76.ウィリアムの恋愛(?)相談室
「ルークの親密度が下がってるの」
ライラが僕に顔を寄せて相談してくる。
最近、ライラはキャラ攻略の相談をアルベルトではなく、転生者の僕にしてくるようになった。
正直、勝手にしてくれと思う。
「クッキーなんかに頼るからだ。良くないよ」
「クッキーあげたいのだけど、アルベルトが売ってくれないの。なんだかこの間の一件以来、ルークのこと気に入っちゃったみたいで。やめとけって言われた。すぐ情が移っちゃうんだから」
アルベルト、なんて良い奴なんだ。それに比べてライラというやつは。
ルークは前に毒物耐性がついたと言っていた。今更クッキーあげても効かないとは思いつつ、腹が立つからライラには教えてやらない。
「正々堂々と行くしかないんじゃない?」
「……わたし、運動はあまり好きじゃないのよ。パラメーター上げるだけで精一杯。ルークの相手なんて無理」
「出会いイベントでのテニス凄かったじゃん」
「あんなの、一時的にドーピングして対処したに決まってるでしょ!」
堂々と言い放ったライラだった。
この娘、ディーノに迷いなく薬を盛ったと思っていたが、自分にも躊躇いなく薬物投与していたとは……。
「無理よ、無理無理……」と頭を振るライラ。
そのうち、何事かを思いついたように手を叩いて顔を上げるライラ。
「そうだ!ルークとアルベルトと私と4人でテニスのダブルスしない?それなら何とかなりそう!」
ライラが提案してきた。僕やアルベルトと一緒にやって何とかしようとしているらしい。
「……攻略お助けアイテムに頼ろうとしたり、他人に頼ろうとしたり……。ライラ、君の根性を叩き直してやる。今すぐテニスラケットを持ってくるんだ」
「えっ」
「乙女ゲーム攻略の極意を教えてやる」
こうして僕は、ライラにテニスの特訓をつけることにした。
***
「まだまだだ、ライラ!そんなんでルークと渡り合えると思っているのか?!」
「……ステテコパンダ先生……!もう、限界です……!!」
「ウィリアム様、そこまでしなくても……」
心配して止めに入るアルベルトを制す。
「甘い!!クッキー売りたくないんだろ?甘やかすだけじゃダメだ!時には厳しくすることも愛だ!!」
目の据わった僕に、アルベルトとライラが大人しく従うこと三週間。
「……何とか、形にはなったようだな」
「ステテコパンダ先生……!!」
この三週間でライラは逞しく成長した。これならルークの前に出しても恥ずかしくないだろう。
「さあ、ライラ。行くんだ。正々堂々と、ルークに対決を申し込んで来い!」
「はい、ステテコパンダ先生……!」
こうしてライラはテニスの決闘をルークに申し込んだ。
「……ライラ、申し訳ないが、今はテニスをする気分になれない」
珍しく神妙に答えるルークに、僕とライラは心配になる。
「どうした、ルーク!?お腹壊したとか?」
「悩み事があるなら聞くわよ?」
「ライラ、ありがとう。少し前から考えていたんだが……。今はテニスではなく武道に専念したいんだ。この間会った、ローザ・ラビエールという女。筋力の少ない女に引けを取るなんて、俺はまだまだだ。世界には豪の者がいることを知った。ようやく大会も終わった今、やはり、俺はこの身を磨かねばならない」
「えっと……ルーク?」
ルークは何を言っているんだろう。
「磨くって……どうするのよ」
さすがのライラもあっけに取られている。
「しばらく山に篭って修行するつもりだ。2ヶ月後、隣国で武道会が開かれると聞いた。そこで己の力を試してみるつもりだ」
「山に篭るって……ルーク、学校は?」
「……アディオス」
こうして、ルークは旅立ってしまった。
僕達を残して。




