75.ライラとアルベルト(アルベルト視点)
ベンチの上でライラが上半身を仰け反って空を眺めている。
「だらけ過ぎだ。誰かに見られたらどうする」
「アルベルトはそう言うけど、最近張り合いがないの」
そう言いつつもライラは姿勢を正した。
「思った以上に楽勝だわ。推薦状、もう3つも手に入ったもの。残りはルークと、来年度高等部にやってくる後輩枠のヨシュアだけ。ルークは現状維持すれば良いだけだろうし、来年度までやることがないわ」
「そんな事言ってると足元すくわれるぞ。だいたい、現状維持って言ったって、ちゃんとやるのは大変だ。ルークの様子とかちゃんと見に行ってるのか?」
「……」
思えば、ライラから推薦状を手に入れる方法について聞いた時は、大反対だった。一国の王子も含めて5人全員手玉に取るだって?それぞれの人の心理的な傾向と、どう受け答えすれば良いかの模範解答は全て頭の中に入っているから大丈夫と言われたが、そういう問題じゃないだろう。
ウィリアムが予想と違う動きをするので一時期ライラは相当気を揉んでいたが、ゲームと違う展開が幸をそうしたのか、現状は俺が心配していたようにはならなかった。
推薦状が3つ揃うという事は、ライラの魅力(?)に骨抜きにされた男が3人誕生する事だと思っていたのだが……。国王から直々に推薦状を貰ったことでギルバート王子は攻略対象から外れ、ディーノの推薦状は事件のどさくさに紛れて取り引きをする事で手に入れた。ウィリアムに関しては、前世の仲間ということが判明し、洗いざらいを話すことで信用を得たらしい。とりあえず、色恋はあまり関係なく推薦状が集まったことに俺は安堵している。
最近は、ウィリアムの所にばかり通ってるライラ。前世仲間というものがどういう感じなのか最初は俺にはわからず心配したが、現時点でウィリアムの方にライラをどうこうする気はなさそうだ。
……というよりも、ライラはウィリアムにとっては少々煙たい存在かもしれない……。ウィリアムの前世に思いを馳せるとそう思わざるを得ない。
それにしても、ウィリアムのこの間の落ち込み様は凄かった。正直、良いものを見たという思いも若干あるものの、可哀想で同情した。
BL……。初めてライラからその存在を聞いた時には、衝撃と嫌悪を感じた。しかし、ライラから聞かされ続けるうちに、耳に慣れてしまったのか、冗談としてなら受け入れられるようにはなっていた。現実離れした話の設定に展開、冗談とも本気ともとれない甘いセリフの応酬に、書いてるやつはど変態だと思っていたが、まさかそれがウィリアムだとは。
前世で1番好きだったカップリングがウィリアム×ギルバートだと常々言っていたライラ。ウィリアムの前世が、自分と同郷であったばかりでなく、一番好きなカップリングの本の作者だったと知ったライラの喜びようといったらなかった。俺はというと、ウィリアムの精神は大丈夫なのかと心配になった。ライラから、ウィリアムは前世は女性だった、現世ではBLを再現するつもりがない、と聞いていささか落ち着いた(ウィリアムにその気がない事をライラはさも残念そうに言っていたが、何かのきっかけに前世の気持ちを思い出して覚醒するかもしれないと息巻いていた。恐ろしいことだ。)。
しかし、BL本を書いていた女が、その記憶を持ったまま攻め……役の男に生まれ変わるとは、どんな気分なのだろう。自分が彼だったら恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。どう表現して良いのかわからない。
ウィリアムにどこまで知っているのか尋ねられたあの時、勤めて感情を表に出さない様に気をつけたのだが、あの様子を見るに俺の対応は失敗したのだろう。帰りがけは目すら合わなかった。
まあ……、どう返事をしても無理だったかもしれないが。
「ステテコパンダ様、またマンガ描いてくれないかなあ。私の癒し」
「いや、絶対書かないだろ」
「ステテコパンダ様も言ってた。描かないって。どうしてかしら」
「無茶言うなよ」
「一生のお願い使っちゃったしなぁ」
「お前、また一生のお願いしたのか?」
それにしても、イラスト自体は色合いといい本当に綺麗だった。彼のアイデアは変わっているが、凄いのは実証済。文化祭で売り出した動物の耳のついたふわふわのアクセサリーも飛ぶように売れていた。反応が上々だったので、今度は貴族様相手に本格的に売り出すつもりだ。他にも何か考えている様だし、悪いやつでも無いので仲良くしていたい。
「よしっ!今度はアルベルトを描いて貰おう!アルベルトの絵なら、嫌って言わない気がする!」
「俺の絵なんて貰ってどうするんだ」
「ステテコパンダ様のイラストがいっぱい欲しい。集めたいの。私は一生のお願い使っちゃったから、アルベルト、ウィルに一生のお願いして。さあ、いきましょう!」
「そんな事を一生のお願いにしたくない!上目遣いにおねだりしたって駄目だ。絶対だめだ!」
それから、僅か15分後―――
俺はライラに連れられ、ウィリアムの前に立たされるのであった。




