、と言われて、僕は傍とする。
「そういえば、話しかける度に『今日は何が欲しいんだ、可愛いレディ』って言われてたっけ……」
「懐かしい!久しぶりにそのセリフ聞いたわ!今度言ってもらおう!」
それから暫く、僕とライラはゲームの話題で盛り上がった。そこでわかったが、どうやらライラの方ではアルベルトについて全く何も考えてないようだ。
ギルに口説かれてるのにあんまり響いてないのは、ライラのBL好きやギルの行動が乙女ゲームの既定路線上にある事の他、アルベルトに色々言われ慣れている事にも一因がありそうだ。結構根深いな。
***
「ギル、ギルはライラのちょっとした変化に気づく?」
「え?」
僕はアルベルトとライラの朝の挨拶の衝撃を胸に、ギルの元に駆け込んだ。
「例えば髪を切ったとか、アクセサリーを変えたとか……」
「大きな変化なら気づくと思うが……そう言われれば、細かいアクセサリーまではそう注意は払ってないかもしれないな」
「ダメだよ!そんなんじゃ」
アルベルトは気づいて毎回褒めてるよ……とまでは言わずに言葉を飲み込む。
「女性は手間をかけてオシャレをしているのだから、僕達男性が気づいて褒めてあげなきゃ」
ふむ、とギルは首を傾けて言った。
「ライラはそういう事は求めてないと思うが」
「そんな事ない!女の子はそういうの、嬉しいと思うよ」
「お前は何でそんなに必死なんだ」
ギルが不審な表情をする。
「悪いこと言わないから」
「ウィル、……しつこい」
僕は説得に失敗した……。
***
ギルバートは朝にウィリアムから言われた言葉を思い出していた。
ライラの些細な変化に気づいて褒める、か……。
目の前にいるライラをじっと見て考え込む。
「ギル?どうしたの?私の顔に何かついてる?」
ライラの問いには答えず、かと言ってライラから視線を外す訳でもない。
……。あのネックレスは前からつけていたか……?あまり印象はないが、以前からつけていた可能性の方が高いか。そうであれば褒めても今更だろう。「前から思っていたが……」と枕詞をつけるにしても、本当に以前からつけていたのか確証がない。
…………。
以外と難しい、な。
「ギル……?」
ギルバートの目の前のライラは、不思議そうに青い瞳を大きく見開いてギルバートを見た。光を透かすプラチナブロンドの髪はライラの人形のような顔立ちによく映えている。
……可愛い。
色々逡巡したものの、結局ギルバートはそのまま何も言わずにその場を立ち去ることにした。
「……何だったのかしら?一体?」
ギルはたまによくわからない、そう思うライラだった。




