69.文化祭
4回目更新です。
文化祭当日。にゃんデー出店の準備をしているエレンに挨拶をする。
「エレン久しぶり!にゃんデー上手く出来たね!」
「ウィルも息災で何より。今日は正々堂々と戦いましょう」
「戦うって、エレン……」
エレンの目がちょっとも笑って無かった。
ううっ。でもめげない。僕はエレンに伝えないといけない事がある。
「それで、相談なんだけど」
エレンはクラブのメンバー全員でにゃんデーをせっせと作っていたのに対し、僕は1人。しかも生徒会の仕事の合間をぬって作るので、結局5体しか用意できなかったことを話した。
エレンとメンバーと協議の上、勝負は最初に5体売れた方が勝ちということになった。
同じ机に僕のにゃんデーとエレン達のにゃんデーを置き、店頭に立つ。
「いらっしゃいませ〜」
エレンのクラブのメンバー達は、華やかな所作の人が多い。笑顔で店の前に立っているだけで、次々とお客が吸い込まれるようにやってくる。
僕のにゃんデーもエレン達のにゃんデーも、分け隔てなくお客の目に止まっているというのに、僕のにゃんデーが一体も売れないうちから早くもエレン達の物が4体売れた。悲しいが、僕のが人気がないのは明らかのように思えた。きっと、少し前衛的過ぎたのだ。こちらの世界で売り出すには、僕のにゃんデーは早すぎたのかも知れない。前世では一周回ってちょいキモキャラが流行っていたけれど、まさか、僕のにゃんデーはそれと同じ分類になるのか?
僕の目の前に小さな女の子が1人立った。
「わぁ、かわいい〜」
「いらっしゃい。良かったら見ていってね」
「ふわふわだね!これお兄ちゃん達が作ったの?」
「そうだよ。こっちがお兄ちゃんで、あっちがお姉ちゃん達が作ったんだ」
「どっちもかわいい〜」
「ありがとう」
その子の親がその子の後ろから買うならどっちかにしなさい、と女の子に言い聞かせている。
女の子は悩んだ挙句、エレン達のぬいぐるみを買うことに決めたようだ。
惨敗。潔く負けを認めよう。
僕はその女の子が購入したぬいぐるみを包みながら、僕のにゃんデーも包んであげた。
「これもあげるね!」
「すいません。いいんですか?」
母親が慌てて聞いてきた。
「いいんです。気に入って貰えてとっても嬉しかったから」
にこりと笑うと女の子も嬉しそうに笑う。
「ありがとう。お兄ちゃん。大切にするね」
バイバイと手を振る。ふと後ろを振り返ると、僕とその女の子を微笑みながら見つめるエレンが見えた。目があったと思ったら、慌てて視線を逸らすエレン。あからさま過ぎてちょっと可愛い……とか思ってしまう。
女の子を見送った後、僕の前に人影が立った。
「ウィル、負けちゃった?」
「残念だけど、仕方ない。……あ!ギル、ライラいらっしゃい!2人揃ってどうしたの?」
「今日の文化祭が終わった後の後夜祭でライラにパートナーになってもらった。まだ時間があるから一緒に回っているんだ」
ああ、完全に忘れていたが「ときプリ」では文化祭でステータスの上がり具合で選ばれたキャラと夜景を見ながら食事をするイベントがあった。
ギル、ライラを誘えたんだ良かったな。
僕はパートナーをまだ誘っていない。有り難い事にパートナーの申し出は多々あったのだが目の前の準備、にゃんデー作りに終われて、じっくり考えられず全て断っていた。
「やっぱり、全然売れてない。時代にあってないのかしら?私は割と好きだけどね。他にない感じが。……でも売れるのはエレノア様のだというのもわかる」
ライラが僕のにゃんデーを見てしみじみと言った。
「身に染みてわかったから、言わないで」
「私が買ってあげるね。触り心地は抜群だもの」
「身内票かー。もう勝負は決まってるけど、嬉しいよ。ありがと、ライラ」
「なら、私にプレゼントさせてくれ。ウィルにも貢献出来るし」
「よし、じゃあギル買ってくれ!」
「えっ、いいよギル。自分で買う」
「ライラ、男性は女性にはプレゼントしたいものなんだよ。ギルがこう言ってるんだから、もらってあげて。僕も嬉しいし」
ギルとライラの仲良くなるキッカケになれば良いなと思う。後夜祭もギル頑張れ!
ふと、視線を感じエレンを見るとさっきまで微笑んでた顔に緊張が走ったのが見えた。三人娘が僕の背後に立つ。
「勝負ありましたね!」アリアナが言う。
「やはり、エレノア様のにゃんデーが可愛いかったと言うことです」ミーシェ。
「と、言う事でエレノア様のぬいぐるみを認めて仲直りして下さい〜」とマリア。
3人に押し出されるようにしてエレンの前に押し出される。
「エレンごめん。エレンの方が万人受けした。可愛いかった」
「……わかればいいのよ」
何だか、勝ったというのにエレンの顔が晴れない。謝って許してもらったというのに、この残ったわだかまり感はなんだろう。そのままエレンは視線を下に戻すと、僕達の間に沈黙が流れる。
「すみません、このぬいぐるみ貰えますか?」
「あ、はい。ただ今うかがいます」
お客に呼ばれて、僕達は慌てて売り子に戻る。
そうして、ついにエレン達が用意したにゃんデーは全て完売した。結構な数だったと思うのに、すごい。僕のにゃんデーは1体残ってしまったが、あとでディーノにでもあげることにしよう。
売り物が無くなって店をたたむ準備をしているエレンの周りには、次第に男の人集りが出来ていた。
何で?と訝しむ僕にアリアナが教えてくれた。
「エレノア様がウィリアム様と一緒にいる時の様子が何か違うぞ?まさか、仲たがい?って言うのが話題になっていまして、もう、ここ最近ずっと後夜祭のパートナーに色んな人に誘われていますのよ。何時もだったら、エレノア様の側にはウィリアム様とギルバート様がいらっしゃって、パートナーはこの2人のどちらかになるだろうと遠慮してしまいますが今はチャンスですもの。でもエレノア様はずっと忙しいから、考えられないって断っていて……いよいよ今夜なので、今、ああやってお誘いを受けてるんですわ」
「エレンもまだパートナー決まってないの?」
「早く誘わないと、取られちゃいますわよ」
マリアが言うか早いか、僕はエレンの元に駆け寄った。




