70.文化祭2
5回目更新です。
エレンを取り囲む男達の人壁の中心に向かって無理矢理割り込んで行く。
「エレンちょっといいかな?」
「!ウィル何の用?」
まだ僕と話す事は気まずいのか下を向きながらエレンが応えた。
「後夜祭の事で話があるんだ」
と僕が切り出すと、周りの男達が一斉に騒ぎ始めた。
「ちょっと待って下さい。エレノア様には私達が今、後夜祭のパートナーを申し込んでいたのです」
「そうですよ。今、順番に申し込んでるんです。邪魔しないで下さい」
「いくらウィリアム様でも、今更、割り込みするのは許せません」
それぞれ、身を前に乗り出して僕に対して臨戦態勢だ。
僕は先に申し込みしていた人達に形だけの礼をとり、エレンとそのまま話す。
「エレン。もし、許して貰えるなら僕にエレンと一緒にいる権利をくれない?何より僕がエレンといたいんだ」
文化祭準備中は殆ど会ってないし、話せていない。あれだけ毎日一緒にいて、ケンカなんてしなければ、僕とエレンは自然と後夜祭でパートナーになっていたはずた。仲直りしたはずなのに、距離が戻らないのは、淋しくて我慢ができない。
エレンが僕にだけ聞こえるくらいの声で
「私、ウィルと後夜祭出たい」
と言ってくれたので、僕の心は決まった。
エレンを横抱きにして、その場から走って逃げた。
「あ、逃げた」
と言う言葉を皮切りに、後夜祭の申し込みをしに来ていた人、これからしにこようと思ってこちらに向かって来ていた人、凄い人数が僕(僕が抱えてるエレン)を目掛けて追ってくる。
「ウィリアム様、エレノア様をどこに連れて行くのですか?待って下さいー」
「待てー」
僕は校舎の端から端まで、たまに植え込みに隠れながらとにかく走った。途中、腕相撲大会でルークが50人抜きしている現場に遭遇したり、ディーノのウィリアム仕事はまだ有るぞと言う声が聞こえたりした。エレンはその間僕の肩口に顔を埋めて、黙ったままだった。
そうこうしている内に辺りは暗くなり、後夜祭が多分始まった様だ。多分なのは走っている時に会場が暗くなったのが遠目で見えたからである。
僕達はダンスホールのあるコロニアル様式の建物の2階のテラスの端に行き着いていた。適当なガーデンチェアに腰をかける。エレンを抱きしめたままだから、椅子に降ろそうとしたが、エレンが動かない。
ま、いいか。そのまま僕は話す事にした。
「はぁー疲れたー。エレン大丈夫?」
「……ウィル、このまま聞いて……私ね、にゃんデーの事、ウィルに1番褒めてもらいたかったみたいなの。で、ウィルがバカだから意地になっちゃった。後夜祭のパートナーも本当はウィルと出たかったんだけど……。ほら、私達気まずかったじゃない?中々言い出せなくて」
そうか、だから後夜祭のパートナーの誘いを断ってくれていたのか…。学園に入って初めての文化祭と後夜祭。僕もエレンと出たいと思った。幼馴染という関係に胡座をかいて、エレンと子供のような喧嘩した僕が悪い。
「僕がバカなのは認める。本当にごめん。…結局、後夜祭出れなかったね」
遠くで後夜祭の灯りが揺れているのが見える。
「一緒に居られるからいい。ケンカはもう嫌だわ」
エレンの顔が見たいので、隣に座ってもらう。エレンは照れているようだった。
「涙目、安心した?」
「うるさい」
僕はエレンの頬を拭った。
その時庭園の方から花火が上がった。文化祭の最後と言えば、コレだよね。
「わぁ、綺麗。学園祭ってこんな事もするのね」
「今年はやって貰う事にしたんだ」
「これ、ウィルが手配したの?」
「エレンと仲直りしたくて頑張ったんだ。一応、僕の誠意を込めたプレゼントです。でも、プレゼントと言っても花火は王室の方々の誕生日とか特別な時にしかあげないから、学園祭で許可を貰うのが大変だったんだ。今年はギルもエレンもいるから良いじゃんって、説得材料にさせて貰ったおかげで実現したから、プレゼントとしては微妙…だけど」
どうにも締まらないけれど、精一杯の謝罪を込めて、エレンを見る。エレンの瞳に咲いた花火が見えた。
「ありがとう。素敵だわ」
僕達はテラスでそのまま寄り添って花火を観ていた。そのうちコテンとエレンが寝てしまったようで、僕に寄りかかってすやすや眠るエレンの頬を触る。
とても綺麗で、可愛い、人望も厚いエレン。幼馴染としてはとっても誇らしい。
そろそろ帰らないとダメだな。
花火も終わり立ち上がろうとしたけれど、ぎゅっと服の裾を掴まれて、動けなかった。
……まあ、いいか。そのうちギルとかルークとか、僕達を探しに来てくれるだろう。
僕はそのまま暫く遠くに見える後夜祭の明かりを眺めていた。




