60.ライラとアルベルト 幼少時代編(アルベルト視点)
港の果物屋の裏で知り合って以来、ライラはちょくちょく俺のところに遊びにくるようになった。
最初にライラを家に連れて行った時、上の姉貴達に「アルベルトが街で女の子をひっかけてきた!」と散々からかわれた。
それでも、年の離れた小さな女の子に母性本能をくすぐられたのだろうか。髪を結ってやったり人形の洋服を作ってやったり、お菓子を作ってやったり……。俺の姉貴達はライラを大変可愛いがった。
妹たちとは同じくらいの年齢ということもあって、よい遊び相手だった。
しかし、ライラの1番はやっぱり俺なようで、そのうちに事ある毎に「あんたにこんな可愛い子が懐くなんて金輪際ない!」と姉貴たちが言うほどに、ライラは俺が行く所どこにでも付いてくるようになった。
俺には、ルイという名前の仲の良い男友達が一人いて、よく一緒にあちこち出かけては冒険ごっこをしていた。そんな所にも、ライラは必ず付いてくる。女の子で、それも4歳も年下。体格差や身体能力にかなり差があるものの、ライラは懸命に俺たちの後を追うのだった。
このころのライラには生傷が絶えなかったと思う。
なにせ、俺が「ここをジャンプできなければアルベルト団には入れないぜ!」と言えば、平気で塀と塀の間をジャンプするし、
俺の友達のルイが「あの木の上の鳥の巣から卵を採ってこれたら1人前だ!」といえば、さっそく木登りをする。
少年2人の、小さな女の子への配慮も何も無い仲間扱いで、ライラはたくさん傷だらけになったけど、その分相当鍛えられた。そして、何よりも楽しそうにしていた。
その日はルイの誕生日だった。
俺は小型の船でいける島にルイとライラを連れていこうと思っていた。
そこの島には俺たちの秘密基地があり、そこにこっそりルイへの誕生日プレゼントを埋めておいたのだ。プレゼントといっても、夏の間に拾い集めたセミのぬけがらとか、諸々だ。唯一価値がありそうなものは、母親のサイフからこっそり拝借した昔の女王の顔が描かれた銀貨1枚くらいだ。でも、そんなものが宝物になるくらい、俺たちの毎日は輝いていたのだ。
ライラに島に行こうと告げると、それまで楽しそうだったライラの顔が一変した。
「やめたほうがいい」
「なんだよ。いつも行ってるじゃん」
「今日は やめたほうがいい!」
急に叫ぶライラに、つられて声が大きくなる。
「誕生日じゃなきゃ意味無いだろ!」
「……たら?」
「え?」
「ルイがしんじゃったら って言ったの!」
「……ルイに死ねって言われたのか?」
「違う!ルイがしんじゃったって、アルベルトが言った!」
「言ってない!」
「言った!うまれる前に言ってたもん!」
ライラには不思議な所があって、この頃から前世の話をたまにすることがあった。前世などまったく信じていなかった俺は、女の子の空想だと思って、素敵な王子様や綺麗なドレスの話を適当に聞き流していた。「しょうらい つかうから」と、ダンスを教えろとも言われていたが、俺だって貴族様方が踊るようなダンスは踊れない。今回も、いつものように聞き流して黙々と船の準備を始める。ライラが俺を止めようと、俺の体を引っ張ったり押したりしているが、煩わしいだけで、何の成果もあげていない。
ルイもやってきたし、これで出航だ。
「おーい。ライラは来ないの?」
ルイの問いかけに、ライラはぶんぶんと顔を横に降った。
「何かあったら それ つかって」
ライラの指さす方を見ると、ベストの周りに空気の入った袋を巻き付けたようなものが3つ落ちている。これは、船に乗る時にいつもライラが持ち込んでいた謎アイテムだ。
3つ、ということは、俺とルイとライラの分なんだろう。
「やっぱりライラも来いよ」俺が言っても、ライラはやっぱり首をふるばかりだった。
「きゅうめいぐ つかって。浮くから」
そういうと、ライラは走ってどこかへ行ってしまった。




